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その二十九 美濃の蝮

利政の条件は信長の想像をはるかに超えていた。


いや、そのようなことを予期できる者などあろうはずが無かった。


利政は、帰蝶の弟の孫四郎を織田の嫡男に押し込む代わりに美濃一国をくれて寄越すというのだ。


まあ考えてみれば、いずれは孫四郎に美濃も帰することになるのだから信長の一時預かりということにすぎないのかも知れないがそれは随分と先のことである。


「・・・・・」


信長は考えた、いや考えるまでもなかった。


天下取りに夢中で、跡目のことなどどうでも良い信長にとって、かくのごとく "たやすい" 条件で美濃が転がり込んでくるのなら一も二も無く飛びつきたい密約だった。


信長は即断即決の人である。


後のことは如何様にも取りはからえる。


それにここは躊躇している様子を利政に見せるべきではないと直感した。


「よろしゅうございます。それで舅殿が帰蝶の身の置き所に御安堵されて今後とも禅正忠家を後見して下さるのならお安いものでござる。孫四郎殿とやらを "嫡男" としてお迎えいたしましょう」


それを聞いた利政は満面の笑みを浮かべて感謝した。


「ほんとか婿殿。よー言ってくださった。やはりわしが見込んだ男じゃ。これで何も思い残すことなく、いつでも、この世とおさらばできるというものじゃ」


心中利政は別のことを思ったが今はとにかくどんどん話を進めて織田に後戻りさせないことだと考えた。


孫四郎さえ帰蝶の元に送り込んでしまえば後は利政の意を汲んだ帰蝶がすべて善き様に取り計らう。


帰蝶は利政の才覚を受け継いだ陰謀の権化である。


利政の陰謀は成った。


信長がたとえ尾張一国に潰えたとしても、孫四郎には最低限美濃と尾張が受け継がれる。


それにもし、信長が利政の見込んだとおりに飛躍すればそれだけ孫四郎が受け継ぐものも増える。


信長が天下取りに励めば励むほど孫四郎の取り分が自動的に増えるのだ。


嫡男の義龍に絶望した利政にとってこんなうまい話は無い。


しかも信長の御台所で孫四郎の母となるのは利政の娘で孫四郎の姉の帰蝶である。


尾張に反発するものが現れようとも何とでもなろう。


これは事実上の美濃斎藤家による尾張の乗っ取りである。


こんなことを受け入れられるのは天下取りの野望に燃えて跡目のことなど些事でしかない信長相手だからこそ成し得ることである。


とにかく密約はなった。


この密約が後にどんな悲劇を信長と孫四郎にもたらすのか、我々歴史の表舞台を知る者はすでに答えを持っている。


しかし関が原にいたる長い道のりにこの陰謀と密約がどうつながっていくのかはこれからの楽しみとして今は伏せておくことといたしましょう。



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