その二十二 肩代り
「ところで又左 ・・・・ 」、おもむろに藤吉郎が切り出した。
「此度の調略の件だが、友情の証にそなたに手柄を譲ってやってもよいと思うておるのだが?」
「それは誠にございますか!」
犬千代は目を輝かせた。
「如何にも。剛直一本気な柴田殿が相手の此度の仕事、わしは正直気が乗らぬ。それにわしのような身分不詳で怪しげな者が柴田殿と相対するより、貴公のような氏素性も知れ無骨者で名が通っている者の方が勝家殿の好むところであろう。きっとそなたが誘いを掛けた方が事が上手く運ぶであろう。うむ、それが良い」
「本当にそう思われますか?」
藤吉郎に太鼓判を押されても犬千代は不安が拭えなかった。槍働きにならいくらでも自信があったが謀略、調略の類には全く馴染みが無かった。
「又左、戦とは悪戯に槍や弓を突き合わせるものではござらぬ、事前に敵を寝返らせ損害少なく勝ちを収められるならばそれに越したことは無い。家中の内輪もめであれば尚更である。わしは先代の信秀様よりそう教わってきた」
「先代様より ・・・・ 」
藤吉郎はどうにも苦手な柴田勝家の調略を犬千代に丸投げ出来る上に、犬千代に恩義を売って手懐けておける好機と読んだ。
単純な勝家の調略そのものはさして難しいものではないし、犬千代には小六と将右衛門を付けてやればへまをすることも無かろう。
・・・・ 勝家にはまだ自分の存在は秘しておいた方が良い ・・・・
胸の奥がそう知らせるのに藤吉郎は素直に従った。
「小六!、将右衛門!」
「ははっ」
「聞いた通りだ。柴田殿への調略、又左殿に任せる。其の方達でしかと補佐致せ」
「委細承知」
柴田勝家と面談したのは藤吉郎ではなく、まだ駆け出しの "槍の又左" であった。