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その二十一 槍の又左

「藤吉郎殿 ・・・・ 」


「固苦しいな。わしを呼ぶときは "さる" で良い。わしもそなたのことは "犬" と呼ぶゆえ」


犬千代は困惑した。身分も年齢も不詳とはいえ信長と差し向かいで談義するような藤吉郎を "さる" 呼ばわりはできなかった。


「犬とさるではまるで桃太郎にございまする、もちっとましな呼び方は御座りませぬか」


「はははは、良いではないか。そなたとわしはずっと織田桃太郎様の一番家来を競い合って鬼退治をする仲となるのだからな」


犬千代は恵まれた体躯はもとより、何より実直さと忠義者であることにかけては信長の配下随一と見受けられた。


馬上の犬千代は脇に手槍を携えていた。


「お犬大将は槍がお得意なのか?」


犬千代はにやっとすると手槍をくるくると回してぴたりと構えた。


なかなか堂に入った槍捌きである。


「如何にも、ゆくゆくは槍の又左右衛門と呼ばれる事を目論んでおりまする。此度は合戦に赴くわけではないのでこの短い手槍で御座るが、いざ合戦のみぎりには二間半の長槍で迫り来る敵をばったばったと叩きのめしまする」


「ほう ・・・ 。槍とはそのように敵を叩きのめすために使うものなのか?。わしは突き刺して使うものかと思うておった」


「勿論槍襖(やりぶすま)を立てて敵を威嚇したり槍先を揃えて面で征圧したりもいたしまするが、某が得意とするのは敵の最中に飛び込んでいって片っ端から叩き伏せ、それを手前の家来達が馬乗りになって首を掻っ切る作戦でありまする。結局はこれが兜首を一番多く取れる方法に御座います」


「なるほど、しかしそれでは命が幾つあっても足りぬであろうし、それなりの武将ともならば部隊をほったらかしていつも自分が真っ先に突撃ばかりもしておれぬであろう。その作戦をずーと続けていくおつもりか?」


「いやいや、名を上げるまでに御座いまする。槍の又左(・・・・)の異名が得られればそれで止めまする。そう云う呼び名は一生付いて回るもので御座います。若くて無理が利くうちに得意なことで名を上げておくので御座います。おさる殿のようにここ(・・)で勝負ができない某にはそんなことでもしておかねば信長様に飽きられたら捨てられてしまいまするゆえ ・・・・ 」


そう言いながら犬千代は自分のおつむを指差した。


「ははは、なるほど。しかと心得た。そなたの "槍の又左" の異名を広めるのに、わしが手を貸して進ぜよう」


「それは本当でござるか!」


「お安い御用よ、はっはははは」、そう笑い飛ばしながらも藤吉郎は犬千代を見直した。


・・・・ なるほど、信長さまが寵愛し重用しようとするに値する器よ ・・・・


藤吉郎は同道する前田犬千代の武将としての素質を見抜いた。

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