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その十九 権六

信長がいつも自分に敵対する者を容赦なく滅ぼしたかというと、必ずしもそうではなかった。


坂井大膳もかつて松葉城の攻防戦で信長と戦った際、その和平交渉の中で信長に才覚を買われ臣従に転じた経緯がある。


たとえ敵対する者であっても才覚や采配に優れた者は罪を許し重臣の地位を与え重用した。


その代表が柴田権六(勝家)である。


権六は織田信秀の代からの織田家家臣であったが、信秀から信長の弟の信行の家老に任ぜられていたことから、信長と信行との間で家督争いが起こると反信長の急先鋒となった。


信長の冷徹さは弟の信行に対しては容赦なく発揮されるのだが、それを支えた権六は己が家臣として欲した。


権六の何が信長にして惜しいと思わせたのだろうか ・・・・


すでに尾張の半国を手中に収めた信長は残り半国の国取りと弟信行との家督争いへの策を藤吉郎と練っていた。


「さる、この戦国の世で最も武勇に優れたる人物を挙げてみよ」


藤吉郎は間髪いれずに答えた。


「我が主、織田信長様と思うておりまする」


信長はにやりとしてから厳しい目で返した。


「わしとそなたとの間で胡麻すりなど無用であろう。正直に答えよ」


そう言われては、藤吉郎は今度は有り体に答えた。


「会ったこともありませぬが甲斐の武田晴信様、越後の長尾景虎様のお二人と存知まする」


今度は信長も納得した様である。


「わしもその二人が最も恐ろしい ・・・・ 」


・・・・ 恐ろしい? ・・・・


この冷徹にして恐ろしく頭の切れる信長様にも恐ろしいものがあるのか?


信長を良く知る藤吉郎にすら信長の言は意外であった。


「藤吉郎、わしは臆病である ・・・・ 」


「はっ?」


「わしだけではない。貴様も、竹千代も臆病がゆえに用心深い。

古くは清盛公も、頼朝公も、尊氏公も大きな権力を握るに至った者は皆臆病ゆえ権力の座に到達するまで生き延びることが出来たのよ。

生まれつき武勇にすぐれたる者は己を過信し、適わぬ相手に挑んだり、頑なに筋を通したり、義理を重んじ過ぎたり、攻め時を逸して逆襲されたりと、なかなか長生きが出来ぬものよ。

それゆえ臆病とは決して恥ずべき事ではない。むしろ誇るべきことである」


そこで信長は言葉を切った。


「だがなさるよ、この世には生まれながらに武勇に恵まれた者もおる。

貴様が挙げた武田晴信と長尾景虎もおそらくそうであろうし、天才軍略家であった鎌倉の次男坊も兄にそれを妬まれ、恐れられ、蝦夷(えみし)の地で果てることと相成った。

織田がこれから拡大を続けてゆくには今川どころか武田や上杉との対決も避けては通れぬ。

織田の家中で彼の者達と互角に渡り合っていくだけの武勇を持つものは ・・・・ 僅かである」


「それは、一体誰に御座いますか?」


「 ・・・・ 権六(・・)よ」


「柴田様 ・・・・ 如何にも ・・・・ 」


藤吉郎は十以上も年長の柴田権六に羨望を禁じえなかった。


「信行だけを排除し、権六は織田に残さねばならぬ。それが難題よ ・・・・ 。

なんとさえなれば奴にはお犬かお市をくれてやっても惜しゅうないとさえ思うておる」


「 ! 」


藤吉郎の柴田権六への羨望は嫉妬へと変貌した。

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