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その十七 生贄

信長と藤吉郎が筋立てした国取りの謀略に於いて、斯波義統(しばよしむね)の役回りは殊更(ことさら)重要であった。


その陰謀のあらましについては将右衛門の口から語られた。


「義統様は事あるごとにこの "明の茶碗" を自慢して下さいませ。

どこで手に入れたか尋ねられたら、信長様からの貢物であることをそっとお漏らし下さいませ。

如何にも、『御内密に ・・・・ 』、との素振りが大切に御座いまする。

内緒話のほうが周囲に伝わるのが早う御座いますゆえ ・・・・ 」


義統の演ずる役回りは至極簡単なことであった。


信長は、清洲に義統と信長がすでに昵懇であるとの噂を流布しようと画策していた。


将右衛門は更に念を押すように。


「そしてこれが大切で御座います。

その際忘れずに、『尾張一国を任せられるのは若いが見所のある織田上総介である』と、お付け加え下さいませ」


そこまで聞かされれば、いくら名門出でお人好しの義統でも合点がいった。


「信友を焦らせ挑発するのだな?」


「さすがは義統様に御座います。信友様は名目上とは云え、信秀様の代よりの信長様の主筋で御座います。

如何な戦国の世とは申せ、信長様の側から戦を仕掛ける訳にはいきませぬ。

義統様は信友様が合戦の準備に入ったのを察知されましたら、密使を立ててすぐに我々にお知らせ下さい。

信友様の方から戦を仕掛けさせれば信長様は堂々と信友様を討つことが叶いまする。

如何ですかな、義統様 ・・・・ 」


将右衛門の話を聞いた義統は、やや拍子抜けした。


「何だ。それしきの役回りでよいのか?。いとも容易(たやす)きことではないか。それで本当に信友を討つ大儀が立つのだな?」


「ははっ、間違いなく ・・・・ 」


将右衛門が請合い、藤吉郎が頷いた。


しかし藤吉郎は心中この人の良い名門の出の守護職を利用するだけ利用して、謀略の生贄にすることに少なからず罪悪感を感じていた。


信長のように罪悪感の欠片(かけら)もなく他人を陥れられる冷徹さは、いったい何処から来るのだろう? ・・・・ そう、畏敬とともに不思議に思うときがある。


信長の、その薄氷を踏むような酷薄さが、いつか信長自身の命取りにとならぬよう信秀様は己を信長様に与えたのではないだろうか?


藤吉郎はそのように悟っていた。


自分が信長様にお仕えする限り、信長様の冷徹さは益にこそなれ災いにはけっして転じさせぬとの決意も新たに、藤吉郎達一行は清洲を後にした ・・・・

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