【コミカライズ連載記念SS】幸せな朝食とレア化粧水
朝、目覚めると、コーヒーとトーストの香りが部屋いっぱいに漂っていた。
ほどよい焼き加減の目玉焼き。
こんがりトースト。
甘くないカフェオレ。
私の好みは、今日もフェリアス様に熟知されている。
「おはよう、アイリス」
目覚めた直後の好きな人の笑顔は、心臓に悪い。ベッドから起き上がると、フェリアス様が私の額に口づけしてきた。
――慣れないわ!?
一緒に暮らし始めて、どれくらい経っただろう。今でも笑顔に胸が高鳴るのは、王国一の美貌のせいだろう。
ため息が聞こえた。
まだ夜が明けたばかりだが、フェリアス様はもう筆頭魔術師の制服に着替えている。
今日もフェリアス様は、忙しいのだ。
「……行きたくない」
けれど彼は、別に仕事を嫌がっているわけではない。
「アイリスと一緒にいたい。離れたくない」
私と離れることを嫌がっているのだ。
今朝もフェリアス様の愛は重い――。
「アイリスのコーヒーとトーストが冷めてしまうな」
「フェリアス様は?」
「コーヒーだけでいい」
「ダメです。半分こにしましょう」
私のことばかりで、すぐに自分を後回しにしてしまうフェリアス様のことが心配だ。
でも、どうしてここで頬を赤くするのか。
可愛いけれど、彼の照れるポイントが、私には未だによくわからない。
トーストを半分にする。サクリと小気味よい音。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
用意してくれたのは、フェリアス様なのだから、そんなに嬉しそうに笑わないでほしい。
「愛してる、アイリス」
「私も――大好きです」
頬に伝わる唇の感触。
でも、こんなに甘いのに、私たちの距離はまだちょっぴり遠い。
「早く帰ってきてくださいね」
「最速で片付けてくる」
フェリアス様は笑ったけれど、その瞳からは光が失われてちょっと怖い。
何を片付けてくるつもりなのか、気になる。
「いってらっしゃいませ」
「いってくる」
バサリ、筆頭魔術師のマントが音を立てた。
転移魔法をこんなに簡単に使ってしまうなんて……。
鮮やかな魔法に感動しつつ、私はカフェオレを口にする。
――濃さも温度もミルクの量も。
今日のカフェオレも、完璧に私好み。
でもそういうのが、嫌じゃない。むしろ好き。
さて、今日はどんな化粧水を作ろうか。
月の光を集めて輝く銀の花。
妖精が好む花の蜜。
森の奥の神木から滴るアルコール。
『レア素材は二種類までにしておけ、化粧水じゃなくなる!』
ガーランドさんの苦言が脳裏をよぎる。
「三つくらいなら、大丈夫なのでは?」
私は立ち上がり、フェリアス様が私のために用意した化粧水研究室へと向かうのだった。
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コイハルvol.43表紙&巻頭カラー
ねずみ先生によるコミカライズ連載開始です。
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