公爵令息と魔人
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最近ロイの魔力が安定しない。
当然だろう。この、金色をした魔力は魔人の姫から受け継いだものだ。
「そろそろフェリアスに相談したほうがよさそうだな……」
人間の器には、収まりきらない。ましてやロイの魔力量は、フェリアスやアイリスよりも多い可能性がある。
「マーリン……? また、どこかに出かけていたの」
「まっ、俺にもいろいろあるんだよ」
「そっか……」
ロイと行動を共にし始めてから、まだ数カ月。ずっと一緒にいたような気がする。
ぬいぐるみの体なのに風呂に入れようとする以外は、物わかりのいいロイ。
――――なんとなく、ロイの元気がない。
その時、ロイの足元が金色の閃光を放ち始めた。
「もう少し、時間があると思ったのに」
そもそも、最高の火力を持つ光魔法。暴走してしまえば、この屋敷の被害だけではおそらく済まないだろう。それは、確実にロイのことも巻き込んでしまう。
「これ……アイリス姉様が言っていた魔力暴走? マーリン! 僕から離れて」
「――――本当にロイは、年相応の可愛さというものがない」
「え……」
ロイの手を乱暴に掴んだ。と言っても、ぬいぐるみの体だ、もふっと触られたくらいにしかならないだろう。でも……。
「ロイは俺が、いつも一緒にいる友人を見捨てるような薄情な奴だと思っているのか?」
「思わない! でも……このままじゃ。う……」
「俺に任せればいい……ほら、俺とロイの魔力は間違いなく相性がいいんだから。俺のことを信じて目を瞑っていればいい」
「――――マーリン……」
アイリスにそっくりな、その氷のような瞳を閉じるロイ。
マーリンは、ゆっくりと魔力を受け入れていく。
紫の魔力の中、金色の魔力が、まるで真夜中に夜空に突如現れた彗星のように流れていく。
「あー、魔力の許容量……相当あるはずなのに。この年齢でなんだこれ? ま、いくら性能が良いといってもこんなぬいぐるみ程度に、ロイの魔力が収まりきるはずもないよなぁ」
「――――君は……?」
「……これで、魔力貰ってた恩は一回完済にしろ?」
いつの間にか、ロイの前にいたのはロイよりも少し年上でアイリスより少し年下に見える少年。銀の髪の毛にアメジストみたいな魔力と同じ色の瞳……。
それは、いつの間にか蒼から色を変えたうさぎのぬいぐるみの瞳の色と同じものだった。
いつも一緒にいた、大事な友人が笑う顔を初めて見たとロイはぼんやりと思う。
まるで、ずっと前からこの姿だったんじゃないかと思うくらい、違和感なく彼がマーリンなのだとロイは理解する。
「――――まったく。また少し眠るから……。しばらく一緒にいられない、無茶するなよ」
「マーリン?!」
「あー、それにしても、本当にそっくりな魔力の色だな」
その言葉を残して、うさぎのぬいぐるみは床に落ちる。
そこには、ただのうさぎのぬいぐるみだけが残されていた。
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イラストは木ノ下きの先生に描いていただきました。加筆改稿書き下ろしたっぷりの電子書籍版もどうぞよろしくお願いします(*´▽`*)