海底神殿と氷山
もったいない。そう思ったのも束の間、眩いほどの白銀の光が溢れて、気がつけば目の前には海辺に建つ神殿があった。
――――また、夢の中に来てしまった?
そう一瞬思ってしまい、なんとか逃げないとと思った瞬間「お! いつもと違って、全部が海から出てるな?」と言うどこまでも明るい声に思考が中断する。
振り返ると、そこには最高の笑顔という言葉がふさわしいガーランドさんと、眉間を押さえたリリードさんがいた。
現実だったことにホッとするのも束の間、現実にしてはあまりに壮大な出来事に唖然とする。
だって、私は中身はファンタジー世界とは無縁の人間だったし、公爵家令嬢として外の世界を知らずにいた。
「この世界では、これは普通のことなんですか」
「ああ、そう……」
「な、訳ないだろうガーランド! こいつの普通を普通と認識してはいけません」
常識人のリリードさんが、破天荒なガーランドさんを止めると言うのが基本らしい。
それはそうだ。こんなふうに、海から神殿が現れるなんてことが、しょっちゅう起こっていたら大変だ。
「この期間だけ、ある条件を満たすと現れる神殿だ。この情報を掴むまでに、三回は死にかけたな!」
笑顔のままそんなことを言うガーランドさんに、私は思わず固まる。
大袈裟だと言うには、S級冒険者という肩書きが重すぎる。
「見つかる前に、さっさと行こう」
何に見つかるのだろう。
「あの、凶悪な魔獣とか出ませんよね?」
「ここには出ない。でも、凶悪さは魔獣以上かもしれないな」
その瞬間、神殿周囲の海水が全て凍り始める。
今、話していた存在が現れたに違いない。
そして私は、この魔力を知っている。
――――海水を凍らせるなんて……。
まあ、実際に凍るのは水の部分だけど……。などと、理科の知識を持ち出して現実逃避する私。
「なんでここにアイリスがいるの? ガーランド、もちろん説明できるな?」
「ちっ。見つかったか」
「リリード、お前がついていてこれはどういう事態だ?」
「面目無い」
フェリアス様が、怒っている。このまま魔力が暴走してしまえば、この周囲には氷山が出来上がりそうだ。
「アイリスも……。ここがどんな場所かわかっている? 俺がここを見つけるためにどれだけ……」
たぶん、フェリアス様の目的はここだった。魔術師団の用事と言っていたけれど、おそらく私のために海底神殿を調べにきたのだ。
「ガーランド、どうして教えてくれなかった」
「いくらお前でも、ここに一人で来たら死ぬだろ? お前の魔力とは相性の悪い場所だ」
「…………」
たぶんそれは事実だ。この海底神殿を沈めていたのは、白銀の魔力。フェリアス様の魔力と良く似ている。
たぶん、この神殿の中でフェリアス様が魔力を使うと最悪の場合、神殿が沈んでしまうかもしれない。
「転移魔法があるから平気だ」
「はぁ。それじゃ、調べる前に沈んでしまう。また、一年待つのか」
黙ったままのフェリアス様。それでも、周囲の魔力が収束していく。冷静になった証拠だ。
――――すごい、ガーランドさん。
ああなったフェリアス様を抑えられる人、私以外に初めて見た。フェリアス様に、渾身の言葉を二人を前にしてかける恥辱を味合わずに済んでホッとした。
「そうだな? だが、アイリスを危険に晒したことは別問題だ」
落ち着いたと思ったフェリアス様が、再度周囲を凍らせ始める。
今度こそ私は「会いたかったです!」と、羞恥心を捨て去ってフェリアス様に抱きついた。
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