海底神殿
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私のテンションは猛烈に上がっている。
「海だ!!」
「ん? お嬢ちゃんは見るの初めてか?」
「そうですね」
あくまで、今世での話だけれど。
どちらかと言えば、山より海が好き。
もっと言えば、自分の部屋が一番好きだった。
「……海の向こうには、違う大陸があるんですか?」
「……さあな?」
「え?」
「この海の遥か向こうは、滝になっていてその先に何があるのかは、誰も知らない……。神の国があるとも言われているが」
「神の国……ですか」
「ああ、鉄の箱が猛スピードで走り、空を飛ぶ。人々は空まで届きそうな建物に住み、魔法ではない不思議な力で暮らしているらしい」
――――それって。
思い当たることがありすぎて、もう何も言えない。
「……そう、ですか」
もしかしたら、私が元いた世界に繋がる場所が、この海の向こうにあるのかもしれない。
それでも、そこまでの郷愁は感じなかった。
だって、私がいなくなったらフェリアス様はきっと……。
雑念を振り払うように頭を振った。
「さ、行くぞ」
「どこに行くんですか?」
「海底神殿に決まってる」
「でも、海の底にあるんですよね? どうやってガーランドさんは……」
ニヤリと笑ったガーランドさん。何か方法があるらしい。さすがS級冒険者。
「お嬢ちゃん、人魚の涙持ってきてるな?」
「はい。持ってこいってガーランドさんが言うから、ちゃんと持ってきましたよ」
本当は、この石に触るのは少し怖かった。また、夢の中に飲み込まれたらと思うと。
光の当たる明るい海の色、そして深海のフェリアス様の瞳みたいな深い青へのグラデーション。
たぶん、宝石としての価値も高いだろう。
でも、ペンダントに加工する気にはなれない。
「よし。この辺だな」
ガーランドさんが立ち止まった場所は、小さな湾になっていた。
「ここに、その石を投げ込んでくれ。あ、できるだけ魔力を込めてからな?」
私は、そっと人魚の涙を握ると、祈るように魔力を込める。
――――リーティア。
その瞬間、聞いたことがあるような声がした。
「え?」
「うん、上出来だな」
我に帰ると私が魔力を込めた石は、ガーランドさんの手で、遠くに投げられていた。
放物線を描いた石は、ぽちゃんと落ちて波間に消えていった。
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イラストは木ノ下きの先生に描いていただきました。加筆改稿書き下ろしたっぷりの電子書籍版もどうぞよろしくお願いします(*´▽`*)