魔人うさぎと公爵令息
「アイリス姉さま……」
ロイの瞳が、真っすぐに私を見つめる。そして、普段のように私のことを呼ぶ。
そのことで、ようやくロイを取り戻せたと実感する。
「僕、たしかフェール公爵の領地に……」
――――ずいぶん、大物のところに行くところだったのね。
おそらく、ロイがいなくなって、シェラザード公爵家は今頃大騒ぎだろう。
「フェール公爵とは、いつ会う予定なの」
「3日後です……あの、アイリス姉さま」
おそらく、今日がフェール公爵と会う予定の日になる。
どんな理由であれ、シェラザード公爵家と同等の地位を持つ、フェール公爵との約束を反故にするのはロイの今後のために悪影響がある。
「フェリアス様……」
「アイリス、構わない。俺が……」
「俺が送って行ってやる」
ぴょんっ、とロイの腕に飛び込んで魔人うさぎが宣言する。
「まーくん……」
「わ、アイリス姉さまのぬいぐるみがしゃべった!」
素直に驚くロイは、やっぱり年相応の少年に見える。
それにしても、ロイに動けることを教えてしまってよかったのかしら?
「ロイ。俺は、フェリアスの力強い仲間だ。だから、お前のことを守ってやる」
「わあ。ありがとう! 君の名前は?」
「まーく……」
「マーリンだ!!」
ロイが、魔人うさぎを抱きしめた。
あっ、すごい。すごい可愛すぎてアルバムに写真をしまい込みたい。
「これも、フェリアス兄様の魔法ですか?」
「――――ん?」
「ああ、そうだ。なあ、フェリアス?」
「あ、ああ……」
まーくんは、ロイについて行きたいらしい。しっかり張り付いている姿を見ると、ロイのこと気にしてくれていたのがよくわかる。
「たまに魔力を分けてくれれば、契約成立だ」
契約って、なんだかいかがわしい感じがするわ。
しかも、まーくん魔人でしょ? 魔人と契約って、よく考えればずいぶんと大事じゃないの?!
「本当? ずっと一緒にいてくれるの」
「そうだな。ロイが、王都から離れる時は一緒にいてやる」
「うーんと、こんな感じ?」
嬉しそうに、魔人うさぎを抱きしめるロイ。
そして、ちょっと偉そうにお兄さん風を吹かせているまーくん。尊い。
しばらくするとロイの体から、金色の光が溢れて、魔人うさぎの体だけを正確に取り囲んだ後、その光は消えた。
――――あっ。止める間もなく契約とやらが成立してしまったようだ。
「契約成立だな。アイリスはもちろん、なんならフェリアスより、魔力の制御が上手いんじゃないか……」
「そうかもな……。マーリン、戻ったばかりで大丈夫なのか」
「――――フェリアス。この体、ずいぶん良くなってる」
「ああ、リリーが改造したからな」
まーくんは、表情が変わることのない、魔人うさぎの中にいながら、いかにも嫌そうな雰囲気を醸し出す。
「リリーか……、でもこれ改造で済ませていいレベルじゃないと思うけど。ま、いいか。これなら問題ないだろ。ただし、ロイ。俺のことちゃんと連れ歩け? 長距離飛んだあと、この体で動くのはきついから」
「うん。約束する!」
「――――アイリス」
まーくんは、ぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、私の方を振り返った。
「弟の前でいちゃつくのは、ほどほどにしろよ?」
そんな言葉を残して、まーくんとロイは消えてしまった。
「……えっ」
私の頬は、真っ赤に染まる。たしかに、さっきのフェリアス様と……。
ロイにも見られていた?
「――――ロイに見られていなければ、いいってことかな?」
そういって、瞳を三日月に細めたフェリアス様に追い詰められながら、「ロイの前では全力阻止しよう……」そう私は決意した。
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イラストは木ノ下きの先生に描いていただきました。加筆改稿書き下ろしたっぷりの電子書籍版もどうぞよろしくお願いします(*´▽`*)