人質と公爵令嬢
✳︎ ✳︎ ✳︎
私は自室で一人ぐったりとしていた。
あんなに、私の精神をえぐってしまうような言葉を連発できるフェリアス様は正直にすごいと思う。でも、昔からあんなに甘かっただろうか。
まだ、幼い頃のフェリアス様の天使みたいな笑顔を思い出す。ああ、そういえば可愛かったな。
私の唯一の癒しだったフェリアス少年はいったいどこに行ってしまったのだろう。
今のフェリアス様は、癒しというにはあまりにも刺激が強い。
今朝早く、フェリアス様はまたどこかに行ってしまった。たぶん、私のために動いてくれているのだろう。きっとそれは間違いないから。
「私にもできることないかな?」
私は、まだ果たせていない約束のために、エリクサーの残りを作ることにした。前回沢山の材料を貰ったのに、ハプニングのせいで中断してしまっていたから。
ガーランドさんは、待っていてくれているみたいだけど、このままでは利子がかさむばかりだ。あまり借りを作ったままでいるのは、フェリアス様の交友関係にも良い影響がないだろう。
ほどなく、エリクサーが出来上がった。以前より輝いている気がするわ……?
ロイの足さえ治してしまったエリクサーの力。光に比例するなんて思いたくないけれど。
その時『アイリス!逃げろ』というまーくんの声がした気がした。私は慌てて完成したエリクサーをポシェットにしまう。空耳? と思った時、ルシアがロイの来訪を告げた。
先ぶれがなかったけれど、可愛いロイに会えるのは嬉しい。でも、どうしたのかしら。今日はフェリアス様がいないから、魔法は習えないのだけれど。
それに、昨日からまたロイは遠方の貴族に挨拶をしに行くって言ってなかったかしら。
密かな違和感が大きくなっていく。
「よく来てくれたわね。でも、残念ながら今はフェリアス様はいないのよ」
「知っています。姉上……」
「ロイ……?」
すべてを諦めてしまったみたいな瞳。
私の心の中をますます大きな違和感が占め始める。この顔、私は見たことがある。
そう、今の彼は車いすに乗っていないけれど、もともとのロイは……。
「ね?姉上の破滅に僕を巻き込まないでください」
「ロイ……」
そんなことをロイが言うはずがない。でも、私は知っている。こんな風にしゃべるロイのこと。
それは、乙女ゲームの悪役令嬢の弟としてのロイ。
悪役令嬢の断罪とともに、辺境の領地に送られてしまう彼は、他のシナリオではアイリスに破滅をもたらす存在ともなる。
「あなたが巻き込まれるなんて……」
「一緒に来てくれますよね?姉上」
私には、差し出された手を掴む以外に選択肢がない。
だって、ロイは私の大事な弟なのだもの。
大事な弟を人質に取られてしまった私に、選べる選択肢はほかになかった。
「アイリス様!」
「やめて!ロイに傷をつけたら、いくらルシアでも許さない!」
抜剣したルシアが、ロイに斬りかかろうとするのを、体を張って阻止する。
「行きましょう。ロイ」
「ええ、姉上」
暗い目と、子どもには似つかわしくない微笑みが私の胸を締め付ける。
「見えているよね……。ロイ、姉さまは大丈夫だから。ロイの事、絶対に助けてみせるから」
私と同じ状況なら、ロイには私の姿が見えているに違いない。確信して私はロイに微笑みかける。
大事な弟まで巻き込む運命も、魔人も許せない。
そして、大事な人を巻き込まなければ生きていくことができないらしい自分の事も。
「フェリアス様に謝っておいて」
「アイリス様」
フェリアス様は、きっと私が選んだある意味愚かな選択のためにまた、命をかけてしまうに違いない。そんなの嫌だ。そんなこと……。
それでも、私は精一杯の笑顔でロイの手を取る。
その瞬間、世界が歪んで、私はまた暗い空間に一人立っていた。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。




