魔人の姫と公爵令嬢
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リーティアが、私の前に立つ。
本当に私の色合いとそっくりなリーティア。
淡い金髪、氷のような淡い水色の瞳。
けれど、今はきっとリーティアの中の人は、魔人の姫と呼ばれる人だ。
デュランが愛するのはリーティアの中にいる彼女なのだと今ならわかる。
それともこれは、鏡だろうか。
私は鏡に映る彼女と向かい合っているのだろうか。
それとも鏡に映っているのは私の方なのか。
「ごめんなさい。あなたの体を奪ってしまった」
悲しそうにリーティアが、つぶやく。
語りかける相手は、たぶんリーティアが転移した体の持ち主。彼女は、自分の中に眠る公爵令嬢と話をしているのだと、私はそう理解した。
「そう、あなたの目的は私と同じね……。それに、好きになった人も」
白銀の魔力。誰よりも美しく、強い筆頭魔術師。
――――でも、あの人はフェリアス様ではないわ。だからあなたの好きな人と、私の好きな人は同じ人ではないの。
「それでも私は、あの人のいる世界も魔人たちの故郷も守りたい。大好きな人たちが戦い続けるのを見ているだけなんて嫌なの」
冷たい表情、私にだけみせてくれる優しい笑顔。
リーティアの言葉を聞いて脳裏に浮かぶのは、いつのまにか私の前では随分表情が豊かになったフェリアス様の姿だった。
「フェリアス様……」
その日見た夢は、なぜかとても悲しくて。切なくて泣きながら目を覚ました。
私の大好きな……。私の守りたい人。
そっと涙が拭われて目を覚ます。目の前には、大好きな人が心配そうな表情で私を見ていた。
「怖い夢でも見た?」
「いいえ……。不思議な夢でしたけれど。それにしても起きた時、フェリアス様がいてくれて、幸せです」
「――――え?」
フェリアス様が、信じられないとでも言うような表情を私に向けた。
これくらいは言ってもいいと思う。いつもフェリアス様から、重くて甘い言葉を貰ってばかりだから。
「アイリスが許してくれるなら、その寝顔をずっと見ていたいけど?」
――――うん。寝てください?
今日もフェリアス様の言葉の重さには負けてしまった。フェリアス様は、言葉は重いのに、私と一緒に寝るとかいう発想はないようだ。
「魅力……ないでしょうか?」
「えっ?アイリスには魅力しかない」
「えっ?」
「アイリスには魅力しか」
――――もう大丈夫です!
慌ててフェリアス様の口元を手のひらで覆う。
目元だけでにっこりと笑う最近のフェリアス様は、私の反応を楽しむために、あえてそんなセリフを言っている節がある。
顔が燃えるように熱くなって、私は動揺のあまり何の夢を見ていたのかすっかり忘れてしまった。
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イラストは木ノ下きの先生に描いていただきました。加筆改稿書き下ろしたっぷりの電子書籍版もどうぞよろしくお願いします(*´▽`*)