筆頭魔術師の弟子
あれからロイは、時々フェリアス様の屋敷を訪ねてくるようになった。
フェリアス様に、魔法を習うため。
「どちらかと言うとアイリスに会いたいからだと思うけど」
あいかわらず、フェリアス様の思考回路は不思議なことに私中心だ。ロイはあんなに真剣に、フェリアス様に教えを乞うているのに。
でも、ロイは来るたびに何か私にお土産を持ってくる。先日は、見事なレースのリボンだった。お土産のセンスまで良い。将来がある意味心配だ。
「フェリアス兄様みたいに、たった一人を愛したいです」
そんな台詞に安心したと同時に、5歳児の台詞なのかとますます私の不安は増すばかり。
最近では、父とともに高位貴族を訪れて顔繋ぎをしているらしい。その帰りには、私にお土産を買うのが恒例になっているのだとうれしそうに教えてくれた。
ロイの優秀さは、あっという間に社交界に広がり、次女のローディアと結婚したものがシェラザード公爵家の次期当主になるというほぼ確定されていた未来は覆されつつある。
でも、そうなると心配なのがロイの安全だ。
「フェリアス様……。ロイは大丈夫なのでしょうか」
「――――たぶん、アイリスよりずっと安全な立ち位置だと思うけれど」
公爵家の跡目争いが、私の立ち位置より安全なはずないと、私は頬を膨らませる。
「……そうだね。アイリスは守ってみせるから、それにロイはアイリスが思うよりずっと強いよ」
「でもまだ、5歳です」
もうすぐ6歳になる。でも、完全に子どもだ。
ちょっとスパルタすぎるのではないだろうか。
「――――ロイはもう、初級なら攻撃魔法も回復魔法も使えるようになったからね」
「え? まさか」
私なんて、いまだに初級回復魔法だけようやく使えるのに。
「最近俺は、聖騎士なんて中途半端な仕事をシェラザード公爵家に押し付けていたのは、公爵家が持つ魔術師としての才能を隠そうとした誰かがいたからじゃないかと思っているくらいだ」
6歳で、攻撃魔法も回復魔法も使える人の話なんて、今まで聞いたこともない。
その時、侍女のルシアがロイの来訪を告げた。
「アイリス姉様!」
勢いよく、私に駆け寄って抱きついてくるかわいい弟。私は、なんとしてもこの笑顔を守ろうと心に誓う。
今日のロイからのお土産は、北方でとれる雪の結晶の形をした水晶を詰めた小瓶だった。
「可愛い……」
「喜んでもらえて嬉しいです。さあ、フェリアス兄様、今日もよろしくお願いいたします」
「あっ、あの。ロイ!」
フェリアス様と、魔術の練習をするため部屋から出ようとしたロイが振り返る。
「アイリス姉様?」
「あの、あなたちゃんと遊んでいるの?」
その瞬間、ロイがおかしなことを聞いたみたいにクスッと笑った。
「僕にそんなこというの、アイリス姉様くらいですよ。……いいですね、よかったらあとで一緒に遊んでもらえますか?」
大人びた表情のロイ。
――――これじゃまるで、私の方が遊んでほしかったみたいじゃない。
「それじゃ、訓練の後でアイリスを頼むよ」
フェリアス様までロイの頭に手を置いて、笑顔でそんなことを言うから、私は盛大にむくれた。
最後までご覧いただきありがとうございました。
このあと、いくつか番外編投稿後、3章に入ります。
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