魔術師団長と聖女
リリーチュールの、店の奥に案内された私とまーくん。重苦しい沈黙が流れる。
「……それで、これがどういう状況なのか説明してもらえるのかしら?」
話してもいいのだろうか。ここまで来ておいて、リリーさんのことを巻き込んでもいいのだろうか。
頭の中で、グルグルとそんな思考が巡るばかりで、返答をできない私を見て、リリーさんがため息をつく。
「少し失礼するわ?」
そういうと、私の頭に手を乗せるリリーさん。思ったよりも大きな手は、私の頭をすっぽりと包んでしまうみたいだ。
その瞬間、私が思い出そうとしていないことまで、多くの情報が溢れ出した。
「――――そう。そういうことなの。……それ以上に、だいぶ引くわ筆頭魔術師殿の執着に。よく平気ね?アイリスは」
そう言って若干顔色を悪くしたリリーさん。
「勝手に記憶を覗いて悪かったわ。でも、私を巻き込むとか気にしないでいいの。魔術師団長として、生贄の件から守れなかったこと、お詫びするわ」
そう言って、リリーさんは頭を撫でてくれた。その瞬間、フェリアス様がリリーさんの手首を掴む。
「ふふ。何かしら?」
「――俺じゃないからな?!」
フェリアス様の顔をしたまーくんが、蒼白になって全力否定している。
「すごいわね。これだけ強力な魔法に縛られていても、まだ動けるの?これが意思の力ってやつかしら。興味深いわ」
今、動いたのが、まーくんでないのだとしたら。
「フェリアス様!」
蒼い瞳に紫の光を宿したまーくんが、少しだけ辛そうな顔をした。
「とりあえず、筆頭魔術師殿は無事そうだから、話を進めるわ」
リリーさんが、フェリアス様の瞳を覗き込む。
「すごいわね。これが魔人の実力ってやつなの?ところであなたは、外に出られるのかしら?」
「……フェリアスが起きないとな?俺はこのままでも困らないけど」
「そうよね?制約なくそんな力が使えたら、とっくに扉なんて開いて、ここは魔人の世界になっているわよね」
「そうかもな?俺たちが別にそんなこと望んでいないとしても」
リリーさんとまーくんの雰囲気がピリピリしている。戦い始めたりしないで欲しい。
「それが魔人の答えなの……。まあ、どちらにしてもそういうことなら、筆頭魔術師殿に起きてもらうしかないわけね?」
チラリとリリーさんが私の方を見る。
「まあ、アイリスに頑張ってもらうしかないのよ」
「私にできることがあるんですか?!」
「……あるわ。でも失敗したら、永遠に夢の世界を彷徨うのよ?それでも」
「やります!」
食い気味に答えた私を少し驚いたように見つめて、そのあとリリーさんは大声で笑った。
「あはは!怯えているだけのお姫様かと思ったら。その目!その返答!良いじゃない気に入ったわ」
そんなに笑うところだったろうか。でも、笑い終えた後「覚悟があるならばついてくるように」と低い声で言ったリリーさんの雰囲気は完全に変化していた。
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