魔術師の中の魔人
魔人うさぎが、ただのぬいぐるみになってしまっている。持ち上げると、くたりと力なくその手が下がった。
「無事、目覚めたか」
「――――まーくん」
ベッドに座って、フェリアス様がこちらを覗き込んでいた。憮然とした表情が、いつものフェリアス様と全く違った印象を醸し出している。
「……助けてくれてありがとう。まーくん」
「同じ魔人が聖女を不幸にするのが許せなかっただけだ。それに、フェリアスはまだ」
「それでも……。まーくんが、奥の手なんて言うってことは、もしかして」
「――――アイリスが妙に察しがよくて気持ち悪い」
それはひどいと思う。一応公爵家令嬢として、貴族間の水面下の争いを経験しているんだから!
中から見ていただけだけど。
「まーくん……。大丈夫なの?」
「今はフェリアスの心配をした方がいい。まあ、あいつのことだ。多分、こちらの状況は中から見えているんじゃないか?ま、俺がここにいる限りは、食事もできるし特に命に別状はないけど」
フェリアス様と、断罪前までの私の状況は似ている。やっぱり、あの魔人が私のことを……。
「心配するな。フェリアスの中に入っている間、多分俺はあいつより強い。守ってやれるから、その間にフェリアスを表に出す方法を探せばいい」
それは多分、とても難しいことだろう。フェリアス様だって、断罪が終わる直前にようやく私を助け出してくれた。
そして、私が頼ることができる人ですぐ会うことができるのは……。
「リリーチュールに連れて行って」
「うわ、あいつのところか!俺の方が引き摺り出される未来しか浮かばない」
そんなことを言いながらも、何だかフェリアス様の体に馴染んできたようなまーくんが、私の手を取る。
いつも温かいフェリアス様の手は、今とても冷たくて。握る力も、いつものフェリアス様よりも強くて少し痛い。
「行くぞ?」
時々、フェリアス様の深い蒼をした瞳の中に、紫色の光が反射する。
まーくんにも、転移魔法は使えるらしい。むしろ、傍目に見ていても、フェリアス様以上に自然に魔法が紡がれる。
「あの、その魔法」
「なに?転移魔法を俺が使ったらおかしいか?もともと魔人の世界の魔法だぞ」
次の瞬間、リリーチュールの前にいた。正面玄関には、臨時休業の札が下げられていて、代わりに腕を組んだリリーさんが目の前に立っていた。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。