言葉を不要にするために
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リリーチュールのお店から出た私は、何故かとても疲れていた。情報量が多すぎる……。
ふと、フェリアス様の首元に目を向けると、私の瞳の色の石と、フェリアス様の瞳の色をした石が仲良く並んでいた。
私の視線を感じたのか、フェリアス様がそっと首元の石を撫でるように触れる。
そんなの見せられたら、心臓まで苦しい。
「やっぱりここにアイリスの魔力を感じられると魔力の調整がしやすいな」
「そう……ですか?」
頬が熱くなっていくのを止めることができない。
「ここだけの話、筆頭魔術師とか言われているけど、魔力の出力調整がとても苦手なんだ」
「そうなんですか?でも、転移魔術とか時間を止めるとか緻密な魔術構築が必要ですよね?」
まるで大切なものを守るみたいに、氷の色をした石を握りこむフェリアス様。
「そういうのは、多少魔力を多く注いでも結果はそれほど変わらない。でも、攻撃魔法は違う」
「じゃあ、王都をどうとか以前言っていたのは」
「師匠に呆れられるほどに、攻撃魔法の制御ができない。だからあの時もアイリスを傷つけそうになって、時間を止める以外に方法がなかった」
あの時って、王太子達を私が庇おうとした時のことね……。たしかに、魔法の力が強すぎたし、途中で止めることも難しそうだった。
それで時間停止の伝説クラスの魔法を使うというのも凄すぎる話だけれど。
────王都を消し炭にっていうのは、故意にではなくて結果としてそうなってしまうということ?
「俺のこと怖い?」
「怖くないです」
「──俺は怖い。アイリスをいつか本当に傷つけてしまうかもしれないから。そうなった時、きっと俺は」
「フェリアス様は私を傷つけたりしませんよ」
フェリアス様には、魔力暴走を起こした後も何かがあったのかもしれない。そのとき私は、そばにいることができなかった。でも、今は。
「私がそばにいます」
魔力の出力は、感情に左右される。フェリアス様の魔力の出力が安定しないことに私は思い当たることがある。
悪役令嬢アイリスを守る。
それがどれだけ、運命に逆らうことなのか。心に負担を負うものなのか。
断罪が終わっても続く私の運命には、どうも破滅フラグがまだまだ散りばめられているみたいだから。
「俺から離れないで」
「離れろと言われても、離れられません」
「幸せになって」
「あなたと幸せになります」
「好きです」その一言は、なかなか言えないけれど。
言葉を不要にするために、口付けは口を塞いでしまうのかしら。
「好きです」その言葉の代わりに、私からフェリアス様に口づけをした。
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