ネックレス
ため息をついたリリーさんは、私の手を引いて店の奥へと進む。
あれ。なんでリリーさんと手を繋いでいるのかしら?そう思った瞬間、ぐいっと引き寄せられて気がつくとフェリアス様の腕の中にいた。
「────アイリスにあまり触れるな」
「私にまで嫉妬するの?心の狭い男は嫌われるわ。あなた昔から、お姫様のことになると見境ないわよね」
二人は昔からの付き合いらしい。色恋っぽいものは感じられないけれど、私が閉じ込められている間、あんなに会いたかったフェリアス様と過ごした時間がうらやましい。
心が狭い女も嫌われるかな……。
「そんな顔しないの。あなたが着ているドレスや服はあなただけのために作られたの。それに似合う自分でいなさい」
「似合う自分に?」
そういえば、悪役令嬢アイリスは、いつもどんな服を着ても堂々としていた。服に負けることなんてなかった。
私はすぐに丸めがちな背中を正す。
そんな私をフェリアス様が見つめながら、なぜか嬉しそうに微笑んだ。
「さ、完成品を見せてもらおうか」
「そうね。国宝にしたって良いくらいのものが出来たわ。でも、普段使いしたいって言うから、たぶん素人には分からないでしょうけれど」
リリーさんが持ってきてくれたネックレスとチョーカーは、どこまでもシンプルな作り。
以前買ってもらったネックレスのデザインとほとんど同じだ。違うのはフェリアス様の瞳の色の石の隣に、氷のような私の瞳の色の石も添えられていることくらいだった。
「これ、この前壊れてしまったネックレスに似てますね」
「……二人の思い出だからね」
「今までつけていたのも、私の作品だからね!」
……ん?露店で買ったはずなのに、なぜリリーさんの作品なのかしら?
不思議に思ってフェリアス様の方に視線を向けると、スッとそらされた。
「フェリアス様?」
「……どうしても、アイリスに贈りたくて。でも、あの時はリリーチュールのものだと分かったら受け取ってくれなかったと思う」
それはそうかもしれない。いくらなんでも露天のものにしては、異様に高品質だと思っていた。
「むしろ、アイリスが気づかないのが不思議だ。どう考えても、俺の攻撃防いだあれは、魔石に祝福がかかっていた」
「まーくん?!」
小声とはいえ、店内で喋り出す魔人うさぎ。
焦る私をよそに、魔人うさぎは平然としている。
「ここでは問題ない。そうだろフェリアス。さっきからそこのリリーってやつ、俺のこと殺しそうな目で見てるし」
「え?まさか」
恐る恐るリリーさんの方を見ると、私にも分かるくらい殺気だっていた。
「まあ、リリーは大丈夫だ。いくら魔人でも魔術師団長の目を誤魔化すのは流石に無理だろう。リリー、こいつは敵じゃない。今は」
「え?魔術師団長なのにお店をやっているんですか?」
いや、魔石を売ってくれたのはS級冒険者で、リリーチュールのデザイナーは魔術師団長?フェリアス様?
「最近躍進している商会や店は、ほとんど筆頭魔術師様の息がかかっているんじゃないの?ところでそのうさぎ、焼いて良い?」
「──まーくんは、焼いたらダメですよ!」
「あら、残念」
そう言うと、美しいフェリアス様の部下は優雅に微笑んだ。