オーナーと魔術師
クリームあんみつを食べながら、優雅にコーヒーを飲むフェリアス様を眺めた。絵になる。
「そろそろリリーチュールへ行こうか」
「まだ、開店時間には早くないですか?」
「他の客がいると、落ち着かないからね」
ああ、そうだった。この方、数年待ちのデザイナーに出資して実質、オーナーみたいになっているんだった。
公爵家の令嬢として生まれていても、見ているばかりだった私の本性は完全に庶民だ。
そんな庶民根性が強い私にとって、フェリアス様は別世界に住んでいるように見える。
フェリアス様のご尊顔を眺めながらそんなことをぼんやりと考えていると、ファリアス様が手を伸ばしてきた。
「アイリス?」
その長い指が、私の唇の端に触れる。フッと口の端を上げたその麗しい顔に見惚れた瞬間、自分の指先をペロリと舐めるフェリアス様。
「クリーム、ついてたよ?」
「────っ?!」
ここ最近だけで、私の寿命はずいぶん縮んでしまったに違いない。
だって、こんなにドキドキしてばかりでは、きっと心臓が持たない。
「たまには甘いものも美味しいな」
フェリアス様が、妖艶な微笑みを見せる。私はプルプル震える以外、何もできなかった。
「さ、今度こそ行こうか」
時々、ちょっとしたことで赤くなったり戸惑う可愛いフェリアス様は、幻だったのかもしれない。
そう思ってしまうくらい今、目の前にいるこの人は、なんでこんなことをして平然としているのか分からなかった。
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リリーチュールは、デザイナーのリリーさんだけしかいなかった。リリーさんは、真夏の太陽のような鮮やかな金髪を結い上げ、輝くようなエメラルドの瞳をした美女だった。
「お待ちしておりました。オーナー」
「オーナーはやめてくれ。ここは君の店だ」
「いいえ、フェリアス様がオーナーですわ。……そちらの御令嬢がネックレスやドレスの?」
チラリとこちらを見たリリーさん。
フェリアス様と並んだ私に近づいてくる。
「────初めまして。お会いできて光栄ですわ。アイリス様。私の作った服は気に入っていただけてますか?」
「わ、私には勿体無いほど素敵で……」
それを聞いたリリーさんは、黙ってしまった。クローゼットにあったたくさんのドレス、全てこの店のものなのだと今ならわかる。
「──フェリアス様」
「なにかな」
「令嬢に自信を持たせるのは、恋人の責任です」
「ああ、だがなかなか手強いんだ。俺のアイリスは」
フェリアス様が、私とルシア以外にちゃんと喋っているのを初めて見た。
だから二人の関係が気になってしまうのは、仕方がないとも思った。
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