カフェというより
✳︎ ✳︎ ✳︎
フェリアス様と入ったカフェは、落ち着いた雰囲気だった。でも、大人気のおしゃれカフェというには少し侘び寂びを感じる。
そこでメニューを見た私は、衝撃に思わずメニューを取り落とす。
あんみつが……ある。
メニュー名はアンミーツになっていたけれど、間違いない。あんみつだ。だってピンクと緑の求肥っぽいものまで載っている。
「ふふ、驚いた?」
「は……はい!」
「ここのパティシエ、東の国出身らしいよ?シオーユソースもここで手に入れてもらったんだ」
あの日、目玉焼きに添えられていた醤油!ここで手に入れていたのね?!
じゃあ、もしかして他の素材もあるのかしら。マヨネーズはないのかしら。
「嬉しそうだね。やっぱり、元いた世界が恋しい?」
「────そうですね。恋しくないといえば嘘になります」
なぜかフェリアス様は、寂しそうに見える。たしかに、もう一つの故郷は懐かしい。この世界とは違う理で動く世界。
「帰れると、したら……」
「でも、元の世界にはフェリアス様がいないから。帰りたいかと聞かれるとそうでもないですね」
「──え?」
「あ、でももしフェリアス様も一緒に来られるなら悩むかも?」
再び懐かしい故郷に、想いを馳せる。でも、フェリアス様みたいな超美形が行ったら、大騒ぎになるわね。
「──アイリス。これ以上俺のことを駄目にしないで欲しい」
「──?なんで今の会話の流れで、フェリアス様が駄目になるんですか?」
「──むしろなんで分からないんだ」
隣の椅子にちょこんと置いてあるかのように座っているまーくんがつぶやいた。「誰かに聞こえたらどうするの!?」と店内を見渡したけれど、早朝でお客が少ないせいか、誰も気が付いてはいないようだった。
私はホッと一息ついて、メニューに視線を移した。なんだか魔人うさぎが口を押さえて震えている気がしたけれど、それは見ないようにした。
結局、カフェオレとクリームあんみつを選ぶ。フェリアス様は、ブラックコーヒーだ。大人だ。
目の前に届いたあんみつは、涙が出るほど美味しかった。
「あんみつ!あん……みつ?」
何故か、繊細なデザインをしたガラス器の底にある寒天が、七色に光っていて噛むたびにキラキラと音を立て異世界スイーツ感を醸し出したけれど、味はたしかにあんみつだった。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけると嬉しいです。