宝石よりも
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ある朝起きると、なぜかすぐに鏡の前に連れて行かれて、ルシアに目いっぱいおめかしさせられた。
鏡の前にいるのは、緩いウェーブと淡い金髪。アイスブルーの瞳。水色の細いストライプのワンピースを身につけた可愛い人だった。
何かしら、詐欺かしら。
たしかにアイリスは、意外と可愛い。そこにルシアの天才的なメイク力が加わって、自分でも可愛いと思うレベルに仕上げられている。
「えーと、可愛くしてくれてありがとう?」
「アイリス様はもとからお可愛らしいですよ?」
「ありがとう?」
「……もっと自覚を持った方が良いと思います」
褒めてもらえて嬉しいけれど、自覚とは?
フェリアス様の隣に立つために、できる限り頑張って可愛く着飾る自覚かしら……。
「たぶん違うと思うぞ」
魔人うさぎに戻った相変わらず可愛いまーくんが、ルシアが退室したと同時に話しかけてくる。
ピョンピョン跳ねているまーくんを、抱き上げて部屋を出る。今日もなぜか扉の前に、麗しい姿のフェリアス様がいた。
たしかに努力は大事だ。たとえ隣に並んだ途端に霞んでしまうとしても。
「おはようアイリス。朝からこんなに可愛いアイリスを見ることができて幸せだ」
「……えっ」
「朝からこんなに」
「やっ、もう良いです!恥ずかしい……」
にっこりと笑うフェリアス様には、悪気がないのは分かっている。でも、本当に慣れないからやめて欲しい。
そのまま、自然に差し出された手を取る。
「出かけるよ?」
「あ、もしかして完成したんですか?」
「ああ、出来上がったから2人で取りに行こう。良かったら朝食は、リリーチュールの近くのカフェで食べない?」
「食べたいです!」
フェリアス様が笑顔のまま固まっている。
あれ?何かおかしいこと言ったかしら。
「アイリスは、ネックレスができたことよりカフェで食事する方が嬉しそうだね?」
「えっ?だって、フェリアス様と外で食べるの初めてだから……」
今度こそフェリアス様は固まってしまった。
私と繋いだ手の力が強い。
「好きだ」
「えっ?」
フェリアス様が、はにかんだように笑ってつぶやいた。
「可愛い。好きだ」
「──ふぇっ?!」
可愛いのはフェリアス様だと思います。いつもの長い、かなり華美な賛辞よりもある意味破壊力強いです。
なんだかすでに、精神力的な何かがゼロな状態で私は出かけることになってしまった。
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