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コハンの記憶とその重量  作者: 斉木 明天
第六章:泡神様が願う道
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52.セレスタイトの瞳に映った月

「……大丈夫か」


 波の音が響き続ける砂浜、霧子が海から出て上陸していた。

 その両脇には、それぞれ人が抱きかかえれれていた。咳き込んで地面に降り立つ。


「ええ、ありがとうございます。霧子さん」

「別に。息が持ってくれて良かったわ」

「……キリねえ」


 和泉が、霧子の顔を見上げた。


「……湖畔お姉ちゃんは」

「……ああ」


 霧子は静かに水平線を眺める。和泉もまた、その視線の先を追って水平線を見た。

 遠くの方に小さく。大勢いる式神群の中に、二人分の人影が見えた。

 今までの中で一番遠く。月明かりが照らす海面の上で、湖畔は一人戦っていた。




 湖畔の一撃が、瞳刻の式神の腕に振り下ろされた。

 複数の式神を取り込んだことで強靭となった爪は、防御態勢を取った腕に深い切り傷を与え、瞳刻をのけぞらせる。


「ぐおぉっ!!」


 式神の腕の先がぼろぼろと崩れる。腕は最低限壊れた生身の腕を動かせる程だけ残り、残りもまた淡い光を放ちながら海に消えた。湖畔は、距離を取らず、その沈んでいく紙を眺めた。


「残り滓だけでも、やりようでどうにでもできるものね。ふふ、あはは」


 少し顔を上げて笑う。しかし、その笑い声の最後には、今までで一番大きい咽び声が付いた。


「ごほっ!!」


 湖畔はガクッと両膝を落とし、片腕で胸を掻きむしる。胸元から出ていく物を離さないように手を抑えるが、その指の間から、うっすらとした輝きを残した虹色の光が溢れ出してしまった。

 湖畔の指から離れた光、式神達の一時的な魂達は、月明かりの空に霧散して消えていった。


「……あはは」


 消えていった空を見て、湖畔は微かに笑った。

 その直後、湖畔の全身から光が失せ、ガクンと体勢が崩れる。

 ドボン。水に物が落ちる音を立てて、湖畔は海に沈んだ。


「…ひひ、所詮は付け焼刃。そうも持たなかったようだな」


 瞳刻は笑みを浮かべ、海面を歩き湖畔の元へ近寄る。


「ぷはっ、はぁ、はぁ……はぁ…」


 湖畔は、海面に顔を出して、息をあげる。空に仰向けになる形で、胸より上しか浮かんでいない。その胸元には、戦いの中一部始終光を隠し続けていた右腕が胸元で虹色の光を抱いていた。


「さあ、そんな小細工もやめろ。和泉が居るならこの程度では済まなかっただろう。泡神様、お前は和泉の力も借りないで一人でやり通そうとして、無意味にこちらの手に落ちただけだ」


 瞳刻は手を出し、寄越せと催促する。


「もう無駄だ! とっととその見せかけを離せ!」

「…………」


 湖畔は、ゆっくりと右腕を空に向かって掲げた。


「?」


 眉を潜める瞳刻。胸元に抱かれていた虹色の光は、湖畔の右手の中に包まれていた。湖畔はぼんやりとその手の中の輝きを見据え、手のひらを返し、瞳刻に見せた。


「!?」


 余裕を見せていた瞳刻の表情が、一気に青ざめた。


「……全部、手に入ると思った?」


 湖畔の手の中には、虹色の塊が握られていた。

 その虹色の輝きは、湖畔が見てきたものの中で、より一層に眩しい。手に持った時の質感が固く、液体というには、粘性を持ち、形を保っていた。

 手の指の隙間から、徐々に空気中に蒸発して言っているその塊は、()()()()()()()()()


「…私の、魂。半分以上抜き取ったかな。あはは」


 湖畔は、夜空を眺めながら、自分の魂を強く握る。果汁のように絞られた魂は、空気中に輝きを霧散させ、それと同時に腕を伝って一筋の眩しい糸が海面に向かって流れていった。


「おいで……式神も、神力も、ここにはたくさん流れてるわよ。私の魂もあるよ。……全部あげるよ……」

「-っ!! おまえは! とんでもない馬鹿なことをしてくれたな!! 早く魂を戻せ!!」


 声を震わせ、瞳刻が湖畔に掴みかかろうとした。

 しかし、湖畔の胸倉をつかむ前に、二人の横で、巨大な暗闇が海底より浮上した。


「はぁっ!?」


 月明かりと水しぶきで、驚愕の顔を浮かべ空を見上げる瞳刻と、安堵の笑みを浮かべる湖畔のそれぞれの顔が見えた。

 そこには、暗闇のように黒く巨大な、海坊主が上半身を海面に出していた。死んだ魚の目のように見開かれた相貌は、目の前に浮かぶ湖畔と瞳刻を見下ろした。


「そんなっ、まさか! 近海の大怪物!? 先祖が海運を邪魔せんように、広大な結界を敷いたはずだぞ!!」

「結界? ふふ、だったらなんで私達がここまで来れたと思ってるのよ」


 海坊主は月明かりの下で、大きな轟音を唸らせる。

 波紋が海坊主を中心に広がり、海が荒れる。そして海坊主は、大量の神力とご馳走と言わんばかりの、極上の神力を備えた二つの獲物に狙いを付けた。

 真っ黒な口を大きく開き、覆いかぶさるように、二人に降り注いできた。


「う、うああああぁぁぁああ!!」


 瞳刻は叫び声をあげ逃げようと走り出したが、その頭のすぐ近くに、海坊主の口が被さった。

 湖畔は、向かっくる海坊主を前に、静かに月を眺めていた。


「…一緒に居れなくて、ごめんね」


 湖畔が眺めていた月が見えなくなった直後、大きな水しぶきが上がった。

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