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コハンの記憶とその重量  作者: 斉木 明天
第五章:記憶の重さ
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38.泡眠家当主、瞳刻

 湖畔はふすまを開け、隣の部屋に顔を見せる。そこは、10場程の広い畳部屋になっていた。

 部屋の回りを一通り見てみると、部屋の奥に二人して並び正座で待ちわびている人が居るのを見かけた。

 一人は、屋敷までの道を案内した女性。和泉の母親、白地だった。


「えっと…」


 しかし、もう一人は見たことが無い。

 湖畔や白地と比べると、二回りほど身長が高く、筋肉質な肉体をした男だ。


「…っ!!」


 その男を見ているうちに、湖畔は息を呑むことになった。

 男が来ている着物の胸元には、三つの泡が乱雑に盾並びをしている家紋が描かれている。


「(あの家紋……泡眠家の家紋。胸元に付けているのは…当主の証)」


 そう。かつて、父が死んだ直後に代理で党首を務めた祖父が、その時から付けだしていたことを思い出した。

 白地と並んで立っている男こそが、今の泡眠家の当主のようだった。


「……和泉を連れて来てくださった、客人ですな。こちらへ」


 男は顔を崩さず、重苦しい声で二人の前にある座布団を指した。


「え、ええ…。ありがとうございます」


 湖畔は一礼をし、座布団に正座をした。

 ひらひらとした着物の裾を整え、静かに腰かける。


「……丁寧な作法をしておりますな」


 男は静かにそう語る。


「昔、作法を施された事がありまして…。わ、私は、湖畔と申します。貴方は…」

「ええ。私は、泡眠瞳刻(どうこく)と申します。現、泡眠家の当主です」

「…という事は、和泉ちゃんの……」

「…ええ、和泉の父でも、あります」


 瞳刻と名乗った男は、静かに頷いた。


「(凄い筋肉だ…)」

「……この度は、当家の娘、和泉を家に帰していただき、感謝を申し上げます」


 そう言って、瞳刻は静かにお辞儀をする。それに合わせるように、白地も静かにお辞儀をした。


「いえいえ。私も、帰りたがっていた和泉ちゃんを、どうにかここまで連れて帰る事ができて…とても、嬉しいです」


 湖畔も慌ててお辞儀をし返した。


「……して、湖畔殿、でしょうか」

「……え?」


 湖畔は、お辞儀をしている最中に聞こえた声に、その姿勢のまま少し顔を上げた。

 瞳刻も白地も、お辞儀のまま、少し動かない。

 瞳刻がゆっくりと起き上がると、白地もゆっくりと顔を上げた。


「……な、なんでしょうか?」


 顔を起こした瞳刻は、そこから言葉を紡がない。湖畔は難色の顔を示す。


「…何故、ここへ?」

「えっ?」


 重々しく開かれた口に、湖畔はきょとんとした顔を示した。


「……?」


 何を言ってるんだ、この人は? そんな思いが湖畔の中に走った。

 迷子になっていた和泉を、ここに連れてきたと言っているだろう? なのに、何故と聞くか。

 そもそも……なんだ、その……。

 湖畔の中で、苛立ちもふつふつと沸き上がり始めていた。


「(何を聞いているかも分からないし、なんだ、この人達は……)」

「……あの。和泉ちゃんの、葬式をしていたのですよね……」

「そうですな」

「和泉ちゃんが、死んでたと思ってたんですよね。娘が、死んでたって……」


 湖畔は下唇を少し噛みしめて、横を少し向き、目を泳がせる。しかし、顔を上げて、少し困った顔で瞳刻の顔を見た。


「生きてたんですよ、和泉ちゃん。もう少し喜んでも、いいと、思いますが……」


 進言するような口ぶりだが、湖畔の目には、わずかながらに敵意が籠っているようだった。


「……貴女様がそう仰いますのなら、その方がよろしいのでしょうな」

「…は?」


 つい出てしまった言葉に、湖畔は閉まったと口を閉じた。

 しかし、その声を聴いたであろう瞳刻は、怒りを見せることなく、逆に、静かに微笑みを見せているようだった。


「湖畔殿、ご無礼をお許しください。我々泡眠家は、()()()が陸にまで来る訳が、まだ呑み込めてない所にあるのです」


 そう言って、瞳刻は両手をあげると、パンっと両手を合わせた。


「…なっ!!」


 その時、部屋の畳の一つから、複数の煙が噴き出し、畳上に人型の形を作り出した。

 それはやがて形をハッキリと作り出し、白消息で顔に白布を掛けた人型になった。


「何を驚かれますか。和泉には魅せた事も無かった故、御存知有りませんでしたかな?」


 白装束の人型は、その手に2つほどの平たい器に、とっくりを持っている。

 そのまま、湖畔の横に近寄り、静かに腰かけ、器を湖畔に差し出して徳利から酒を注いだ。


「……式神」


 ぽつりと湖畔は呟く。

 

「その通りです。我々、泡眠家の家系は、神道の縁も深いながらも、本流は平安より続く陰陽道の家系。代々、式神を使役し、当代まで確かな繁栄をしておりました」


 白装束の式神は、そう語る瞳刻の傍にも近寄り、器を渡しては徳利を注ぐ。


「式神という事を、一目で見抜いた事。湖畔という名前。和泉を連れてきたこと。……やはり、推測は間違っていない」


 瞳刻はそう言うと、再びお辞儀をした。


「いったい、何を…」

「先ほどの無礼をお許しください。改めまして、貴方様が来たことを、喜ばしく思います。泡眠家、祭神。泡神様」

「!!」


 湖畔は思わず立ち上がり、少し後ずさってしまった。

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