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コハンの記憶とその重量  作者: 斉木 明天
第五章:記憶の重さ
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37.泡眠家

「さあ、こちらでございます。館へどうぞ」

「ええ…」


 湖畔は和泉を背負ったまま、ちらりと背後を見る。

 和泉の葬式をしていた人々は、全員がこちらを見てざわついている。生きていた事の喜びよりも、生きて帰って来たことに動揺している様子が見て取れた。


「館、横手の方なんですね」

「ええ、正面の建物は、神様の本殿、儀礼儀式に、神葬祭といった行事に使うのみですね」


 村の長よりも、神様が大事なのです。と白地は付け足した。


「そ、そうなんですね。あはは…」

「(和泉ちゃんが、泡眠家。私も、泡眠家。私が、神様として人柱になったのなら……その神って、私の事指すのかな…あっはっは…)」


 湖畔は、拝まれた覚えなんてない。まさかの、初崇められになんだか照れくさくなってしまった。


「(でも。私の事よりも……)」


 湖畔は首を振り、前を進む白地の背中を見る。


「(死んでたはずの娘が、帰って来たのに。真っ先に抱きしめてほしいよね…)」


 和泉自身ではないが、死んだ娘が帰って来たばかりの母の素っ気なさに、湖畔はため息をついた。


「どうかなさいましたか?」

「ああ、いえ。和泉ちゃんを早く横にさせてあげたいなって」

「…あぁ」


 白地は、表情を崩さない。代わりに、少しだけを細め、くすっと声だけを出した。


「申し訳ありません。町の人々の手前、振舞は崩せません故」

「ふえっ!?」

「私も、和泉が心配です故。急ぎましょうか」


 そう言って、白地は歩き続ける。

 その背中を見て、湖畔は息を呑んだ。


「(さすが、和泉ちゃんの母上…。見抜くのもうまい)」


 湖畔はその背に続く。

 そうして、目の前に、瓦屋根の木造の屋敷が現れた。




 湖畔と和泉は、連なる部屋の内の一つである、小さな和室に通された。

 湖畔は、簡素な布団に和泉を寝かせる。

 和泉ちゃんを出迎えさせた手前、泡の分離による清掃はできない。なので珍しく、温めた濡れタオルで体を拭き、白地が持ってきた和泉の寝間着を着せ替えた。


「これでよしね」


 そっと和泉の頭を枕に乗せ、和泉が穏やかな寝息を立て始める。それを見て、湖畔はほっと胸をなでおろした。


「だいぶ疲れてるみたいね……やっぱり……」


 湖畔は少し俯き、下唇を噛みしめる。

 思い出すのは、海坊主から逃げ出したタイミングだ。迫ってくるどろどろとした液体の包囲網を前に、自分も霧子も死に物狂いで出来る事をやっていた。だが、そのタイミングで和泉は、湖畔の背中に手を押し当てていた。


「(普通に考えて、霧子の背中にも手を当てていたって、考えるべきよね)」


 体の神経伝達がマヒするぐらい出力したって事は、内蔵している精神そのものも、かなり消費しているわけだ。


「(言ってみれば、この状態は、昏睡状態に近い…)」


 本当に、しばらく休めば和泉はちゃんと目を覚ませるのだろうか。力とかに自分より精通している霧子の反応からして、過剰に心配しているだけかもしれない。


「…ここまで来たのよ。ちゃんと目を覚ましてね…」


 湖畔は小さくそう言い、和泉の頬をそっと撫でた。

 その時、こんこんと、隣の部屋に通じるふすまが叩かれた。


「湖畔様。お待たせいたしました」

「ああ、白地さんですか?」

「はい。泡眠家現当主がただいま参りました。こちらの部屋にどうぞ」

「分かりました」


 そう言って、湖畔は隣の部屋に向かった。

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