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コハンの記憶とその重量  作者: 斉木 明天
第五章:記憶の重さ
33/53

33.たどり着いた目的地

 湖畔たちは宙を浮かんでいた。泡は、3人分の重さに耐えられず、少しずつその高度を落としてはいっている。だが、それでも下の海に居座る海坊主から逃れるには十分だった。


「あの海坊主は…」


 湖畔は泡の膜に手を当て、泡が浮くよう念じつつ、真下の海を見下ろす。

 そこには、恨みがましく空へと飛んだ3人へ、手を両手を振り続ける海坊主がまだ居た。その両手の振りようは、溺れて助けを求めもがく人間のようにも見える。

 しかし、いくらもがいても3人の泡が自分の居る海面まで降りてくることが無いのを察したのか、海坊主は両手と顔をゆっくりと沈む。全身が漬かり、大きな人型のシルエットを海面に見せる海坊主は、3人の視界の揺らぎと共に、跡形もなく消失した。


「……自分のテリトリー内に帰ったのだろう」

「そうみたいね……もう終われるのはごめんね」


 その時、湖畔は背中を何かが滑り落ちるのを感じた。感じたのと同時に湖畔は振り返ると、それが、今さっきまで付いていた和泉の手だという事が分かった。


「和泉ちゃん?」


 その時、がくんと泡全体が揺れるのを感じた。


「きゃっ!?」


 湖畔は慌てて泡を保とうとするが、先ほどよりも力が入らない。3人を入れた泡は、浮力を失ったように、海面に向かって落下し始めた。

 湖畔は急ぎ泡に力を念じ始める。浮き続けなくてもいい、せめて、海にぶつかる直前は衝撃を和らげるんだ。


「くぅっ…!!」


 海面が近づいてくる。そのタイミングを見計らって、湖畔は体内に眠る神力を一斉に奮い立たせた。

 泡は一時的に張りを取り戻し、ぶつかる直前で勢いを和らげた。泡は比較的緩やかになり、そのまま海面に着地した。

 そして、着水と同時に泡ははじけ飛んだ。無事海上に着地する霧子。湖畔は力なく海に倒れそうになる和泉に手を回し支えた。


「大丈夫、和泉ちゃん!」

「う、うん。平気。ごめんなさい、二人同時って、結構疲れるみたいだね、あはは…」

「ふぅ……ちょっと手を見せてみろ」


 そう言って、霧子は和泉に手を差し出すよう催促する。


「えっ、でも」

「いいから」


 返しを待たず、霧子は奪い取るように和泉の手を握った。


「手を開けたり閉めたりしてみろ」

「う、うん……」


 和泉は、手を開けたり閉めたりする。その際も、和泉の手は弱弱しく痙攣したりしている。


「……ふむ」

「…なにか、重い状態なの?」


 不安げに訪ねる湖畔。しかし、霧子は首を横に振った。


「いや、そんなにひどいものでもない。いわゆる、神力とか妖力とか使う際の、慣れてない筋肉痛みたいなもんだ。あたしも、最初の頃よくなってた」

「筋肉痛…?」

「ああ。神力とか妖力ってのは、言ってみればその人の魂そのもの、魂に宿る生命力とかを燃焼させ、劣化させながら使う電池みたいなものだ。だから、上手い使い方が分からない内は、全身を操る神経とかが荒れちまうんさ」


 そう言って、霧子は和泉の片足を軽く持ち上げる。ふとももから持ち上げた足は、間接からビクビクと痙攣をしていた。


「人間の場合、生身がある分、全身が勝手に痙攣するって言う感じで出るみたいだな」

「それって……後遺症になったり?」

「心配しすぎだ、湖畔。普通の筋肉痛よろしく、数日は神力使わないで安静にしてたら良い」


 そう言って、霧子は立ち上がる。


「痛めつけるぐらい動かして、神力鍛えるのもいいが。ま、使い過ぎたら本当に危ないな。そろそろいいだろう、もう陸は目の前だ」

「そうね…。行くよ、和泉ちゃん」

「う、うん…!」


 湖畔は和泉をそっと起こし、3人で陸に向かった。

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