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コハンの記憶とその重量  作者: 斉木 明天
第三章:未練の沈む海底
22/53

22.滾る蒸気。底知れぬ源

 湖畔が向かう中、霧子はたった一人で十数体のサザエオニを相手していた。

 サザエオニ達の戦い方は、湖畔に対しての方法と同じく、霧子を中心として円状に旋回し続けている。そして、個々が不規則なタイミングを持って霧子に突撃を繰り返していた。


「くそっ、いい加減落ちろっ!」


 そう叫び、霧子は柄杓を強く振るい、突撃してきたサザエオニを打ち払った。

 しかし、そうして弾いたサザエオニは、たしかに攻撃の勢いが弱まり、そこらへと吹き飛ぶ。だが、それもほんの少しの間だ。すぐに体勢を直し、回転して旋回軌道に戻ってしまっていた。

 霧子は歯ぎしりを起こし、青筋を立てる。ただ見た目でっかくなっただけのサザエに、なんてざまだ。

 そう思っている間にも、またサザエオニが飛び込んできた。霧子は、柄杓でそれを弾き飛ばす。

 振り切った直後、霧子は背中に強い衝撃を吐き、咽込んだ。


「ガハッ!!」


 痛みを堪えながら、振り返ってみれば、背中にサザエオニ2体が先端を突き刺していた。

 取りこぼしは、大方にしてそれぞれ肉体らしいものを持っている。嬉しいお知らせのようにも思えたその特徴が、難点として霧子自身に帰って来ていた。


「くそっ! てめえらの体は、回転しながら突き刺す為にありゃしないだろ!!」


 腕を限界まで背中側に回し、サザエオニ達の胴を掴む。そして背中から抜き取り、横へと放り投げた。

 海中を回転して飛んでいくサザエオニ二匹。やがて静止し、それぞれが大勢を立て直そうと蠢く。

 その時、その二匹の胴を掴む、別の手が現れた。


「!!」


 霧子は、自分が投げたものを何かが掴んだことに気づき、投げた先を振り返った。

 視線の先には、和泉ちゃんを背中に背負った湖畔の姿があった。


「湖畔!」

「さっきは助かったわ。助けに来たわよ!」


 湖畔の両手が淡く光り、サザエオニそれぞれの体の中に入り込んでいく。そして、湖畔は一瞬目を閉じ何かを探るように眉を潜めると、目を見開いた。

 サザエオニそれぞれの胴から虹色の液体を握った湖畔の手が現れ、湖畔はそれらを宙に振りまく。サザエオニ達は、それぞれ姿を消していき、消滅してしまった。


「ああぁ! あんたが浄化してる間に、戦果出し解きたかったが……苦戦してた。助かる!」


 霧子は、痛み紛らわしに背を伸ばし両腕を振り払って、湖畔に頷いた。


「! 湖畔、右だ!」

「っ!!」


 言われるまま湖畔は右を見る。サザエオニが、またも和泉ちゃんをさらおうと跳び込んできていた。

 するりと、湖畔は舞うようにして躱す。

 ほっと胸をなでおろす霧子。しかし、すぐに横からの気配に振り向くことになる。サザエオニが一匹、跳び込んできていた。


「ちぃっ!」


 霧子は柄杓を振り、水圧の斬撃を飛ばす。斬撃は水中であろうと衰えを知らず、サザエオニに直撃する。しかし、その岩のような表面に当たったところで、わずかに表面に傷を付けただけで、泊まりはしなかった。


「ちっ……!!」


 霧子は柄杓を降ろし、足を構える。サザエオニが霧子の目前に近づくと、霧子は全身を回しサザエオニを蹴り弾いた。飛ばした先には、湖畔が居た。


「さっきと同じことするぞ! 湖畔!」

「! 分かったわ!!」


 ぐるぐると縦に転がるように回り飛んでくるサザエオニを、湖畔は両手でキャッチした。

 暴れる前に、急ぎサザエオニに触れ、分離を試みる。


「…!」


 その時、サザエオニ4匹が、同時に湖畔に目掛けて突撃を開始した。

 霧子は湖畔に向かって飛び込み、2体に水圧で振り払い、湖畔に一番に近づきかけた1体を蹴り飛ばした。

 ハッと振り向き、サザエオニ一体に体勢が崩れたまま、柄杓の水圧を撃ち込んだ。

 しかし、サザエオニを止めるにはとどまらず、サザエオニは体を揺らがしたものの、そのまま湖畔に突撃を続けてしまった。


「!! 目を覚ませ湖畔!! 一体防げなかった!!」

「!! えっ!?」


 分離を試みていた湖畔は、目を開け辺りを急ぎ見回した。すると、もう目と鼻の先にサザエオニは跳び込んできてしまった。もはや認識しようとも、避ける暇も無い。

 サザエオニは蓋を開け、穴から大きな舌を伸ばしている。その舌がかっさらおうと狙う先は。和泉ちゃんが入っている、湖畔自身の背中の泡だった。


「和泉ちゃ―!」

「っ!!」


 湖畔が目にしたのは、和泉ちゃんの恐怖に引きつり、自分の背に抱き着く姿だった。

 そして、和泉ちゃんが抱き着いた直後、湖畔は心臓に()()()()()()()()()を吹き込まれた感覚がした。


「っ!? カハッ!!」


 思わず、鳩尾に拳を叩き込まれたかのように咽ぶ湖畔。突然、それに呼応するように、和泉ちゃんを入れていた背中の泡が大きく膨張した。

 水も、サザエオニも。何もかも吹き飛ばすほどの瞬時の膨張。サザエオニは舌どころか、全身を弾かれ。まるで空中の出来事かのように、早い速度で海底の岩場に弾き飛ばされた。

 湖畔は一瞬硬直する。そして、ハッと意識を取り戻して海底の方を見て見れば。サザエオニは砂塵の中に消えていた。


「な、何今の……和泉ちゃん、貴女がやったの?」

「え、ええぇ? 分かんないよ、湖畔お姉ちゃんがやったんじゃないの!?」


 尋ねられた和泉も、何が起きたのかと戸惑っている様子だった。


「お前ら。 …無事で良かった」


 二人の横に、霧子が泳いでくる。


「霧子!」

「やっぱ感じてたもんは間違いなかった。今のが、和泉ちゃんが狙われる理由だ」

「今のが?」


 霧子は辺りをせわしなく見た後に、縮み戻った背中の泡の中の和泉ちゃんに目を向ける。


「ああ。 和泉、お前の体内にはどういうわけか、膨大な量の神力が溜まってるんだ。 抱き着き、湖畔に意識を集中させただけで今の始末だ。 おまえには、私や湖畔を瞬発的に高めるぐらい造作もない」

「わ、私が……?」


 真剣な顔つきで語る霧子の目を、和泉ちゃんは戸惑いながらも見つめるが。何が何のことやら、混乱している様子だった。

 そんな中、またも周囲にサザエオニが旋回し始める。


「ちっ…… いいか、この引きこもり神様はいまいち分かってないみたいだがな。あんたは今回っているような取りこぼし共からしてみれば、最高のご馳走なんだ。 狙われる身だって事を、理解しておけ!!」


 そう叫び、霧子は辺りを見渡し、突撃を始めだしたサザエオニ一匹を見据える。


「湖畔、私の手を泡の中に通せ!」

「!? え、ええ!」


 湖畔は泡の強度を緩めるよう意識を向ける。そして、それに合わせて、背中の泡に霧子が手を伸ばした。


「和泉。あたしの手を握って私に集中しろ!」

「えっ! こんな時に、キリねえ何言ってるの!?」

「変な想像すんな、ってかキリねえ!? いいからやれ!!」

「は、はいっ!!」


 和泉ちゃんはわたわたと慌てるが、急ぎ霧子の手を握る。そして、和泉ちゃんは目を閉じ額を霧子の手の甲に当て集中する。

 霧子もまた、胸を撃たれたように一瞬跳ね上がると、柄杓を力の限り握りしめた。


「いよっしゃぁ! うおおぉおぉりゃあぁあああ!!」


 霧子が暴徒の如く叫びあげる。そして、右から左へ、半円を描くように大きく柄杓を振った。

 そして、柄杓の先から水中でも目に見えるほどの荒々しい刃の流れが噴き出た。


「なっ!!」


 湖畔が驚きの声を上げる。180度の包囲を占めるようにして飛んだ刃は、そのままサザエオニ達へと跳んでいった。

 まず、突撃してきていた一体に正面から当たる。ざくり。岩を無理やり傷つけたような重々しい音が響く。そして、サザエオニは回転しながら、綺麗に盾に真っ二つ。自分自身の回転による遠心力で、肉体が上下に分離し離れ、真っ黒な瘴気をその全身から吹かし掻き消えてしまった。

 そして、その遠くに泳いでいたサザエオニ達の半分も、軌道上に入ったものは、同様に真っ二つになってしまった。


「あ、あんなに硬いやつらが……一瞬で」

「……ん、…えっ」


 手の甲から額を離し、目を開けた和泉ちゃんも、遠くのサザエオニ達の末路を眺め、驚愕とした。


「はぁ、はぁ、はぁ……これで、分かっただろ?」


 霧子が息をつきつつ、二人に振り返る。


「これが、和泉が狙われる理由だ」

「これが……」


 遠くで瘴気に塗れ掻き消えていく、真っ二つのサザエオニ達を眺め、湖畔はごくりと息を呑んだ。

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