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コハンの記憶とその重量  作者: 斉木 明天
第二章:外の海と取りこぼし
15/53

15.沈没船墓場の争奪戦

 霧子がとびかかってきた。手には再び柄杓を構え、それを大きく振り上げては振り下ろしにかかってくる。

 泡のガードを破った方法が分からない以上、正面からガードを受けるのは危険だ。私は体を横に傾け、攻撃を回避する。


「はぁ、はぁ…うぐっ!」


 胸元が痛い。自分の血が赤くないという事もそれなりにびっくりではあったが、自分が斬られるなんて経験が来るとも思わなかった分、更にびっくりだ。

 幸い、光る液体は徐々に出血(と一応呼ぶことにする)が徐々に弱まっていき、今のところは止まっている。

 問題は、この場をどうするかだ。

 ちらりと泡の陸地の方に目を向ける。和泉ちゃんを背負って逃げるか? いや、現実的ではない。沈没船が密集する霧の領域なんて、見るからに舟幽霊たる霧子の独壇場だ。相手が有利な環境に、わざわざドームの中から和泉ちゃんを出すのは危ない。

 ならば……取れる事はただ一つだ。


「ちょこまかと……なんだぁ?」


 両手の平を合わせ、海にかざす。辺り一帯が光り輝き、大八車の車輪程の大きさの泡が複数、海上から浮き出て宙に浮きあがった。

 私は、近くに浮き出た泡に跳び乗り、泡は反動で弾み、私を数メートル高くへと跳びあげた。

 それから横へ、縦へ。次から次に移り渡っていく。霧子もそれを目線で覆うとするが、段々と追いつかなくなっていく。


「今だ!」


 泡の一つに着地し、自分の体勢を海面に向かって逆さまにする。頭の先一直線には、霧子が居る。

 そして、全力で泡を蹴り上げ、弓のような速度で霧子に飛び掛かった。


「うあぁっ!?」


 やっと目が追い付いた霧子がこちらを見た頃には、私は霧子に向かって飛び込んできている。思わず面食らったように霧子は悲鳴をあげた。

 私にとって、魂の泡も取りこぼしも、本質は同じだ。それなら……イクチを浄化した時のように、霧子も浄化するまでだ。

 両手を突き出し、霧子の心臓部分に触れようとした。

 しかし、すんでのところで霧子が後ろに倒れるようにして仰け反った。手が届くまでの距離が僅かに伸び、時間が出来る。そこにすかさず、霧子は柄杓の持ち手を突き出した。

 私の両手は、霧子の心臓を掴むよりも前に、柄杓に遮られてしまった。


「なっ……!」

「あっぶない、あぶない! 何しようとしたんだ、このやろぉ!」


 ドボンと海上に倒れ込む霧子。その次の瞬間、柄杓が異様なきらめきを見せた。


「イッ!!」


 瞬間、片手に激痛が走った。柄杓の注ぎ口に近かった右手の甲が、鋭利な物で斬られたような傷を作った。

 それで手が緩んでしまい、すかさず、霧子に胸倉をつかまれてしまった。霧子は不可解に直立でそのまま海上に起き上がると、私を、和泉ちゃんの寝ている泡の陸地に投げ飛ばした。

 投げられた私は、泡の陸地を覆う泡のドームにぶつかると、大きな振動を体に受け、海面に落下した


「うぐあっ!!」


 イクチに陸地ごと持ってかれた事を反省し、それなりに強固にしたのが裏目に出た。胴に受けた衝撃は、斬られたばっかの体に答えた。


「ふえっ!?」


 ドームの振動で、和泉ちゃんが変な声を上げて跳び起きた。


「あ、あれ? ここどこ!? 湖畔お姉ちゃん!?」

「い、居るよ。大丈夫…!」


 寝起きドッキリもいいところだ。これ以上嫌なショックを与えたくなく、和泉ちゃんに振り返りはしない。だが、それでもこちらにゆっくりと舟幽霊が突っ込んできているのが目に見えた。


「誰、あれ…?」

「外に出ちゃだめ! あいつ、和泉ちゃんを狙ってる!」


 その声を皮切りに、霧子の方がこちらに駆け出して来た。横手に構えるのは柄杓。私ごと泡のドームを斬り裂こうという算段らしい。

 そして、霧子は腕を振り上げ私の目の前に足を踏み入れた。


「今だ!」


 ぐっと手首を下から上へスナップした。それに呼応するように、霧子の足元から大きな泡が噴出し、霧子を泡の中に閉じ込める。


「んなっ!? おいおい、なんだこれ!」


 かかった。先ほどの泡の空中展開の際、幾らかの泡をそのまま海中に残しておいたのだ。見事海上トラップとして役割を果たし、霧子を泡の中に閉じ込めた。

 今がチャンスだ。今度はこちらが駆けだし、霧子を包んだ泡に触れた。


「分離せよ!」


 霧子の包む泡が虹色に輝き、激しい閃光をほとばしらせ始めた。


「うぐあっ、がああぁぁあああ!!!」


 霧子が絶叫を上げる。怪物としてこの世にとどめてしまっている記憶を、分離している最中だ。霧子自身の精神が抵抗するようで、かなり精神的にダメージを負わせている。

 魚に対する分離で思った通り、精神面の抵抗の度合いによって記憶をそれなりに剥がすのに時間が要るようだ。


「あああ痛い痛い痛い痛いぃぃいああああ!! 勘弁してくれ! 成仏したくねえよぉおおああああ!!」


 霧子は泡の中で命乞いを上げ始める。状況が変われば変わる度に、すぐに振る舞いが変わる奴だ。

 だが、止めるわけにもいかない。泡を開ければ和泉ちゃんが喰われる。和泉ちゃんを守る為にも、ひくわけにはいかなかった。


「ああああぁああ! ちっくしょおあああ!」

「!?」


 ふと、泡の中でうずくまり悶えていた霧子が、苦しそうに片足を立たせ、柄杓を構えた。その直後、霧子が動きの動きが遅くなってるカラか、その流れが見えた。

 穴が開いていて、水なんかこれっぽっちも注ぐことのできない柄杓に、水があふれ出した。それから、溢れ続ける水は細くひらぺったくなるように圧縮され、まるで、水の刃と言えるような勢いで噴き出し始めた。


「これはっ、まずい!」


 思わず、私は背後に飛びのいた。

 その直後、私の胸元の服に、横に一直線切り跡が出来た。体勢を整え、顔を上げて見れば、霧子を包んでいた泡は、中腹に綺麗な横線を引かれて、裂けていた。


「なんだ、こいつ……」

「う、うそ……」


 背後から和泉ちゃんが声をあげる。


「ウォータージェットだよ…。水に凄い圧力をかけて、金属さえも斬れる刃にする方法だよ!」

「なにそれ!?」


 つまるところ、穴の開いた柄杓から水を噴出させる、という舟幽霊の進化型と言えるような能力がこの霧子にはあるらしい。その能力を、さらに細かくして。自分の武器にまで変えるほど熟練したらしい。


「けほっ、ごほっ!! えぇほっ、えほっ!!」


 記憶の分離から解放された霧子が、むせ返り膝をつく。


「し、死ぬかと思った…。絶対に死んでやらんからな…!」


 恨みどころか、絶対に生きてやるという目でこちらを睨んできた。……いや、舟幽霊なうえに、魂の取りこぼしだから。死んでいると思うけどね…。 

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