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コハンの記憶とその重量  作者: 斉木 明天
第二章:外の海と取りこぼし
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11.陽ざしの中の少女

「ふわぁ……」


 空をなんとなく眺めていた。お空は、町に居た時と同じように、どのぐらいの大きさなのかも想像がつかないぐらいの、入道雲が出ている。

 けれど、私、泡眠和泉(あわねむり いずみ)は……朝目を覚ましてから、信じられないことの連続で呆然としてました。

 見渡す限りの海に、小島。私のおうちは…いったいどこでしょうか。


「ふわぁ……」


 なんとなく、あくびが出てしまう。怖い思いをして、助けられて。安心して落ち着いたからなのでしょう。

 私は、お母さんと一緒に町のお屋敷で。大きな大人の人たちと一緒にゆったりと暮らして居ました。自然がいっぱいあって、その中でも、よく近場のお兄さんが釣りを教えてくれたりと、それはもう、穏やかに暮らしてたはずなんです。

 それが気が付けば、どういう事でしょうか。昨日の夜は、お母さんにお休みなさいって眠りを言った筈なんですけれど……気が付けば、泡の中に閉じ込められて、深海に沈んでたとの事です。

 もう、山姥様もそんな事はしないと青ざめる、びっくり現象でした。私も、そんな斬新な誘拐ととどめの刺され方をある日突然されるなんて、思いませんでした。誰が犯人で、何をしたいのかも分かりませんが。

 そんな状況だったので、目の前の穏やかそうな天女っぽいお姉さんを目にしたときは、それはもう「ああ、この人がさらったんだぁ…」なんて、納得してました。でも、そんな疑いも。どうすれば受け入れてくれるか分からない親戚のおばさんみたいな慌てっぷりを見ていると、この人が私をさらった犯人じゃないってのも、すぐ分かりました。

 湖畔お姉さん、見た目のお姉さんらしさや神聖的な姿とは裏腹に、一挙一動が派手なのですよね。頭の中で思っている事が、すぐに全身で表現しているというか。何考えてるのか分かりやすいです。例えるなら、道端の段ボールを開けてみたら、中に子猫が入っていて、どうすればいいのか分かんない、みたいな感じでした。

 ……でも、実際そうなのですよね。泡の中に入って深海から浮かんできたなんて、段ボールの中に入ってる以上に、どうすればいいのか分からない状態です。

 その後も…………その後も……あまり、思い出したくない恐怖でした。

 泡神様という神様。…というより、本当に神様と言うお方が居るとは思いませんでしたし。妖怪も本当に居るとは思いませんでした。

 突然、海の下から出てきて、バクッと食べられて。湖畔お姉さんが助けてくれなかったら、私は、ここに居ません。


「…ううぅ……」


 そう考えると、泡の陸地の上で、身を縮めて震えてしまいます。怖い。いずみは、本当に知らない世界に来てしまいました。

 早くお母さんの元に帰りたいです……怖い……。


「いずみちゃーん!」

「!」


 縮こまっていると、遠くからお姉さんの声が聞こえました。思わず、ハッと勢いよく顔を上げてしまい、お姉さんの姿を探してしまいます。


「湖畔お姉ちゃん!」

「あはは、待たせちゃったね。ほら、これを見てごらん!」


 ! これは…! 湖畔お姉ちゃんが差し出してくれたのは、信じられない御馳走でした。なんと、魚丸々とさばいた刺身です! 正確には、ひらき見たいな状態で、包丁で切れ身一つ一つは裂かれていませんが……新鮮な状態でそこにありました。

 もう、何もかも分からない状況で、泣きっ面に蜂の中の天女様の御救いです。


「ありがとう! 湖畔お姉ちゃん!」


 感謝してもしきれません。この先何があるか、恐らく私も湖畔お姉ちゃんも分からないと思いますが……湖畔お姉ちゃんのいう事だけは、しっかり聞いていこうと思います。






「……刺身、好きなんだなぁ……」


 魚の手入れし終えた肉を差し出してみて、和泉ちゃんの顔を見る。もう、さっきの体験さえも振りほどくぐらいの凄いキラキラとした顔を見せていた。

 さっそく、作って来た刺身を、泡に包んで差し出す。


「あ、そうだ。その前に和泉ちゃん、両手を出して」

「? はい」


 差し出してくれた両手を、それぞれ泡に包む。


「わっ」


 突然の事に和泉ちゃんは小さく驚くが、そのまま泡に念じる。


「分離せよ、汚れ…!」


 そう言って、和泉ちゃんの両手の泡ははじけ飛んだ。綺麗になったのか、包む前よりも手が清潔になったように見える。これでよし。汚れたまま掴んで食べたらお腹壊しちゃうものねぇ。


「はい。もういいわよ、召し上がれ!」

「はい! 頂きます…!」


 ごくりと、唾を呑むような音を鳴らしてから、和泉ちゃんは魚の身を手に取り頂いた。


「……!」


 結果。口に入れて少し咀嚼した後、なかなかいい笑顔を見せてくれた。口角が上がり、恍惚としている。


「ふふっ」


 思わず、こちらも笑みが浮かんでしまった。良かった、こんな環境での緊急ごしらえだったけれど、成功だったみたいだ。

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