前夜の祈り
貴方は、私の生命を絶つ、ただ一人の人になれますか。
貴方は、私の生命を終わらせる、ただ一人の人になれますか。
懐かしい記憶、辿れば、いくらでも貴方との思い出が出てきます。花畑のような良い匂いが漂う記憶は、今もまだ、私の中に色濃く残っているのです。
けれども、それはもう遠い昔の記憶。決して取り戻すことのできないもの。
抱く意思を、歩む道を、違えたあの日。私は貴方との永遠の別れを受け入れました。だからもう戻れない。貴方と共に行く道は、とうに途絶えたのです。
それでも、今もたまに思うのです。
貴方と共に行けたらどんなに良かっただろう、と。
別々の道を選択し、歩き始めてからも、私の中の貴方との記憶は消えませんでした。それどころか、より一層鮮やかに、私の脳裏に刻み込まれたのです。
冷たい夜にはいつも、貴方の夢をみます。幻想の中、幸せな時を過ごし、そして、目覚めたら枕を濡らすのです。叶わない夢をみることほど虚しいことはないと知りました。
私と貴方はもう、隣を歩くことは叶いません。
手を取り合って笑う、その機会すらないでしょう。
だからこそ、私は貴方に願います。
貴方は、私の生命を絶つ、ただ一人の人になれますか。
貴方が、私の生命を終わらせる、ただ一人の人になってください。
◆
私の生命を絶つのは君しかいないと、そう思っている。
私の生命を終わらせられるのは君だけだと、そう信じている。
愛おしい過去、辿れば、いくらでも君との思い出が溢れてくる。幸福など知らず育った私に細やかな幸せを教えてくれた日々は、今もまだ、私の中に強く残っている。
だがそれも遠き日の記憶。もう二度と取り戻せぬもの。
抱いた志を、選ぶ道を、違えたあの日。私は君との決別を受け入れた。それゆえ、もう二度と触れられない。君と共に行く道は、とうに途絶えてしまった道。
それでも、今も時折思うことがある。
君と共に歩いてゆけたならどれほど幸福だっただろう、と。
異なる道を選び、進み始めてからも、私の中の君との思い出は消えなかった。それどころか、その思い出への執着が日に日に強まっていくくらいで。
眠れない夜、いつも、君の夢をみる。現実ではない世界ではあるが君と共に楽しい時を過ごすからこそ、目覚めたら涙が出る。望めど望めど起こり得ない夢をみることほど辛いことはないと知った。
君と隣を歩くことはできない。
穏やかな昼下がりを散歩する、その機会すらないだろう。
だが、だからこそ、私は君に頼みたい。
私の生命を絶つのは君しかいないと、そう思っている。
私の生命を終わらせるのが君であるようにと、そう願っている。
◆
あの日違えた二人の道が、交差する時が来る。
その果てに、何が待ち受けるのか。
二人の再会の、その先を知る者はもういない。