王の選別3
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王の選別3
翌朝、ジワリーと共に城へ向かう。
窓口にポートのやつが居るはずだ。
アイツを引っ捕らえるまたとないチャンスだと思っていたが、ジワリーのやつは俺の目論見を読んでいたのだろう、別の入口に向かった。
「おい、婆さん、こっちじゃなかろうが」
「やかましい! 今日はヌシの戯れに付き合っとられんのじゃ!
大人しく王様の御前に出やれ」
婆さんに案内されなきゃ城の中を進むのも一苦労だ。
流石にジワリーから逃げ出してポートを探すのは無理がある。
ここにはジワリー子飼いの忍者みたいな組織もあるらしいから、あっという間に捕まるだろう。
「く、仕方がねえか。
だが、いずれアイツに意趣返ししないと気が済まん。
それが済むまで帰らんもある!
手篭めにしちゃるんじゃ!」
「堂々と犯罪宣言をすな!」
城の中庭辺りでワチャワチャしていると、昨日の三人組がやってくる。
「随分騒がしいんですね。
いつもそうですか?」
芝生、鍛錬用の設備、噴水の周りの花、中庭を四角く囲むよに廊下が続く。
城は全体が石造りの壮大な建築だ。
内部は木造部が多く、しかし街の建物と比べて金属の領域も多く、頑丈さがただ居るだけで感じられる。
中庭は芝生が美しく整備されている正方形のエリアだ。
かなりの広さで中央に噴水、小脇に花束の様な小さな庭園、そして騎士たちが訓練に励む場所まであった。
その辺りだけは芝生が禿げ上がり、茶色い土が目立つのだった。
中庭を囲むように廊下が通っている。
奥に進めば塔が5つ、並んで立っている。
いずれも円柱型。
中央が最も高いのだが、どれもアンシンメトリーで高さはバラバラ、立ち上がる場所も微妙にばらばらで、何故か雑だった。
それぞれの塔と塔の間に旗が揺れている。
塔自体に縄を渡して、巨大な旗を掲げているのだ。
都合4基に、青と赤の竜騎士の姿がシンボルとして輝いている。
中庭から見上げれば清々しい青空と共に、気分の良い景色だ。
塔の用途が俺には不明だが、別に王族の住居というわけでもなさそうだ。
最も大きな中央の塔の一階に、謁見の間が鎮座していた。
本日のイベント会場というわけだ。
塔は円柱形だが、謁見の間はこれまた正方形だ。
ドードーの建物は正方形へのこだわりが、至るところで感じられた。
そう言えば、ジワリーの家や宿も正方形を感じられる部屋だったな。
「なあ、どうしてこんなに四角いんだよ」
「何を言うとんじゃ」
住人にとっては当たり前過ぎて、聞いてもピンとこないレベルだ。
入り口から正面に嫌に高い舞台がある。
あ、あの高いところから王様が見下ろすんだろな。
この部屋もどっかで見たことがある、と思ったら、裁判所だな。
手前の方に傍聴席見たいなのもあるし。
弁護士がウロウロしながらしゃべるエリアが、ちょっと広い。
塔にかかっていた竜騎士のタペストリーが、両サイドに4枚ずつ見えている。
裁判所な形だが、装飾は教会を思わせた。
ドレイクの翼のようなステンドグラスが、高いところに見えている。
俺は傍聴席の一番後ろに適当に座る。
ちょうどその時にテネシーとテッドも、大きな扉から入ってきた。
「よう、どうだい」
テッドは俺の前の席に腰掛けて、こっちを向く。
「どうもこうも、とうとうこんなところに駆り出されちまったよ」
別の世界から。
両手の平をひょいと上向きにして、どうにもならない心根を伝える。
「ご苦労さん
テネシー、くつろげよ。
どうせ最初はつまらねぇ口上聞くだけだ」
ジワリーは前の方でマーズとくっちゃべっている。
テネシーは一人入り口のすぐ脇の床に腰を下ろす。
自由過ぎる俺たちに、唖然とする兵士の姿が見えた。
突然、入り口に軍靴が床を蹴る音がなり、ゴツッ、ゴツッ と真ん中を、全身甲冑に身を包み、ヘッドギアで顔もわからない一人の騎士が通っていく。
多分、王様がやってくるだろうステージの真下で立ち止まり、こちらに向き直る。
直後、両サイドから同じ様な格好の騎士たちが、足並みを揃えて入って来て、壁を隠すように居並ぶ。
真ん中で立ち止まった騎士の鎧が、一番沢山の傷を残している。
最初は銀色に輝く美しい鎧だったのか? 兎に角いたるところに小さな傷、左肩に爪痕を思わせる大きな亀裂があった。
脚部はスカート状のデザインで、銀色の防具部分から真っ赤な布地が覗いていた。
それも見るからに分厚く、重厚な存在感である。
「君王の拝謁に預かる者が、何たる不規律。
直立に静して待たれよ」
中央の騎士は、精錬されたばかりの剣の鳴りのような澄んだ女性の声で、俺たちを強く諌めた。
使った言葉は辛辣でも、激しい感情は見て取れない。
どうやら、あの騎士団長らしいやつも、地位に恥じない傑物のようだった。
マーズ達は、彼女の言葉に律されてきちっと気をつけの姿勢になって固まった。
ジワリーは、ため息を付いて首を振りながら、仕方がないのおと漏らしながらデロンと立っている。
やっぱり、騎士団長さんとは知り合いなんだろうな。
俺も、ジワリーに習って適当にデロンと立ち上がった。
テッドは、俺に振り向いていた状態から立ち上がり、斜に構えて帽子をとってニヤついている。
テネシーは、両足を投げ出し、壁によっかかって座りこみ、騎士団長さんを思い切り睨みつけていた。
「くっくくくく」
テッドはこらえれずに笑っているが、よくあんなのをここまで連れてこれたもんだと思う。
あまつさえ、困難なダンジョンに二人で行って来た分けなんだろうし、恐ろしいもんである。
と、突然脇に控えた騎士達が、中央の舞台に一斉に向き直った。
中央の騎士団長らしき、歴戦の女騎士っぽいのだけが、微動だにせず、入り口をまっすぐ見つめている。
舞台の上には、いつの間にか、3人の従者と共に、随分と軽装な初老の男性が現れ、豪勢な椅子に腰掛ける。
軍事国家の王様といえば、自らも甲冑を着込んだイメージがあるが、この王様はしれっと普通に地味なグレーのローブを着てきた。
足元にスリッドがあり、黒いズボンも見えている。
ごま塩の短いヒゲ、目元のシワ、広い額、そして、武人の瞳。
3人の従者は、大中小、と見事な三バカトリオのテンプレのようで、真ん中にずんぐりむっくりのオヤジ、右にちびヒゲメガネ、左にタレ目のっぽと、素晴らしいバランスだ。
コイツラは、イメージ通りに嫌味な役人というやつらしく、さっそく俺たちの素行に苦言を呈した。
真ん中のずんぐりが、最初にジワリーを咎める。
「ジワリー! 貴様、王の御前をなんと心得る!
いやしくも国賓級の栄唱を受ける貴様が、不心得者共を律さずして如何にする!」
ジワリーはというと、うんざりしたような目をローブの底からのぞかせて、ズングリを見上げて、仕方がないのー、と口に出しながら、前に歩み出て手をかざした。
「ほれ、ちゃんとせえ。
テネシーも、ほれ、アホがしゃしゃって面倒じゃ」
ジワリーの促しで、テネシーは睨みつける相手をずんぐりに変えて、一応立ち上がって、また壁によっかかった。
俺もジワリーに視線で促され、つまらんな、と思いながらも一応気をつけをして、わざと大真面目な顔で立ってみると、案の定、ジワリーもローブの下でわかりにくいが、大真面目な顔で佇み返してくる。
鼻から笑いが漏れ出して、プルプル震える俺を振り返り、テッドは下を向いて表情を隠すが、やはり肩は震えていた。
ひとしきり震えて顔を戻したテッドに、ジワリーが大真面目な顔でガッツリ目を合わしてきて、またしばらく下を向いて震えることになる。
「ジワリーィイ! 貴様、何をやっている!」
「貴様ら、礼なく御前に立つか!」
「騎士よ、何故動かぬ! 全員捕らえて当然ではないのか!」
三バカは見事なコンビネーションで場を盛り上げてくれるが、騎士はむしろ和やかな雰囲気でジワリーを見ている気がする。
いつものことってやつなんだろう。
「面倒なことをグジグジと相変わらずじゃな。
ワシは今回の選定、貴様ら三人が人材集めに動くべきじゃったと今でも思うとるぞ?
あろうことかこの老体に重役を押し付けて上から偉そうに講釈するとはの!」
ジワリーは三バカ大臣に向けて例のアースターボライターでも放つかとばかりに、きっと睨みつけて文句を言うが、流石に王様の前で無茶はしないらしい。
更に食ってかかろうとするおっさんたちを、咳払い一つで制したのは一番高いところに座った王だった。
そこじゃ高すぎて逆に見づらいだろうに。
「やはりこの椅子は高すぎて下が見づらい」
ほら見ろ。
しかしこの王様も開口一番、愚痴から入ったな。
「君王と呼ばれながら偏差値の低い椅子に座っているのは、随分滑稽な気がする。
辺境に攻め込まれる隙を生むのはこういうところだろう。
大国が聞いて呆れるな」
随分厳かな自虐ネタだが、アイスブレイクのつもりだろうか?
王様は立ち上がって一段下、三人のおっさん達と同じ段に降りてきて俺たちを見回した。
「余談は要らぬだろう?
我が王都にアウトの尖兵が入り込んでいる。
貴公ら3組で捕らえ、アウトの企みを割り出せ」
ぐっはあぁ面倒くせええ!
ここで能力のお披露目会でも開いてくれれば、僕何も出来ませんで終わるものを!
いきなり実技テスト系とは……
王は俺たちを端から見回しながら、それぞれの顔をじっと見つめて話す。
マーズは苦笑いでこれは困った、と声をこぼし、一緒の二人も驚きを隠せない様子だ。
「王都に潜む我が密偵より、少なくとも2名のアウターが潜んでいることを確認している。」
王の口からアウターなる新しい言葉が聞こえるが、どうせ” アウトの人 ”的なことだな。
「未だ尻尾の掴めぬアウターも居るかも知れぬ。
いや、居ると考えて当然の状況である。
密偵によれば王城に入り込もうとする動きがあるとも。
貴公ら3組に1名ずつ騎士を同行させる。
働きを見て国選能力者を選定する」
王様のくせに仰々しい喋り方をしないんだな。
まるでマニュアルの読み上げだ。
「以上。
レックス!
随伴の騎士三名を」
「はっ!」
中央に控えた騎士団長が応じ、腰に下げた剣を抜いて眼前に掲げる。
同時に壁際に控えた騎士たちが旗を部屋の中央に向けて掲げる。
そんでバカでかい鎧の三人が進み出て、騎士団長の前に並んでひざまずいた。
面倒な。
レックス…… あの澄み切った声、テネシーとまではいかずも、きっと可愛い人が中に入ってる。
「アインス、ジワリーに随伴を。
ヴァイス、テッドに随伴を。
ドレス、マーズに随伴を命ず」
三名は立ち上がり不動で答える。
そこは演出なしか。
やたら仰々しいしきたりは三バカ考案、無駄ゼロの軍規はレックスの指揮というところだろうなどうせ。
それぞれの騎士がジワリーたちの前に近づいてくるが、まじでこれと一緒に行動するのか?
敵からしたらこんなに嬉しい目印ないだろ?
堪らずテッドが王様に問いを投げる。
「おいおい、ちょっと待ってくれ、俺もやる気が無いわけじゃない、こういうパターンも考えちゃいたさ。
だが、こんな鎧に付きまとわれたんじゃ、流石に捕獲ミッションは無理だぜ?
それと、他にも聞きたいことがある」
三バカが騒ごうとしたが先にレックスが声を上げた。
「随伴騎士の装備はそちらが指示を。
今より質疑を受けよう」
どうやら鎧のままついてこさせる気はないらしい。
ええ、まじでやるの? 俺役に立たんだろ? もうここで脱落じゃダメ?
「面倒なことを思いついたもんじゃのう…… 嫌じゃなぁ」
お、ジワリーが引き気味だ。
これは良い兆候だ。
俺達がげんなりしている間にテッドがレックスに聞いた。
「密偵が持ってきた情報を教えてくれるのか?
どいつがアウターなのか目星があるんだろうに、まさか隠しゃしないだろうな?
それと、失格の条件だ。
標的を殺しちまったらどうなる?」
随分やる気があるみたいじゃない?
どうもおかしい。
テッドが国のために本腰入れるって、どうも変だ。
多分、ジワリーは俺に言ってないが、国選能力者とやら以外に褒美があるなこりゃ。
「テッド、やる気は結構ですが報奨金だけ持って消えるような企みは控えることです。
テネシーが選ばれれば、あなたにもこの国に帰依してもらいます。
報奨金の額にはその手間も含まれていますから。
破れば地の果てまで追うことになります。
そこの三バ……大臣達も喜んで賛同するでしょう。
アウトのことは後回しで絶対に捕まえますからね」
レックスの言い間違いに三バカは揃って彫刻みたいに顔の堀を深くして睨んだが、ジワリーが爆笑しただけだった。
「俺も腕に覚えがねえわけじゃねえさ?
だがよ、ドードーの騎士レックスの向こう岸を踏むようなバカでもねえつもりだ。
テネシーとこの与太話に首を突っ込んだのはな、あんたが居たからだよ” ドラゴンロード ”」
手のひらを上に向けてスカして見せるテッドだが、こいつがドードーに帰依するなんてことあるはずない。
その時が来たら例えレックスを敵にしてでもトンズラするさ、こいつは。
レックスにもそれは分かっているんだろうが、軍隊を万全で動かせる今はおとなしくしているという算段もあるんだろうな。
「いいでしょう。
密偵の情報はそれぞれの騎士に明かせるだけを伝えています。
アウターと戦闘になればテッド氏が言うようなことも起こりえますが、アウトの考えを暴きたいという優先事項を考慮してあたってください。
失格条件は設けていませんが、評価があることは念頭に願います」
さて、ジワリーは近寄ってきた騎士、アインスに目もくれず、フヨフヨと水晶に乗って浮きながらだらんとしている。
「よう、ジワリー。
聞いてた話と違うじゃねえの」
「なんじゃ?
別に変なことはなかろうが、アスレチックで能力比べじゃ。
ワシ等の勝ち目は大分小さくなったということじゃの。
どう考えたって体育会系の種目で有利とは思えんわ。
開き方もわからん辞書持ったへっぽこと、婆さんじゃからな。
このアインスがどれだけ優秀か知らんが、ワシらが足引っ張ってアボンじゃ」
アボンとか言うな、掲示板にまで手を出してやがったかこいつは。
「そうじゃなくてよ、大体この催しはニックネームを付ける能力者を選ぶって始めたんだろ?
だのにやる事はガチンコの諜報活動じゃねえか。
候補者がどういう能力なのか確かめりゃ、こいつよりゃこいつの方が適した能力だなって比べられるじゃねえの」
俺の言葉に近くに居たテッドもそりゃそうだ、と顎に手をやった。
ジワリーも指摘に怪訝な顔をする。
「だからここで、二つ名? とやらは俺には付けられんと証明して、とっとと帰ろうと思ってはるばる来たわけじゃねえのよ。
王都に侵入した敵のスパイを捕まえろ? できるかぁ!
どっちみち俺は役に立たんな、そら帰せ、やれ帰せ!」
「ええい、ちょっとまっとれ!
こりゃレックス!
このトンチキが言うてる事も外れてはおらんぞ?
二つ名を付ける能力者を選定するちゅうから、ワシはこのスカポンを連れてきたんじゃ。
アウトの連中と喧嘩するちゅうなら、相応のボンクラを探してきたものを、わざわざこのミソカスにしたんじゃ!
話が違うておるぞ、根っこから!
どういうことじゃい!」
この婆さんの口の悪さはどうだ、あの三バカじゃなくても牢屋に入れたくなるってもんだ。
「この度王都に潜入したアウターもネームドの可能性が高いと聞きます。
大目的はネームドを量産するアウトを、我が国に対して無害化することです。
何も、同じ様にネームドを量産する事に固執する必要はありません。
大体、この何世紀に渡ってそんな能力者は生じていないわけです。
選定されるのがどのような能力であれ、実戦投入は想定していました。
見越してこの検定です」
レックスは別段ためらうこともなく、やいのやいの言わずにやれ、と止めを指してくる。
くそ、なんとかここで元の世界に引き上げたい。
だって、こっから先は異世界観光じゃなくなっちまうじゃない。
なんでまだやって来て1週間程度の世界で国家事業に関わらにゃならんのよ、しかも戦場的な、バトル的なやつに。
「やつも相変わらずじゃの…… 多分口からでまかせに今言うたんじゃぞあれ」
ジワリーはもう観念したようで、ため息を付きながらもアインスとやらに話しかけている。
「で、主はネームドなんか?」
「まさか。
俺は半月前に騎士団入りしたばっかりのド新人さ。
おっと、なんで俺なんかがって聞かないでくれよ、選んだのはレックス団長だからな。
ちなみに他の2人も戦場も知らないひよっこってわけさ、そこは平等だろ?」
またため息を付いてフードを深くかぶり直すジワリーは、やってらんねー、という感じで水晶玉の上にでろんとなった。
とりあえず鎧を外して中身をみせろ、とジワリーにどやされて、ヘッドギアを外したアインスは、硬そうな黒髪の、馬鹿だけど才能隠してる系主人公という感じの青年だった。
「ふむ、顔のあちこち傷を見るに、喧嘩にはなれてる感じじゃの。
まあなんとかやっていくしかないわい。
とりあえず装備を整えようや、そのデカブツは鬱陶しくてかなわん。
それがないと戦えんわけじゃなかろ?」
「俺が戦うんならこんなモンは使わねえさ」
ぽんと鎧の胸をアインスが叩く。
「騎士団も何種類かに別れてるんだが、レックス団長率いる最前線部隊はほとんど正規の鎧は使わねえ。
逆に他の6部隊はほぼ全員装着だ。
俺はまだレックス団長の元に配属されちゃないが、見てな、すぐにのし上がってやるさ」
いいぞう、自身とやる気に満ちている新人、お前にはきっとテンプレ挫折と覚醒イベントが待っている。
ふと、レックスの方から聞き慣れた懐かしい音が。
ブィー、ブィーという小さななにかが振動しているこの音、元の世界を明確に思い出させてくれるマナーモードの携帯バイブだった。
「ちょ、え、レックススマホ持ってんの?!
おい、ジワリー、お前こっちじゃそういうの発展してないって言ってたじゃねえか?
さては俺がいらん知恵をつけたら困るからって嘘つきやがったな?」
ジワリーはでろんと水晶に乗っかったままこっちを見もせずに答えた。
「違う違う。
見とれ、携帯ほど便利じゃないが一応ああいう通信手段もあるということじゃ」
鎧がゴツくて小さなものを取り出せずもぞもぞする、そんな可愛い仕草のレックスがやっとグローブの上に載せたのたのは、めっちゃ細かく振動するどんぐりみたいなものだった。
レックスが震えどんぐりを手の上で潰すと、霧吹きで吹いたように果汁が一気に広がる。
空中にとどまっている時間がとても長いミストで、そこに一人の男が映し出されていた。
凄えな、これってビデオ通話できるってことだろ?
映像の男はなんだか高いところにいるみたいだ。
周りの風景から、多分あれは王都の入り口、門のところで、男は城壁の上にいるんだろうな?
騎士たちと似た風体だが、随分軽装な装備だ。
普段はああいう装備をしているんだろうか、そういや街でも何人かあの格好のやつがいたな。
「団長、ちょっとあれなんとかしてくださいよ、もう手に負えんですよ」
男は手に何か持って自撮りしながら話してる感じだ。
ふむ、多分それこそスマホみたいな通信装置があるんだろうが、木の実と通信できるとは、全くファンタジーだぜ。
「順を追ってください」
レックスがいつものことですが、と若干呆れたような声色で男に説明を促す。
あれっすよ! と興奮気味に男が自撮りから視点を下の方、城門の前に佇む一人の少女に移した時、俺とジワリーがごっふ! と同時にムセた。
腕組みをしてこっちを睨んでいる白麗剣を映したまま、男がまくしたてる。
「団長! あれって白麗剣でしょう?!
全然話が通じねえんすよ、あのトンチキ!」
「驚きましたね。
話が通じないということは、声をかけたのでしょう?」
映像の男は見張り役なんだろうな。
白麗剣のやつ、他のアウトの連中と同じく忍び込もうとしたのか?
そういうの得意そうにないからバレたんか?
「いや、それが、街道の村で手形を取れなかったとか言うんすよ。
門でちゃんと手続きしたら入れるって聞いたから来た、とか言って、普通に通るとこだったんす。
あまりに自然だったんで、戦場でアイツを見たことある俺が居なかったらそのまま通ってましたよ」
うわぁ……
「アウトから来た、とか村の役場で正直に話したんでしょうよ、手形がでるわきゃねんすけど、村のやつも困ってこっちに振ったんでしょうね。
帰れっつうんすけど頑として聞きやがらねえ、今までの人は親切だったのになんで意地悪する、とかてんで噛み合わねえんすよ!
ちょっと声こっちに通しますんで話しちゃくれませんか、団長あいつと楽しそうに戦ってたでしょ?」
「……うーん」
麗しのレックスも流石に頭を抱えている。