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王の選別 2


王の選別  2



あの後色々試してみたが、これと行った収穫は無く便所を出る。

さて、ジワリーに分かった事を話すかどうかだ。

王様に内緒にしたいが、こいつにも内緒にしとくと後からどんな腹いせを持ち出されるか分からん。


だが、普通に考えてこいつに話したら王様にばらされるよな。


「図書館へは行かなくて良いのか?」


「王の選定が終わってからで良かろ。

ワシとしては、ステイ以外にまともな名付け主が居るとは思えんが、万が一王がお前さんを国選能力者にせんかったら、お前さんあっちに帰るんじゃしな」


お、中々物分りが良いじゃねえの。

どうしたどうした。


「なんだ、諦めが良いじゃねえか」


「確信しとるということじゃ」


ふむ、こやつ簡単に帰るとかいうけど、そんな自由に行き来できるのか?


「ジワリー、あっちの世界にはいつでも行けるのか?」


「いつでもは無理じゃ。

まずワシの家からでないとダメじゃ。

水晶の置き場所を見たじゃろ? あそこに色々細工がしてあって、それが無いとあんなことはできん」


部屋の丸テーブルでお茶をすすりながら答える。


「うまい茶じゃな、あっちの世界のに似とるの。


行ったらある程度行ったきりで良いんじゃが、行ってすぐ帰るのもできん。

最低1ヶ月は無理じゃな。

リスク無しで渡ろうとしたら半年はいる」


「じゃあ半年は結局帰れんのか」


「お前さんはドードーの為に国選能力者になるんじゃから帰れん」


こいつにも内緒にしておくことにした。

分かったら俺を魔法で傀儡にして操りかねん、できるか分からんけどそれくらいしそうだ。


「少なくともアウトの驚異が去るまでは付き合ってもらわんとの。

ま、ワシが死ぬまでには帰しちゃる」


「ジワリーは長生きしそうだからなあ……」


俺も茶をすする。

確かにうまい。


「よう、ジワリー、まだ夕方だがずっと引っ込んでていいのかよ、暇だぜ」


「ワシもじゃ。

ヌシ、爆弾あと何個あるんじゃ?」


まだ沢山ある。

使ったのは3つだし。


「ええと、確か30近いはずだ」


ローブをごそごそして感触を確かめる。


「威力を上げるのにはどうしたら良いじゃろのお」


「これ以上のは今の材料と設備ではできねんじゃね?」


ここまでの旅路で大分役には立ったが、所詮工作の域は出ないものだ。

ヒットさんが売ってたネーベン産出火薬の性能が良いから、まだ使えているだけで、俺らがやった加工なんて子供の遊びみたいなもんだ。


爆発する剤の総量を増やすなんてのは、高性能爆薬がアレば必要ない発想だ。

今手中にあるのは混ざり物だらけの剤なわけで、得体も知れたもんじゃない。

ジワリーとヒットさんが暴発予防対策をしてなかったら、怖くて持ってもいられない。


練り上げの主成分は燃え方を見ると黒色火薬なのだろう、導火線の芯にするやつだ。

ガスに成って膨張するのは変わらないが、高性能爆薬と違ってやり方次第でゆっくり燃える。

低性能爆薬に分別されるだろう。

でも多分、ごく僅かに高性能爆薬に類する反応を示すものも、入ってるじゃないかな?

じゃないと土を巻き上げる様な威力は得られないと思うのだ。


「そうかの、やっぱり。

まあ、今の所十分じゃよな」


高性能爆薬のガス化膨張による衝撃は桁が違う。

当然、雑貨に付着した物質やらで得られるものでもない。

生産には工場と、それを扱う組織的な知識がいる。


有ったところで扱えないしな。

今の爆弾もどきくらいが丁度良い。


ただ、気になるのは道中で早速、強盗ではあるが人に向かって使用していることだな。

ヒットさんは今頃どうしているだろうな……

騎士とやらに捕まってなきゃ良いがな……いや、世の為には彼女は捕まった方が良いのかもしれないな。


ま、爆弾もどきについてはあっちの世界には持っていけないよな。

ジワリーの回復役がうまく機能しなかったように、こいつもどんな不具合をきたすかわからない。

下手に過敏になって暴発パレードになったらすぐお縄だ。


「ステイ、ヌシはなんでそんなに元の世界に帰りたいのじゃ? 意中の人でも居るのか」


バカな事を聞いてきやがる。

どうして帰りたいかって?

決まってるじゃねえかそんなの。


「向こうの方が快適だからだ」


それに、こいつだって向こうの世界にそれなりの時間滞在していた分けだから知っているだろうに。


「文明もあっちの方が発達していて、俺の国では幸福感こそ少なくとも、それなりに働いていればぼちぼち生活できる。

刺激的な毎日より、衣食住に困らず、ネットで適度に暇つぶしができて、ある程度のストレスを仕事で得て生きていける世界の方が、俺にとっては居心地が良い」


つまらんかもしれないが、例えば引っ越そうとしたら億劫になる程度には、色々なものが詰まった生活なのだ。

それを突然ぶっ壊されて、あまつさえ剣と魔法の異世界に引っ張り出されたら、帰りたいに決まっている。


「ジワリー、お前が向こうの世界で戦争に手を貸せと言われて、よしやったろうとなるか?

特殊部隊も真っ青の重火器技能とか、突然手に入れたとかなら……それでも嫌だろうが。


俺なんてお前、使い方の分からん上に、使えたって役に立つのか甚だ疑問な能力が湧いただけだぞ。

この爆弾もどきの方がよっぽど頼りになる」


ため息混じりでジワリーが答える。


「愚問じゃったな。

じゃが、ヌシの様子を見て居ると色気があまりにないのでな。


ほれ、ヒット辺りどうじゃ、ワシが口を利いてやるから一つ口説いてみんか」


「あんた、俺がネーベンにとどまる口実作ってるだけだろうが?」


「バカモン、これからどんな闘いが待っておるか分からんのだそ? 癒やしの一つも作っておかねばのお。


どうじゃ、ヒット。 ダメか?

まあ分からんでもない、アレじゃからの。


そしたらポートはどうじゃ?」


あの猫耳メガネか?! ふざけんじゃねぇぞ!


「アイツは俺がやっつける! 絶対やったるんじゃ!」


俺がアイツの所業を説明しようとした時、扉がノックされる。

なんだ、タイミングが悪い、俺はあの件についてはジワリーにも問いただすことがあるんだがな、後にしてくれんかな。


「なんじゃあ」


居留守を決めようとしたがジワリーが答える。

まあ、そりゃ答えるだろうけど、もうちょっと良い返事をしてやれよ、誰が来たか分からんだろ。


「失礼、ジワリー殿の居室と伺ったのですが」


嫌に丁寧な口上で部屋に5人が入ってくる。

多いな。

三人組と二人組に分かれて控える。


口上を述べたのは三人組のリーダーっぽい男だ。

帽子、軽装の装備、弓を大小二つ背に持っている。


背後に付き従うように戦士の若い女。

赤く短い髪、身長に見合わぬ幅広の剣、部分鎧。


隣にグレーのローブの男。

フードはかぶらず髭面を晒している。

無精髭ではあるが、いかにも真面目そうな武骨な中年、端正な顔立ち。


「突然に失礼いたしました。

無事王都に到着されたと聞き、挨拶と合わせて申し合わせたいことがあり参りました」


要件を簡潔に話すタイプのようだ。

だが裏に見えない思惑を感じてしまう。

俺はあまり好かんな、こういうヤツ。

自分はキレ者だぞって種類の威嚇を、常にやってる感じだ。


対して二人組は、面倒臭そうに各々勝手に地べたに座ったり、ベッドの端に体を預けてあくびをしている。


この二人は、なんというか、目立つ。

むしろ、三人組など相手にもならない、そんな異様な存在感と気配に満ちている。


ベッドの端に体を預けた男は、所謂ガンナーの風貌。

レザーを中心に誂えた、粗野な服装。

黒い髪、短く硬い顎髭、目元に刻まれた深いシワ、埃で茶色がかった白のシャツ、黒のジャケット、左右ではなく左の腰に二丁の拳銃を帯びている。

それぞれバレルの長さが違っているが、共にリボルバーに似ていた。

シリンダーがやけに長く感じるので、俺の知る銃と全く同じと言うわけではないのだろう。


そして地べたに座り込んで、一際面倒臭そうに俺を眺めている少女。

はっきり言う。

彼女はネーベンに来てから出会った誰よりも、否、元の世界も含めて今まで俺が目にした誰よりも、美しい。

俺の好みがどうとかいう問題ではない。

顔立ちだけでなくスタイルも含めて、美術品めいた神秘的な美しさだった。

ロングスカートで片膝を立てるという、随分気の利いた姿勢で座り込む。

服が汚れることなどお構いなしだ。

しなやかな黒髪は、どこか薄っすらと青みがかっている。

輝くような白のロングスカートと、空色のジャケット。


「私達はあなた方と同じ、この度の謁見に賜る者です。

王都へ集ったのは我ら3組のみです。


私共はもとより王都の人間ですから、他10組に登る方々からお二組のみが王都へたどり着いたということです」


「他の奴らは何者かにやっつけられたと聞いておる。

ヌシら、なにか情報を持っておるのか?」


ジワリーは三人組のリーダーに、白麗剣のことは明かさず訪ねる。

やつへの印象は俺と同じらしい。

早速こちらの状況をできるだけ隠したい相手って感じだ。


「私達は王都にいましたが、治療に運ばれた方の話を聞けば、どうやらアウトの連中が襲ってきている様です。

辺境からここまでやってきてご苦労なことです。


テッドさん、あなた方も襲撃にあったそうですね」


ガンナーに尋ねる。

彼は、話を振ってきた男は無視するようにジワリーと俺に近づき、握手を求める。


「テッドだ。

あんたらの噂はよく通ってる。

まあ、よろしく頼む。


あんたがジワリーが見出したヤツだな」


俺は片手を上げて答える。

少ししわがれた声がいかしたおっさんだ。


「俺が連れてきたのはこのテネシーだ。

珍しいことにあんたには興味があるらしいぜ」


例の美女を紹介する。

テネシーというのか。

ふむふむ、実に似合った名前だ。


「ジワリーじゃ。

さっきから睨まれとるようじゃが、ステイ、お前さん何かやらかしたんか」


「テッド、テネシー、俺はステイという。

ジワリーよ、アレは見つめてると言うんだ、知らねえのか?」


とりあえず名乗ってくれた二人には挨拶を返す。

三人組のリーダーが慌てて名乗る。


「申し遅れました。

マーズです。

こちらは一緒に行動しているドリー、そして今回私達が用意したトレンズです」


「うむ、して、何を申し合わせようと?」


「そのアウトからの刺客についてですよ。

あなた方の元には刺客が現れませんでしたか?」


さて、ジワリーは何を返すだろうな?

わざわざ出向いてまでそんな事を聞いてくる、この面倒臭い野郎に、どう返すかだ。


「ステイ、どうじゃった、そんなヤツおったかの?」


面白い言い方だ。


「俺にとっちゃそこらじゅう変なヤツだらけだからな。

少なくとも襲って来たのは魔物と、街道にいた野党くらいだ。

野党があんたらの探している刺客だったのかもしれんが、そういう雰囲気でもなかったぜ」


俺もはぐらかしながら嘘は言わない、という答え方にしてみる。

ジワリーの目元がニヤついている。


「そうですか……おかしいですねえ、他のグループはかなり過激な攻撃にあってるんですけど。

何分、アウトからやってきたのはネームドの集団のようでしたから、どういった連中なのか情報を整理したかったのですが。」


「マーズ、あんた騎士なのか?」


「いいえ、今回の謁見に賜る者は皆、国を思い集っています。

私達もそうですからね。

この王都にも潜入を許したかもしれないのですから、自らの身を護る為にも情報は重要でしょう?」


なるほど、確かにそうだが、面倒くさいやつだ。

テッドの用事もそれなのか?


「俺はそういうのはどうでもいいんだ。

誰がどこに潜んでいようが、何を知ってようが分からねえ時は分からねえさ。


それよりあんたらの顔を拝みに来たのさ。

トレンズの旦那を嫌いじゃあ無いが、テネシーとぶつけて面白そうにはなかったもんでな」


悪く思わんでくれ、と彼を見るテッドに、無表情に答えるトレンズ。


「ステイ、あんたなら楽しい事になりそうじゃねえか。


遥々ドードーまでやってきたんだからな、ちったあ面白みがなきゃな」


テネシーが立ち上がる。

俺から目は離さない。

何だ、そんな変な顔してるか?


彼女は俺の方に近づいて、すぐ近くで目を覗き込んできた。

ちょ、恥ずかしいがな。


突飛な行動にテッド以外の皆が驚く。

テッドはまただよ、というように肩をすくめた。


「隠してないで見せなさい」


飛び切り澄んだ声色だ。

白麗剣の事を言ったわけじゃない、というのはなんとなく分かった。


「すまんな、出し方を知らんのだ」


俺も負けじと言い返してみるが、もちろん動じる気配はない。


すっと、俺から離れて踵を返す。

こちらは見ずに、手を降って部屋から出ていく。


「城で会いましょう」


テッドも笑みを残して去った。




「ステイ、ワシ、ちょっと自信がなくなってきたわい。

あのテネシーという女、底が知れん雰囲気じゃったな」


「同感だ。

俺にとっては吉報だがな」


ジワリーは開け放された扉をわざわざ閉めながら、感慨深げに腕を組む。


「対してトレンズ殿はテッドじゃないが大した物を感じん。

じゃが、得てしてそういう人物こそ奥底に大物を隠しておる。


明日はどの様に王がヌシらを見定めるか分からんが、お互い力を尽くそうの」


トレンズは自分への低い評価を隠そうともしないジワリーとテッドの前でも、何食わぬ顔で言葉を発しない。

確かにこっちはこっちで得体が知れない。


「ところで、さっきの二人はナニモンなのよ。

冒険者的にはド素人の俺でも、彼らがそこら辺うろついてる奴らと違うのは感じたわ」


ドワーフエルフの自警団長が言ってたダンジョンから帰って来た手練ってのが、多分アイツラなんだろう。


「はい、彼らは高レベルダンジョンから帰還したばかりです。

危険なエリアの奥に、名付け主につながるアイテムでもあったんでしょうかね。


最近、ジョリジョリからドードーに拠点を移したハンターです。

テッドは既に名前も通っています」


「テッドと言えばネームドじゃと言う噂もある。


テッドは所謂賞金稼ぎ、ついでにトレジャーハンターじゃな。

アウトの刺客も、きっと盛大に返り討ちにあっておるさ。


じゃが、気になるのは連れの方じゃ。」


マーズも彼女についての情報は殆ど持っていないようだった。


「テッドといえば一匹狼で知られた男ですからね、本来なら彼女は今回の催しの為に彼が用意した人材と考えるところですが……何分にも、アレですからね。」


マーズも彼女を特別な存在として捉えているようだ。


「マーズさん、あんたらはナニモンなのよ?

そこの姉ちゃんと一緒になって、正義の味方でもしとるのかい?」


「まあ、そんなところですよ。

別に、傭兵はアウトの専売特許じゃありませんから。


騎士に憧れはしたが取り立ててもらえない連中が、私のような事をやってるのは珍しくないですよ」


なるほど、フリーランスか国、城以外のギルドに所属する民間傭兵と言った所か。

さっきからドリーなる戦士は顔も伏せがちでマーズの後ろに隠れたままだ。

マーズ以外は暗いな、このパーティ。


「さて、他に用はないかの?

ワシらも手の内を明かしたくないからの、あまり話込むのも得策でなかろう」


さっさと帰れ、と続けそうになるジワリーだったが、流石に言いとどまる。


「まったくですね。

では、これで」


3人は丁寧に入り口で会釈して帰っていった。


「先手を打たれたか?」


「いいや、あのマーズとやらに見るところはないの。

企んでおるし実行もできようが、発想が小さい、そんなとこじゃな。


トレンズとやらの質に自信がアレば、ジタバタする事はなにもなかろう?

むしろ、トレンズが小物を信用しとらんと見えたが、そこが厄介じゃ。

小物すらあのねずみ色の地味男を把握しきっとらん分けじゃ。

マーズがそこを気づいているかどうか、なんじゃがな」


マーズに駒として動かされる事を飲んだ上で、付き従う雰囲気でもない、そう、得体が知れないのだ。


「テッド達の事は考えても始まらん。

奴らに裏はなかろう。

言うたとおりワシと、おヌシの顔を見に来ただけじゃな」


ジワリーはフード越しに頭をかきながら感想を漏らす。


「どこまでを見ていったかが問題じゃがな。

ヌシは奴らに何か感じる事はあったかや?

どこまでを見通した?」


「美しい人だった」


そうじゃろうの、と茶をすすりながら興味もなさそうだ。


さて、どうやらアイツらは俺のライバルになるらしいが、俺としては誰がどんな能力を持っていようが知ったことではない。

とにかく、俺に勝利して王様の心を射止めてくれさえすれば、それで万事済むんだからな。


そう、遂に明日が本番、という事になったのである。

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