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武器作成

第3話


武器作成




王都へ向かう道中には魔物が出るという。


ジワリーは一人で何度も行き来しており、それほど警戒していない。


出てくる魔物もその程度という認識で良いのだろう。


だが、魔物は魔物だ。

ネーベン初心者の俺からしたら、すべからく恐ろしい。


俺はウリボーや犬にも余裕で負ける。

このローブがどれだけ凄いか知らんが、サイズ感で言ったらあれくらいでも驚異なのだ。


その上魔物なんだから、絶対やばい。


「ヒットさん、この火薬の練り上げとやら、どうやって使うんスカ?」


まきびしに見えたがどうやらトゲトゲした形の火薬の塊みたいだ。


「それは魔法で加工した火薬と樹脂の混ぜものですね。


爆発力はそれほどありませんが、極小出力の電気でも発火できるようになってます。」


つまり、本来は魔法と一緒に使うものと言うことか。


「魔法じゃなくても火がありゃ爆ぜるってことだな。


これをどっさりいただきたい。

粉末はジワリーが持ってるか」


電気と言う言葉が聞けたのは収穫だな。

おそらく機械的にはエレキテルもまだできてないレベルだろうが、魔法とやらでバチッとなるのを道具に応用する発想はあるということだ。


「こういうアイテムは他にもあるだろうか?


例えば電気を固めたやつなんかはおもしろそうだ。

火気を用意しなくてもぶつけたらバチッとなるやつ」


「うーん、そういう商品もあるんですが、起動に魔法が要らない物って法的にグレーなんです。


うちでは扱ってないんですよ、そういうの」


ほっほー、なるほど。

どうやら少なくともドードーでは、手軽に威力を行使できるアイテムには流通規制がかかっている。


それが治安維持や安全の為なのか、意図的に魔法と技術の融合、また発展を遅らせようとしたものなのか、その辺は知らないが。


うまく言ったらとてもお気楽にテーザー銃が手に入ると思ったが、そうはいかないようだ。


だが、黒色火薬がこんなに簡単に手に入るのなら武器的にやれることは腐るほどあるだろう。

「この火薬玉は樹脂と練ってあるなら別に魔法をかけなくても固まるんじゃないか?


燃えにくい樹脂なの?」


「威力を抑える為に魔法を使ってるんです。


あとこれは一応、非定常燃焼タイプなんですけど、定常燃焼タイプのものもあります。

そっちは簡易ファイアボールとか使いみちが面白いんですが、その辺りのコントロールに魔法が使われてます。


見ての通り大量にありますからね。

加工してヤバイのを作ろうって人もいますから、威力はどれも抑えられます。


マジックキャンセルは超高等技術ですし、こういったアイテムに対しての行使は公的な場合を除いてすべからく違法ですよ」


なるほどなるほど。


「ところで、綿はあるだろうか?」


「ちょっと! ステイさん!


何をやらかそうとしてるんですか?!


私の店のアイテムで変なもの作らないでくださいよ?!」


「ヒットさん、こう見えても俺って戦闘力皆無なんですよ。


俺でも使えて威力のあるものを用意しないと、あっという間にお陀仏です」


どうやら俺の意図しているところを察したヒットさんが怒り出す。


ジワリーは買い物かごに必要なものを大体集め終わったようだ。


薬などはジワリー生産の回復薬で足りるそうだし、乾燥食料やら減った調味料やら、食事についての買い物が主なようだった。


「ふむ、面白いことを考えるのう!」


ジワリーは俺の考えに極めて肯定的だった。


「ちょっと! あなたがそんな事言いだしたら益々怖いですよ!


ガチで手軽な怖いものができちゃうでしょう?!」


「まあまあ、ステイにも武器がないと本当に危ないのは確かじゃ。


ローブに頼り切りってわけにもいくまいよ。


ワシだけじゃったら対処できるものも、コヤツが一緒なら返って面倒が増えるというもの。

いくらかは自分で対処してもらわにゃならん。


剣やら斧やらが使えなきゃ、弓やボーガンも厳しかろう。

もっと手軽ですばやく危ないものでないとの。


そうなると……ぐふふふ

これじゃよなぁ」


ニターと、今こそやってみたかったことができる時じゃ、的な笑みのジワリーだった。


「い、いけませんよ!


絶対ダメ!」


可愛らしく拒否するヒットさんだったが、ジワリーと俺はもう確信していることがある。

お互いに目配せして息を合わせる。


彼女の言葉の端々に、普通は聞かれない単語が混じっていた。


非定常燃焼とか……コントロールされてない燃焼、爆発もこの一種だ。

逆に定常燃焼はコンロなどの操作下にある燃焼をいうのだ。


婆さんはつまんだ火薬玉の匂いをかぎながらヒットさんに詰め寄る。


「ヒット~……こんな物を売っておいて興味が無いとは言わさんぞお主。


この練り上げのツナギに使っとるものは何じゃ?

糊か? 粘土か?


いいや、松ヤニじゃろう?


なんでそんな手に入りにくい物をわざわざ使うたんじゃ?


燃えやすいからじゃろうが?!

威力抑えに真っ向喧嘩うっとろうが?!


言うてることとやってることが違うてきたのぉ?」


「そのドアの向こうには盾やら剣やらのメンテに使う工房があるはず。


そこで、これ作ったんでしょう?」


俺は火薬玉を一つつまんで意地悪く迫る。


「い、いや、やめて……」


「工房を使わせてくれとは言いませんん~。


ただねぇ、そこに落ちてる金属の粉末をちょぉっといただきたいのですよぉ?


剣とか盾とかヤスってるでしょう?」


「ダメですってば! そそ、そんなモノ、何に使うって言うんですか?!」


「ジワリー、塩は沢山買っといてくれ」


「だめぇえ! ダメです!


売りませんからぁ絶対!」


泣きそうになりながらヒットさんがすがって来る。


ジワリーは塩の追加購入に棚を探す。


「どこじゃったかいの。


有った有った」


とうとうヒットさんはカウンターから出てくる。


「ちょっと、ジワリーさん!


私までとばっちり食っちゃいますって!


しかもまたですよ、また!

前になんでしたっけ、『かんしゃく玉』?


でしたっけ、あれ作った時も危うく逮捕でしたよ?!」


「やかましい、ヒット、主はあの時も火薬いじりだしたら止まらなんだじゃろが?


終いにはワシに黙って練り上げまで売る始末じゃ!


威力制御されたもんでも、粉末火薬なんぞどこから手に入れたんじゃ?!

ワシのようにフリーパスとはいかまいに」


うう、と唸って冷や汗を見せたヒットさんがたじろぐ。


「黙って工房を使わせい!


ワシはどうせ王様のところまで行くんじゃ。

この練上げを王様の前でディスっちゃれば、お前さんの立場はわるいぞよ?


それより手伝ってくれるんなら、お前さんでは入手できん粉をイジらしちゃるぞ?」


どうやら前々から二人でいろいろやってたようである。

ジワリーの指摘通り、本来はこのまきびし型の火薬玉も、道具屋では売ってないんだろう。

さっきからヒットさんの個人的な趣味が見え隠れしている。


ネーベンではかなり好き勝手できるらしいジワリーに脅されて、泣きそうな顔でカウンターの中へ入る入口を通せんぼしていた。


「今度のはお遊びの花火とかじゃないんでしょ?


魔物にぶつけて効くとなると、作ることも協力するのもアウトなんだから……


自分ちでやってくださいよ、せめて。


ちなみに、どんな粉を持ってるんですか」


嫌がりながらも興味はあるし、すでに諦めてもいるのだろう。

彼女はジワリーの甘言に乗り始める。


二人で俺にも聞こえないようにコソコソ話している。


「……固形で蒸発燃焼の消えない系……白じゃないぞよ……」

「それ毒性がやばくないんですか……ああ赤……」


コソコソ話にしても物騒な響きだ。


ジワリーはローブの袖に片手を引っ込めてゴソゴソやって、指先にちょっとつまんだ黒い粉をヒットさんに見せていた。


悪い顔をしている。

ヒットさんもゴクリと息を呑んでいる。


指先に受け取って匂いを嗅いだり、チョットなめたりしている。


うーん、そういう光景、剣と魔法の異世界で見たくないなぁ……


ヒットさんは一旦店の外に出て、看板をしまいこんでしまう。

厳重に戸締まりをしてから、カウンターの中へ。


「できたものは分けてもらえるんですよね?」


恥ずかしそうにしているが、全く可愛らしさは感じられないな。






ジワリーと二人で工房に入ってみれば、驚きの設備が整っていた。


部屋はさほど広いものではない。


道具屋エリアと違って各所にそのままのホコリや、片付けていない工具が見て取れる。


工具袋の中もそれほど整頓されているようにはなかった。

だが、自分なりのルールに従って置いてあるのだろう、ヒットさんはヒョイ、とその中から目もやらずに目的のピンセットを取り上げる。


住み慣れた感じがとてもガテン系である。


ギャップが可愛い域はとっくに超えてしまっている。


中央には大きな机、コーヒーの一番本格的なサイフォンみたいなガラス製の管がこんがらがった器具があって、上の方ではポコポコ何かのガスが沸き立っている。

下の方では液体が少量ずつ滴り落ちており、ビーカーに採取されていた。

一部まがまがしい色である。


更に奥には高温の窯? これはもう炉といっていいのではなかろうか?

鉄の扉が付いたおそらくかなりの高温を生み出すだろう装置が見えていた。


ヒットさんはここで何をしておるのだろう?

まさか剣や盾を0から作ってるんじゃないだろうに。


机の上のマッドサイエンティスト感が怖すぎるんですが?


普段の清楚で物腰の柔らかい雰囲気が、逆に恐怖を募らせるのだった。


「なあジワリー、ちょっと怖いんですけど」


「こりゃ、ワシらで焚き付けたんじゃから引いてやるな」


「ステイさん……?

ここを見たからにはもう後には引けませんよ……?」


よく見れば、剣やら盾やらは工房の端に追いやられている。


装飾を引っ剥がしている途中なのであろう盾が一枚、万力に挟まれて悲しげにしていた。


多分、貴金属をなにかの触媒に使うために引っ剥がしてあの炉で溶かしているんだろう。


もうすでに恐ろしいが、ジワリーとヒットさんの様子を見ていると、おそらく爆発物に手を出しているのだろうし、何とも危うい場所なのであった。


「で、ステイさん、あの火薬玉で何をしようと?」


「いや、まあ爆弾を作りたいんだよ。


しかも、魔法がなくても起爆できるやつな。

俺も詳しくないんだけどね。


ええと」


俺は紙と書くものを探すが見当たらない。

ジワリーが四次元ローブからメモ用紙と鉛筆を出してくれる。


「手榴弾、てわからないか。

ええと、手元で操作してから爆発するまでタイムラグのある爆弾っす」


「まあ、主の武器としては一番良いじゃろ。


完璧に役に立てようとしたら、返って難易度が高い部類じゃろうが、とりあえず的に向かって投げれば死にかけの爺さんでも威力を出せるわい」


ヒットさんは悩ましげな、なんだか恍惚とした感じも受ける表情で考えている。


「うーん、魔法なしででしょ?


やっぱりアウトですけど面白いです……けど類似品が思いつきません。


どうやってタイムラグを生みます?」


ネーベンにはそういうのが無いのか?

魔法で起爆しなきゃいけないという制限のために技術が遅れているのかもしれん。


俺はさっき見た火薬玉とかを使ってこうしたらいいんじゃないかという案を紙に書いていく。


「この火薬玉はかなり小さな火種で弾けるんスよね?」


ヒットさんは頷いて、万力を金属のハンマーでどつく。

火花が飛んだのが見えた。


「これでも弾けますよ」


俺は頷いて紙に視線を落とす。


「まず、ライター……の代わりが魔法なんだから導火線タイプは考えない。


革の袋にこの火薬玉を詰めるんスよ。

誘爆で複数一気に点火したいわけ。


そして火種だけど、火薬玉を詰めた袋の中心部に綿の塊を置く。

そんで、最初に綿に火をつける仕組みを作って、これが燃えてる間に的に向かって投げつける。


綿が燃え広がって炎が火薬玉まで到達して1つ目が爆ぜれば、後は一気に吹っ飛ぶと」


「うふふふふふ、楽しすぎます」


もうヒットさんがキャラクタを隠しきれずにジワリーのような笑い方をしだす。


「ふむ、ほぼ綿を燃やし始める仕組みが作れたら完成ジャワの。

後は袋に詰めるだけじゃもん。


早速ワシが持ってきたこれが役に立ちそうじゃの?」


先程ヒットさんに見せていた黒い粉を見せる。


極小の、指でこするとスミのようにつく粉だった。


これは……火薬なんだろうか?


「地道にマッチの箱から削り取ったんじゃぞ。


流石にこういうものは簡単には手に入らんでな」


マッチの箱……ほほう、面白い。


「で、マッチ本体はどうしたんだよ」


「そりゃこうじゃ」


と右手の裾から無数のマッチの束を覗かせる。


「ジワリー、俺は案はあるんだがどうやって作るかは検討つかん。


実際有りなのかこれ?」


「ま、丁度良いと言ったところじゃの。


まず、綿に火をつける火花を作るんじゃ」


鉛筆を手にササッとイラストを仕上げていく。


「まずできれば燃えない素材の紐じゃ。


針金とかでもよいが普通の紐でも大丈夫じゃ。

最悪燃えても良い。

これの先っちょに、金属の粉、砂、そしてワシが持っとる粉を混ぜたものを塗る。


ネーベンにも紙は有っての?

これに今度はマッチの先っちょを砕いたものをまた塗るわけじゃ。

ヒットの言う所の樹脂で糊にして、塩と金属粉とか混ぜつつの。

乾いたらさっきの紐の先っちょを、筒状に包み込むように巻く。


紐を勢いよく引き抜けば、マッチで火を付けるのと同じ事が紙の中でおこる。

紙を燃えやすくするのには酒でも染み込ますかの。


そんで綿の球の中にこれを仕込めば……」


「紙にキリで何個か穴を開けましょう。


大胆に開けたほうが良いでしょうね。

試験も簡単ですから剤の塗り具合も見極めやすいでしょう。


後は固定ですが、うーん、仕方ない、秘蔵のよく燃える繊維を使ってみましょう」


「革袋の中の練り上げの配置も重要かもしれん!


安心せいステイ、暴発予防は魔法コーティングを使ってきっちりするぞな」


この二人がいればそこそこ良いのが出来上がりそうであった。


こうして俺の武器製造は急ピッチで進む事になる。


ジワリーは家から削ったら黄色い粉になる鉱物を持ってきていた。

ヒットさんはマッチの頭薬の配合の完璧さに恍惚としていた。

俺は何をしにネーベンに来たのか完全に忘れて、出来上がった着火装置から紐を引き抜いて火花を上げるのに躍起になった。


3人で楽しい作業に没頭したのである。


マッチがあるなら導火線でいいじゃん、と誰も気づかないまま。

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