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勇者な俺と魔王な娘  作者: 若宮広
4/4

―結―

ここまでおつきあいいただき誠にありがとうございます。結末です。

「ああ、失敗じゃ。」


とある男がつぶやく。


「ああ、あやつらは皆失敗してしまった。」


男は頭を立てた指で強くかきむしる。


「我々にしかこの繰り返しは解くことができぬというのに、」


男はそういって右手の人差し指の第二関節を強くかむ。


「我々、エルフという長命種でなければこのくりかえしは、」


男は足を揺さぶらせ目頭に強くこぶしを打ち付ける。


「だれか、だれか優秀な者はおらんのか。」


男は両手をつないで頭の後ろにまわし、ふさぎ込む。


「この繰り返しに耐えられる優秀なものが。」


男のひどく醜い悶絶は夜通し行われた。



「お母さま?なぜ私にはお父様がいないのですか?まわりの友達には皆お父様がいますわ。」


銀の髪留めをした金髪の少女が言う。


「お父様はね。今遠くのほうに旅に出ているの。それはもう私たちには手が届かないほどによ。」   


銀髪の黒い装束を身にまとった女が言う。


「そう、一度だけでもお父様にあいたいですわ。」


少女は豪華な椅子に座る銀髪の女の膝の上に手をのばして顔を太ももにうずくめる。


「そうね、いつか会えるかもしれないわね。」


銀髪の女は少女の頭を軽くなでながら、そう言った。

                                               


「今過去の文献をさがしていてな。勇者召喚をするための儀式

についての文献が全く見当たらんのじゃ 。」


豪華なマントを羽織った白髪白髭のじいさんが言う。


「それならば、ほかの国にも探させましょうか。」


髪の毛が目を覆っていない男が言う。


「それもよいが、できれば私たちの国が勇者を召喚したのだという名目が欲しいのじゃ。」


「それならば世界中に足を踏み入れることのできる優秀な冒険家に頼んでみましょう。私の知っている者でそういう者が一人おります。」


「よし、ではそやつに頼んでみようかの。」


二人の目には一点の曇りもなく、ただそうやって話していた。



「これがその先日いっていた者です。」


そういった男の後ろにはフードを深くかぶった怪しげな男がたっていた。


「そうか、よくやった。して、そなた名は何という?」


「はい、私はアークと申します。」


フードを深くかぶった男はそう答える。


「そうか、アークというのか、顔は見せられないのかの?」


その問いに一瞬ためらった様子をみせたアークという男は、しかし、そのフードに手をかけてゆっくりとはずす。しかし、そこにあったのは顔ではなく、包帯でぐるぐる巻きにされた男の姿だった。


「ああ、いや、すまんかったの、まさかそこまでの重症だったとわ。」


「いえいえ、私もこの怪我を負ったときは酷く焦りましたが、今ではあまり気にしていませんよ。」


「そうか。それではそなたにやってもらいたいことがある。」


「召喚魔法の件ですね。既に聞いております。」


「そうか、引き受けてくれるかの?」


「ええ、喜んで。」


包帯の上からでもわかるほどに歪んだその笑顔にこの場のだれも気付かなかった。



「ふう」


そういってフードを深くかぶった男は言う。


「案外ばれないものだな。」


男はフードを脱ぎ捨て、ぐるぐるに巻かれた包帯をはがしていく。


「こんなにも重要な案件だ。依頼する奴の顔ぐらいはしっているかと思ったんだが、」


そういって男はフードをかぶりなおす。


「これで九周目、もう限界だ。」


男は服まで着替え始めると、黒と緑の上下に着なおす。


「さあ、これで終わりにしようか。」


包帯とローブを入れた革袋を肩にかついで、少年は一人、日の昇る方向へむかって歩き始めた。



聖王国ルーンにて、


「この戦いの勝者は、勇者アークだ!」


わーわーわー!


「これにて優勝は勇者アークに決定です!」


わーわーわー!


「それでは優勝者のアーク様にお話しを伺いましょう。」


「えーと、っ私はこれからもまだまだ強くなります。そしていつか、魔王を討ち倒します!」


「だから皆さん私に協力してください。この魔王討伐には皆さんの力が必要です。それぞれ力を合わせて、魔王をボコボコにしてやりましょう!『こんな感じだったかな』」


わーわーわー!


大歓声が闘技場を包み込む。その様子はアークが闘技場を退場してからも、しばらく続いた。



「はは、かなり楽な試合だったな、やっぱ先を知ってるってのはいいな。あとは、このまま魔王城にむかって、魔王のダークフィールドを発動させずに完封できたら俺の勝ちだ。」


男はフードをかぶりながらひとり呟きながら闘技場をあとにした。



「しかし、大変な道のりだったな、テンが歩いていく道をずっと追っかけるのわ。六周目まで、テンがあんな姿になっていただなんて全然わからなかったんだから。」


そういってフードを被った男は魔王城の中を単身で颯爽と進んでいく。


「あいつを殺すチャンスはあのタイミングしかなかった。あいつが目を覚ますその瞬間しか。」


男は両手に片方ずつ持った短剣をふりまわす。


「あいつはいつも、魔王と戦う前に二度戦域を使う、馬鹿じゃねえの。お前が思っているほどその体は頑丈に作られてるわけじゃねえんだぞ。」


男の進んだあとには、無数の魔物の死体が、転がっている。


「さ、タイムアタックだ、相手が落とし穴を使う前に魔王のいる部屋まで突っ込んでいってやる。」


男の進んだあとの道の端にある扉からでてきた魔物たちはその男の速度に呆然とする、―あんなの勝てるわけない―そう思わせるほどに、男の足も剣線もその場のだれにも見えなかった。



「ファースト様大変でございます。」


豚の姿をした魔物が言う。


「なにかしら?今は城内戦力のバランスを考えるに手間取っているのよ。」


頭に二本の歪な角を生やし、銀の髪留めをした金髪の女性が、豪華な椅子に腰を下ろし、足を組んで悩んでいるような様子を見せている。その身には真っ黒の上下にマントをしていて、その金髪は椅子からはみだし床にまで広がっていた。


「それが大変なのです。一人のフードをかぶった双剣の戦士が手に負えない速さでこちらへむかってきているのです。このままではこの部屋に攻め入られてしまいます。」


「そう、わかったわ、落とし穴よ、あなたの独断で作動させていいから、使いなさい。」


「了解しました、それでは。」


そういって豚の姿をした魔物が部屋を出ていく。


「これは厄介な相手かもしれないわね。」


そういって魔王は小さくほほえんだ。



魔王城の最上階をすすんでいたアークの身に突如浮遊感が襲う。


「うそだろ?ちょっと早くねえか?」


そういってアークは剣を二本壁に突き刺す。


「ふう、危なかったわ。」


そういってアークは一本の剣の上に足を乗せ、もう片方の剣を引き抜く。


「さすがにこの剣を抜くような器用さは持ち合わせていないが、なんとかなるだろ。」


男は剣の上から金具へと飛び移りながらすすんでいく。

その姿はとても軽快で、素早かった。



「よくぞここまできたな、勇者よ。」


「ああ、待たせたな、魔王」


両者はともに余裕の表情を見せている。


「なあ、魔王。」


「なにかしら?」


「ここで終わりにしないか。」


「ええ、終わりにしましょう。」


「お前を俺のものにしたい。」


「あなた、何を言っているのかしら?」


真剣なアークの表情に若干困惑する魔王、

そこにさらに追い打ちをかけるようにアークは攻め立てる。


「一目ぼれしたんだ。俺と付き合ってくれ。」


その真剣な目には嘘がないように思えて若干ファーストは頬を赤らめる。


「な、な、なにを馬鹿な事をいっているの?!私とあなたは敵同士なのよ?」


そう魔王は強く言葉を返す。それを聞いて諦めたかのようにアークは言った。


「そうか、これが俺の思いつく二人とも生き残る方法だったんだがな。しかたない。」


アークは一本の剣を魔王に向ける。


「さあ、決着をつけるぞ。魔王。」


「え、ええ、かかってきなさい。」


そういうとアークは剣を自分の胸に深々とつきさす。




「え?」


そんなことがあるのかと疑問を浮かべる。


「これで、俺の役目は終わりだ。」


「どういうことなの。」


「俺はもともとエルフなんだ。人間じゃない。」


「そしてエルフの安寧が保証された今、俺の役目はおわりだ。」


「今世界中の猛者がここにあつまってる、そしてそれをまとめて吹き飛ばせば、もう世界はお前の敵じゃない。」


「どういうことなの。」


「そして召喚魔法の方法をしっているのは俺だけ、お前の父さんのことだ。」


「お父様?お父様をしっているの?教えて。私のお父様は誰なの?」


「そのお父様を救うための足掛かりを俺は九百年使って築き上げた。さすがに疲れたんだよ。」


そういって、アークはその場に倒れる。


「まって、お父様を救うって、どういうこと、ねえ、ねえ。」


少年の返事はかえって来ない、ただただ、ファーストは少年の体を揺さぶるばかりだった。



それから数か月がすぎた、空は晴れ晴れとした快晴であたりをまぶしく照らしている。


荒野の中心でファーストは一人何かを詠唱し続けている。


その手には赤くぬれた本が一冊、ぎゅっとにぎりしめられていた。





九百三十歳と二十歳のカップル、できてても別にいいんじゃないかな。

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