―転―
※今回の主人公はテンではありません。
深い深い森の奥、周りには木々が生い茂り、太陽の光が木々の間を縫って地面へと降り注ぐ。
そんな暖かな場所に一人、少年が天にむかって手を伸ばす。
「今日はいつにもまして日が強いな。暑いの嫌いなんだよな。」
そう言って振り返った少年の顔は白く透き通っていて、まるで妖精のようだった。
「はあ、皆僕にばかりこんな仕事を押し付けて、家でのんびりしてるんだもんな。僕だけ仲間はずれだなんてずるいよ。あーあ、なんか面白いこと起こらないかな。」
そう言って薄緑の髪色をした少年は歩き出す。その右肩には木の形をした魔物が抱えられていた。
※
彼の住む集落は木々に囲まれており様々な木造の建物が木々の枝の上に建てられている。
緑が多く、日差しが直接彼らのもとに降り注ぐことはなく、皆穏やかに過ごしているのだろうことが感じられる。そんななか唯一木の上や地面の上ではなく、木の幹の下に建てられた場所で五人の青年が話し合っていた。
「もうそろそろあの時がくる」
「なんのことでしょうか長老様?」
「ああそうか、お前はまだ百には満たしてなかったな」
「だから何のことです?」
「お前に簡単に説明するとな、この世界では百年に一度大きな災いが起こっているんだ。」
「災いって?」
「まず、人間族と魔族の血で血を洗うような熾烈な戦いが始まる。」
「それは災いではなく単なる馬鹿と阿保がケンカをしているだけなのでわ?」
「それが一回や二回ならそれでもいいんだが、それが百年に一回、必ず起こるんだ。千年生きられる俺たちでさえ今が何回目なのか分からないくらいに続いているんだぞ。」
「へーでもそれって僕らにはあまり関係ないんじゃ。」
「それが関係あるんだよ。いつもその災いが起こる前兆に黒い柱と白い柱がたつんだ。するとあたりが急に暗くなり始めて一年は暗闇の中で過ごさなければならなくなる。しかもそれらに精神汚染の効果があるのか、ひどい苦痛と吐き気をもよおす。」
「それでもみんな生きてるじゃないですか。」
「あほか。これまで何人の子供たちがなくなっているのかわかっているのか?ただでさえ我々には子供が生まれないというのに」
「だから我々森の民はこれより数人の強者をその災いにむけた対抗札として派遣しようと思う。誰かよさそうなものはおるか?」
「それならふさわしいものがいます。いつもひまだ、どこか違うところにいきたいといっておった。」
「ああ、あやつか、まあ無難じゃな。」
そう言って青年たちの会議は終わった。
※
「はいおじさん、今日もトレント一体、たおしてきたよ。」
「お、今日もやるじゃねえか、よくこんな化けもの倒せるな。」
「いや、こんなのただの慣れだよ、もう十年は森に出現した魔物を倒してるんだよ?皆俺より年上なのにどうしてこんなこともできないんだか。さすがに飽きたよ。」
「それなら俺だって大工になって三百七年目だ。しかしそれでもこの仕事はやめられねえよ」
そう言って、青年はそのたくましく鍛えあがった右腕に力こぶを現わせる。
「もうすぐ二十になるんだ。そろそろ自分のやりたいことを探せ。」
「はいはい。わかりましたよ。」
少年はぶっきらぼうに答えながら青年のもとを離れる。
少年がこれからの人生を照らす唯一の希望がこの先に待っているとは知らずに。
※
「ああいましたいました。おーい!アーク!ちょっとこっちにきてくれ!」
「ん?なんだろ?はーい!今行きます!」
青年たちが呼ぶ声に少年アークも返事を返す。少年が走る様子はとても軽快で、まるで空をとんでいるかのようだった。
「はい、何でしょうかエルフ族長様と内政官の方々様。」
「よかったなアーク、君の言う退屈な生活とはこれでおさらばだ。」
「え?」
「アークよ、そなたはエルフの皆を守るための英雄として旅立ってもらう。そのための用意はこちらで全て用意する。だからアークよ我々の英雄となりこの世界を救ってくれ。」
※
それから数か月の時を経て、少年アークは一つの現象を目の当たりにする。
はるか彼方に光の柱が一つ天を貫いたのだ、その光景に驚いて目をこすると二つ目の光の柱が現れる。
「どうなってんだよ、これ。これが長老様が言っていた光の柱だっていうのか、おいおい雲をつきぬけて先が全然見えねえよ。」
その次には黒い柱がのぼったかと思うと空からいくつもの流星が流れ、一点へと落ちる。―ドン―という音が響いてきたかと思うと、地面が激しく揺れる。建物が崩され、激しい炎が密集した家を次々と襲う。
そこら中から悲鳴が飛び交い―助けて―と懇願する声があたりを覆う。
すると流星が落ちたあたりから、黒いオーラが空を覆い隠し始める。みるみると広がる暗黒にアークは、
「災厄が始まった、次のチャンスは百年後、いったいどうしたらいいんだ。」
そういって、アークはその場にくずれおちた。
※
「これで八回目、もうチャンスは残されてない。」
あたりは暗黒が空を覆い始めていて、もう手遅れだと言っているような気がする。
目の前には一人の女性が横たわっており、その背中には短刀が深々と突き刺さっている。
暗黒は女性の傷口からあふれでており彼女がこの現象の主犯なのだと確信する。
「やっとここまできた。八百年だ、八百年もかかってついにここまできた、真相はもうわかっている。これ以上はもう限界だ。」
青年アークはその場をあとにする。その目の奥には鋭い決意があらわれていた。
※
アークは一人考えていた、これから起こる一連の状況はすべてがダメな方向へと向かっているのだと確信していた。
「さあ、こい勇者テン、お前が起きるとき、すべてはもう、終わっているんだ。」
アークの手には短刀が一本握られている。
「おまえのせいで、俺は人生のすべてを溝にすててしまった。もう次がないんだ。だから、これっで、終わりだ。」
アークの中でなにか不穏なものがうごめいている。そんなことがおきているとは知らず一人の少年が目を覚ます。
「どこだよここ……」
と少年がつぶやく。
「死ね、勇者テンこれで最後だ。」
アークはその手に持った短刀で少年の背中を刺す。
「ぐああ、」
少年のうめき声が聞こえる。しかし、そんなことは関係ないとばかりにアークはその短刀に力をいれ奥へ奥へと刺し込む。力をいれすぎたのか、短刀はその少年の黒い背中を切り開き赤く染め上げる。そして少年はその場に力尽きた。
「やった、やったぞ。ついに終わったんだ。」
そう言ってアークはその場を離れた。
とある違和感をのこして、
※
闇の柱はなぜ消えたのか、それは、闇の力が発揮される意味を為さなくなったから、光の柱はなぜ消えたのか、それは、勇者の力が発揮される意味を為さなくなったから、
倒さなければならない相手がいるということが、この魔法の存在する意味。だから禁忌なのだ。永続なのだ。
闇の柱の力は大災厄のために使われた。
そして、今、勇者の敵がこの世界の中にひとりだけ。
※
アークを中心として光が集まる、
そして、裁きの光が天から降ってくる。
光が消えると、そこには何も残ってはいなかった。
※
取り残された赤ん坊のもとに銀髪の女が現れる。
「こんなところに赤ちゃんがいるわ。あなたたち工事は一旦中止よ。まずはこの子に食べ物を用意させないといけないわ。」
そういった銀髪の女は赤ん坊を抱きかかえる。
「あらあらかわいい子ね、だれの子供なのかしら、こんなところに捨てられてかわいそうに、よしよし」
そういって赤ん坊の頭をやさしくなでる。
赤ん坊の表情は柔らかくなりとても幸せそうだった。
この話で使われている「青年」はウィキによると「青年期延長論」に値するそうです。
少し気になって調べてみました。私が言いたかったのはアークの外見はまだまだ若いよということなので、中年は違う気がする、ということです。
厚生労働省では~5幼年期~14少年期~29青年期~44壮年期~64中年期65~高年期なんだそうです。