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勇者な俺と魔王な娘  作者: 若宮広
1/4

―起―

「どこだよここ……」


辺りは闇で覆われ静寂に包まれている。砂が風に流されヒヤリとした冷たい空気が頬をかすめる。石材の残骸がそこら中に散らかり、ガラスの破片が天上の月の光に照らされてキラキラと煌めいている。そんな荒野の中心で少年が一人取り残されていた。


「どこだよ…ここ……、俺今までコンビニにいたよな、バイトが終わって、それで家に帰ろうとして…それで…それで……だめだ、わかんねぇ。」


自分が今どういった状況に置かれているのかわからない中、少年の長く尖った指先は無意識に腰回りを触って携帯の位置を探ろうとして……


――キンっ――


金属と金属が重なりあって擦れたような音が響く。


「は……?なんだよ………どうなってんだよこれ!」


少年は自分の姿をみて絶句する。闇夜のせいで隠れていたかのように思われた体が、月の光を強く浴びて正体を現す。鋭く尖った指、筋肉で盛り上がった腕、肩、背中、足、割れた腹筋に胸、そのすべてが漆黒に覆われていた。

首より上の姿も確認しようと腕をのばした所でとあるものと手が当たる。恐る恐るといった動きで頭から生えた二つの何かを触ろうとして……………


――おぎゃあーおぎゃあーおぎゃー――


周囲のがれきの山の中から突然赤ん坊の泣き声がきこえた。


「赤ちゃんの声? 赤ちゃんがこの中にいるってのか?早く……早く探さないと。」


少年はがれきの山の中へと突っ込むと石の塊たちを掻き分けていく。

それから数秒後だった。


「み……みつけた。」


少年の腕がゆっくりとがれきの隙間へと伸びてゆき一つの黒い布に巻かれた何かが取り出される。その布をゆっくりとはがしていくと中には、透明感のあるつややかな肌をした赤ん坊が大きく口を開け閉めしてないていた。少年は赤ん坊を胸にゆっくりと抱き寄せると、赤ん坊を傷つけないようにゆっくりと撫でる。その手の温かさを感じ取ったかのようにその赤ん坊は泣くのを止め、静かに寝息を立て始めた。それに安堵するかのように溜息を深くついてから言った。


「ふう、なんとか、泣き止んだな。しかし、これからどーすればいいんだ?まわりはがれきの山、その奥には果ての見えない地平線、ここがどこかわからないし、赤ちゃん拾うし、あれ、赤ちゃん拾ったはいいけど何食べさせたらいいんだ?ミルクなんて持ってねーし、てか何も持ってねーし。うーん。とりあえずどこかに家がないか探すかな。外にずっといると体冷えそうだし、……そういえばこの黒い布はなんなんだ?(バサッ)、真っ黒のマント?と、真っ黒の……服の上下…だな。とりあえず着よ。で、マントは赤ちゃん用にして、よしわかんねえことはわかんねえしとりあえずいくか。」


少年は着替え終わると月が輝く方向へと歩き始める。広大な荒野を歩く頭から二本の湾曲した角が生えた少年の、足元からのびる影にはその身の丈分、2メートルはあろう翼が二枚、大きくひろげていた。



それから数時間が経ち、朝日が顔をだし始める頃、トボトボと歩いていた少年の前に5件ほどの家が見えた。


「家だ。あぁ、やっと家が見えた。」


そう言ったあと少年はゆっくりと膝から地面に崩れ落ち、しかしその胸に抱くあかちゃんをかばうようにして後ろ向きに倒れた。倒れた振動で起きたのか、またはびっくりしたのか、赤ん坊がまた泣き始めた。その泣き声を聞きつけたのか、豚の顔をした老夫婦が家のドアから出てくる。


「おいあんた、どうしたんだい?大丈夫かい?大変、この子赤ちゃん抱えたまま倒れちまってるよ。」


「本当だ。とりあえず、家の中に運ぼう。」


そんな会話が老夫婦から繰り広げられているのを他所に、赤ん坊は泣くのをやめなかった。



「うーん……」


「お、起きたか、おーい婆さんや、倒れとった奴が目を覚ましたぞー」


「はいはい今行きます」


「ここは……?」


「ここは魔族領の果てのオーク村っつう村だ。大丈夫か?今婆さんが食べ物持ってくるからな。」


「はい、シチューだよ。今お客さんに出せるのはこのくらいだけど我慢して食べてね。」


「いえ、ありがたいです、ありがとうございます。」


「いえいえ、どういたしまして。」


そんな会話が一つのベッドと一つのタンス、そして白い大きな花を数本活けた花瓶のある一室で繰り広げられていた。

少年がシチューを食べ終わりそうになった頃お婆さんが部屋から出たかと思うとすぐに帰ってくる。その腕の中にはやはりかわいらしい透明感のある肌をした赤ん坊が黒い布に巻かれていた。


「はい、どうぞ。」お婆さんがゆっくりとした手つきで少年に赤ん坊を渡す。


「あ、ありがとうございます。」


「いえいえ、どういたしまして。それよりこの子困ったものよ。この子もおなかが空いてるだろうって思っ

てミルクをあげようとしているんだけど全然口にくわえようとすらしてくれなくって、顔をそむけちゃうのよ。」


「うーん、それは困りましたね。何か食べさせないと」


そういった少年は何の気なしに木の器に入れられたシチューを木のスプーンですくって赤ん坊の口に軽く当てる。その少年の行動に反応して赤ん坊はその口を開ける。


「あ、飲みましたね。」


「もうミルクを飲むような年じゃないってことなんじゃないか?。」


「あらあら少し気が強い子なのかしらね。」


あははあはは、と言った笑い声が家中に響き渡る。そんな微笑ましい光景が赤ちゃんの可愛さをより際立たせているような気がした。



「それじゃ、ありがとうございました。」


「気をつけていくんじゃよ。」


「食べ物も家にあるだけ全部その鞄に入れておいたから、つぎは倒れるんじゃないよ。」


「はい、ありがとうございます。」


「いえいえ、どういたしまして。これ言うの三回目だねえ。」


また、笑い声が響く。


「ワンちゃんの世話もちゃんとするんだよ。」


「わかってます。この子はたとえ死んでも守り抜きます。」


「はは、いい覚悟じゃないか」


「その子を大切になさい。これからのあなたにとって一番の宝物になるはずよ。」


「はい。それじゃ、いってきます。」


「「いってらっしゃい。」」


豚の顔をした老夫婦に見送られながら少年はゆっくりと歩を進める。その天上はギラギラと照り輝いていた。



道中にて、

「あの人達やさしかったなあ、なんだかおっとりとしてて、オークって堕落したエルフの成れの果てって話があった気がするけどエルフだと思えばかなりイメージ通りってかんじだな。なあ、ワン」


「きゃはは」


「お前ほんとに可愛いな。それにしてもよくこんなに用意してくれたなあ。」


そう言って少年は一旦鞄を地面におろし中を確認する。鞄の中には、コップが一つと細長い麦茶色のパンが10個以上はいっていた。


「これで、倒れろって方が無理あるだろ。」


そう言って鞄を持ち上げて肩にかける。


「あの夫婦にすすめられたはこの道の先にある魔族街ってところだったよな。なんか、俺の容姿だったら歓迎されるって話だったけど。どういう意味なんだろう?」


「そういえばワンって名前ちょっと安直すぎたかな?でも俺の名前って10月10日生まれだったから(テン)って名前になったらしいし、あんまり考えられないんだよな。そういう意味ではワンはいい名前だと思うんだよな。この世界でファーストコンタクトな一番かわいい赤ちゃんだしな。なあ、ワン。」


「きゃははきゃはは」


「よし、父さん頑張っちゃうぞー。」


少年はその黒く猛々しい腕を片腕だけ振りかぶり、空へと突き上げた。



それから十年の時が経った。


「ハッピバースデイディアワンちゃん、ハッピバースデイトゥーユー。」


ふーー。


パチパチと拍手がそこら中であがり、それが自分へと向けられた物なのだと感じて頬を赤らめながらニコリと笑う。そんなかわいらしい少女の姿に中年はゆっくりと身を乗り出してその左手の薬指にはめられた銀の指輪をきらめかせながら少女の頭をやさしく撫でる。


「おめでとーう、ワン、これでワンはもう十歳か。初めて出会ったことがつい昨日のことのようだよ。」


「ありがとうございます。お父様。私はもう十歳です。私、魔王軍士官学校への入学がとても楽しみで仕方ないのです。」


「そうだね、だから父さんは嬉しいんだよ。こんな幸せにめぐりあえて、メアリーと結婚できたこともそうだけどやっぱり娘の成長が父さんにとっての一番の宝物だよ。」


「私がお父様の宝物だなんて、嬉しいです。」


八人ほどは余裕に使えそうな大きなテーブル、大きな棚にはワインボトルがずらりと並び、南向きの大きな窓ガラスには部屋の床から天井にまで届きそうなほどの巨大な赤いカーテンで覆われている。そんな広い一室で黒いスーツを着た黒い髪を後ろに束ね、二本の湾曲した角を生やした中年と、薄いピンク色のワンピースを着た、まっすぐに肩まで伸ばした金髪で頭には小ぶりの角が二本生えた少女、そして長い銀髪を肩の上にかけ、その背中は黒い羽根の生えた翼をもつ優しい表情をした婦人の3人が肩を並べて座っている。


「あなた、私も嬉しいわ。こんなに穏やかで幸せな日々を過ごせる日がくるなんてあなたと出会うまで考えたことなかったもの。」


「あの時のメアリーはすごく頑張ってたもんね。魔族最強の称号、魔王のメアリー。いい響きだったじゃないか。なんで俺についてくる気になったんだか。今考えても不思議だよ。」


「それは、あなたが私に会うなり、いきなり『一目ぼれしました!俺と付き合ってください!』なんてこと言ったからよ。私魔王になってから全然告白されなかったから、もしかしたらあなたみたいな人をずっと心のどこかで待ってたのかもしれないわね。」


「魔王に告白する商人って今考えたらやばいな。まあ、君のことを見たときの俺の胸の高鳴りも相当なものだよ。」


「そんなことを言ってくれるなんて嬉しいわ。」


「もう。お母さまばかりズルいですわ。今日は私の誕生日ですのよ。お父様もっと私に構ってください。」


「ワンは俺にとって一番の宝物だ、これから先も一生お前を支えてやるから自分が今したいことをみつけなさい。それが見つかったら俺が君にとっての全ての支えになるから。」


「お父様、大好き。私の今したいことはまだわからない、けど、学園でそれを見つけてみせるわ。だから、お父様、それまで待ってくださいね。」


「ああ、いつまでも、待つよ。」


三人の会話はそこで途切れ、立派な誕生日ケーキがメアリーによって切り分けられる。

ワンの誕生日祝いは、ワンが目を閉じるまで続いた。



それから数日が経ち、ワンとメアリーが学園の入学式へと向かう。テンはその姿を見送ると一人家に戻る。


「今日はたしかコタツの完成日だったかな。ちょっと工場を見てくるか。」


そう言って、テンは荷物を馬車の荷台にのせる。鞭うたれた二匹のケンタウロスがゆっくりと歩みをすすめ、街道の石畳と鉄ぐつわがパカラパカラと音を鳴らす。


「また今日も家族のために一儲けするか。あの大量の貯金もいつかワンのためになるだろ。」


自分の娘のためにとテンは、今日もこの世界に革命を起こす。



それから二年ほどたったある日、


「お前のせいだ。」


鳥頭のボロボロの作業服を着た鳥人族がいった。


「なんのことだ?」


テンはその声に答える。


「お前のせいで、」


「だからなんなんだ!」


「おまえのせいでかあちゃんが、」


「そうか、そういうことか。」


「俺の母ちゃんがコタツから全くでてくれねーんだよ。」


「だろうな。」


「どうしてくれんだよ。」


「いや、だから俺はコタツをつくらせたんだが?」


「は?」


「クレームはいっぱいきてるからわかってるよ。コタツがこの世界に革命を起こすのもわかってたさ。」


「おれは納得いかねーぞ。」


「クレームは別の奴に言ってくれ。クレーム処理担当のやつがいるから。俺は忙しいんだ。」


そう言ってテンは工場をでて、そそくさと馬車を目指す。その後ろ姿を作業服を着た鳥人族はただ―嘘だろ―という様子で眺めていた。



それとは別に。

魔王軍士官学校の学生寮のとある一室に手紙が届く。その扉からでてきたのはワンだった。ながくのびた金色の髪には黒と銀の髪留めがつけられうすい水色のドレスを着ていた。


「なんなのかしら。」


そう言ってワンは手紙の宛先を確認する。


「ナンバーズ商会、お父さんの商会からだわ。」


「えーと、ナンバーズ商会の長、テン様の娘、ワン様へ……至急お伝えしなければならないことがございますので今夜中に商会の工場へ来てください。はやく来ないと間に合わないかもしれません?なんでしょうか、工場への道はしってますからいけますが、何が間に合わないのでしょう?」


ワンは手紙を部屋の机に置いて走り出す。あたりは暗く暗雲が立ち込めていた。



「あ、ワンお嬢様だワンお嬢様がいらっしゃったぞ。」


「お嬢様!急いで!」


「あなたたちなんなのよこんなにあつまっ……て………きゃっ……お父様?」


「ああ、き…てくれ…たん…だな」


「お父様!」


そこにあった光景はとても凄惨なものだった。テンの手足は四本のうち三本が根元から消えてなくなっており、体中の皮がはがれ赤くなっている。二本あった角は片方が折れ、もう片方も取れかかっている。そしてその胴には大きな風穴が一つ空いていた。今声を出しているのが奇跡だというかのようなテンの姿にワンは声を荒げる。


「お父様!どうして…どうしてこんなことに!」


「そんなことより、聞いてくれ、ワン、絶対に、絶対に、他人の言いなりに、なるな、父さんが死んでも、お前の支えに、なるから、だから、自分の、力で、」


「お父様?お父様?ねえお父様ってば!死なないで、死なないでよ、私の、私をずっと支えてくれるって」


「お嬢様、残念ですが、テン殿はもう……」


「いや、いやよ、ああ、ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


広く大きな工場のなかで少女の悲鳴だけが響く。

その工場には大きな穴が無数に空き、50ほどの死体が転がっており、牛やトカゲ、鳥の姿もあった。

※が多いのは作者の力不足によるものです。

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