終わりのはなし。
旅立つ音が聞こえた。
それは機械的で保たれた秩序の中に存在しているような音。
1日の区切りとして残された最終電車。
「扉が閉まります、ご注意下さい。」
君は何度乗り過ごしてくれたんだろう。
最後になっても後悔と痛みが身体から抜けていってくれない。
「もうしんどいよ。
もう会いたくない。
君を見てると昔の自分を見てるみたいで
嫌な気持ちになる。」
僕らは似た者同士だった。
その時何が食べたいとか、どんな映画が好きで、どんなスポーツが苦手かってことも。
育ってきた環境までそっくりだった気がした。
君は今頃家に着いてるだろうか。
君は今頃、また涙を流しているのだろうか。
「好きだよ、
愛してるんだ。」
「わかってる、
知ってるよ。
愛してる。
でもそんなんじゃ足りないの。」
いつもならこんなにならなかったのかな。
車庫に入っていく回送の電車が見えた。
もしかしたら、終電逃しちゃったって君が現れるんじゃないかと
改札口に突っ立ってる自分がむなしくて。
きっともっと昔にするべきことがあったんだ。
「私たちって本当は1人なのかもね。」
「どうして?」
「2人でいると温かくなる。
君に出会う前は心がいつも半分な気がしてた。
大事な感情が消えてく感触がいつも身体中に伝わって
心臓がビクンってなった。
君と一緒だと心が全部になってく。
気持ちが増えていく感触が伝わって、
もっとさらに心が溢れてくみたいになるんだ。」
君には遠く及ばなかった。
いつも、3歩ほど後ろを歩く僕を気にかけてくれるようだった。
けれどそれでいて、そう思ってることすら感じさせないようにと普段から気を遣ってくれた。
ダッフルコートを羽織っていても冷たい空気が攻撃してくる。
手はかじかんで、鼻はトナカイみたいだ。
君は来ない。
来るはずがない。
きらびやかに飾っていた電飾も電源が落とされ、毎年使い回しなのだろう小さめのクリスマスツリーが、僕の隣でうなだれている。
まだ、諦めることもできず、でもまだ君が来るかもしれないと期待を持っていることもできず、
僕はさっき降ってきた雪の元いた場所を探すことしかできなかった。