集落2
集落の状態ははっきり言って最悪だ。
建物の壁は崩れ、畑は蹂躙されていた。だが、ごく最近こんな状態になったといってもいい。
傷は新しく、荒らされた食料などの腐敗はあまり進んではいない。酷いものは酷かったが。
ただ、人の屍は一つも見かけなかったからまだ精神衛生は保てた。
ふむ、と唸るアキラは別の可能性を考えていた。
「住人はどこに行ったのでしょうか…」
心配そうなミオはアキラの傍から離れられないようにも見えた。
それほど広くなかった集落を一通り見て回ると日が沈んでしまっていた。
しかたなく、ここで野営するしかないかと3人に尋ねると、
「いいいいいい、嫌ですよ、わたしは、勘弁ですよっ」ミオ。
「ここで、というのは正直あまり進まないけど、外に出てエネミーに寝首掻かれるのは避けたいし、仕方ないんじゃないかな」タイガ。
「僕はどちらでも構わないかな。眠いし。騒いだりして余計な敵を作らないならいいよ」ケイと、三者三様で意見が分かれた。
「ならば間を取り、集落の入口付近に霊除けの呪文を書き、その付近で休むか」
とアキラが3人の意見を混ぜあわせた提案をし、それに乗っかることにした。
*
夜半、月がはっきりと見えるくらい辺りは闇に包まれていた。
火を焚くと霊は近づかなくなるが野良の獣型エネミーは逆に寄って来てしまう可能性があるため、消している。
というよりもこちら側では「霊」が実際に誰にでも見える存在らしい。
さきほど用を足すために少し一軒の御手洗いを拝借した時に見てしまった。悲鳴を上げそうになったが何とかこらえ、その場を後にしたが、野営地にしている所に戻った途端、寒気が一気に増した。
寝る前にミオに尋ねてみたのだが、
「幽霊になった人たちは自分がそうなったとは理解できてないよ。理解してたとしてもこの物質の身体が無いから何もできないけどさ。それでも厄介なことがあってね、性質の悪いのが悪霊と呼ばれるものね。悪霊に「憑依」されると、された人が逆に体から追い出されてしまって霊になってしまうの。祓うためには、上級の呪術を扱えるものが何十人と集まってなんとか一人「浄化」できるくらい大変なの」
だから、おそらくこの集落全員が霊とかしたここはとても危険な場所なの。危ないの!と言っていた。
確かに、そりゃそうだ。
あちら側でも、恨みや無念なんかが根強く残ってしまった場合地縛霊になってそこにいる、なんて話をよく聞いたものだ。
ということで。
毛布にくるまり、寒気によるさぶいぼが収まるくらいはじっとしていたが、3人を起こしてしまわないように、ゆっくりと離れる。
集落の中心辺りにある噴水のようなオブジェの残骸のところへ向かう。
毛布にくるまっている間、どうしようかと悩んでいた。そんなところに、焔の鳥の人形が何やら呪文を紡ぎ出したので、耳を傾けていた。
その焔の鳥の声で目が覚めたのかアキラが寝ぼけ眼でこちらを向いた後は早かった。
アキラは
「オツゲヲジカニミラレルトキガクルナンテ」
と感涙したものの、呪文を言い切った鳥が
『キミハ「グロン」ノイチゾクカイ?』
と話しかけ、認識できるのかと思った。
その後アキラと鳥は幾つか会話をしたかと思えば、アキラはその場を離れていった。
どこに行くんだと尋ねると、
「「浄化」するのであろう?「浄化」に必要なものを必要な分だけ取って来るから、レン殿はここの中央に向かってくれないか」
はい。強制イベントでした。確定。
鳥がアキラのみに話をしたおかげで、そんな話、俺聞いて無い!な状況になっていた。
「それに俺、「浄化」というよりも呪術自体やったことないのだが、どうすればいいんだ」
「先程、朱の神が話しておられたであろう?あの呪言…標準語では祝詞というか。それを唱えるだけでいい」
「え、俺聞き流して覚えていないんだけど…」
「時が経過すれば体に呪言が馴染み、言えるようになる、とも言っておったの」
なんなの…俺だけはばにされてんのか。
気落ちしてもしょうがない。鳥がそう言ったんなら何とかなるだろう。
兎に角当たって砕けろ、だ。砕けきってはいけないだろうがな。
グロンの言葉は全て半角カタカナで書いているのですが、どうしても全角になってしまうんです