旅へ
目覚まし時計のアラームが鳴り、慌てて起きる。
急いで身支度し、家を出る。
こちら側の世界が再び時間を刻み始めてから、人々の生活はいつも通りを進めていく。
ただ一人を除いて。
遅刻した仕事先で上司から説教された後に無理難題を吹っ掛けられ、同僚に弄ばれ、部下からは笑われる。
苦痛としかいえない毎日を送り始めた、「深沢一真」にはとある秘密がある。
それは、次元を越えて別の世界へと渡ること。
他の一般人ではできないこと。
仕事の休日に何しているかという質問は良くされるも、一真は秘密としか答えない。
秘密としか答えられないというのが正解なのだが。
例え話したとして、誰がそんな突拍子の無い事を信じるかというものだ。
だから秘密にする。
「さて今日は、会社は休み!あっちの様子でも見てくるか」
壁に立てかけてある槍を手に取る。
巻きつけている布を取り、不可視の陣へと突きたてる。
見えない陣から淡く光が出ると、次の瞬間には一真はその場から姿を消した。
*
結果から言えば、レンと一真の「同一存在の統合」は成功した。
互いの世界を行き来できるようにもなった。
しかし、制限も存在する。
地球側では一真の部屋以外では呪術はおろか纏すらできなくなった。
反対に、あちらでは地球の科学文明の物が機能しない。
腕時計ですら止まってしまうのだ。
戻る時間を失敗すると、休日を越えてしまう。
だから時間に厳しくなった。
こちら側では時計はあって無い様なものなので神経質になりかけた。
その時は決まって、レンの独り言が増えるのだ。
レンと一真が言い合いをする。
二人にとっては面と向かって言い合っているに近いが、傍から見れば何もない空間に向かって喧嘩口調で叫んでいるとしか見えない。
そうした姿を見ると、理解している人達が、「ああまたか」という視線を送るだけだ。判らない人は、心配そうにしたり、声をかけたりしていく。
かくいう彼の姿も、たまにしか見られない。
気が付いたらいて、気が付いたらいない。
神出鬼没な奴としても有名になっていた。
*
ふらと訪れた街で、タイガ、ケイ、ミオたち三人の旅とかちあったこともある。
三人は、レンが引き起こした惑星最大規模の危機の時には故郷の街を守り、復興に尽力していたと話す。あらかた再建が終わり、旅へと出て来たという。
東の街で、タクヤは店を開いていた。
といっても、前の店長から受け継いだだけと言っていたが、繁盛しているようだった。
失った記憶は、働き始めてから数年たったときに、少しだがふと思い出したそうだ。
少しずつ思い出しているも、まだ虫食い状態で、時間がかかると笑っていた。
前向きなら、なんとかなるだろう。
四方神たちや、魔神たちは皆それぞれ散らばって思い思いに過ごしているらしい。
魔神になった者は、人へ戻ることができないから。
イユイは戻るたびにどこからか飛んできて、勝負を挑んでくる。いい加減相手にするのが疲れた。
タインは北の玄と共に、雪と氷の北の街の近くで生活している。タインは引きこもりと言われたくないのか、たまに東や西へ足を運んでいる。南は暑くて敵わないとか。
アルは、あてもなくふらふらしているらしい。たまにグロンの村へ赴き、勝負を挑んでいるとか。
トルハは島国であるこの国周辺をふらふらしているそうだ。
ハゼは王都付近で闇の彼女と共に人の営みを見つめていくらしい。
四方神は暴走し、一時的行方不明になったあれ以降何も言わなくなった。
タインから聞くに、「贄」に頼らない世界の再構築を推し進めようとしているらしい。
「大黒柱」は、その姿を元に戻せはしないが、消すことはしないと決めている。
過去を振り返って見、また同じ過ちを繰り返さないようにするために。
王都は灰燼に帰したと言っていいほどの壊滅の仕方をしていた。
他の街と比較にならない程の被害が、人と物共にかなりの数が出ていたという。
日が一番近くに来て高温に地表をさらされていたのが拍車をかけていた。
少しでも建物の残骸に触れようものならば、脆く崩れてしまうほど。
その後の復興はとても骨が折れたといえよう。手伝ったのだ。一真ではなくレンだが。
そんな世界で、気ままな旅を、二人で行く。
レンは、見た目的には一人だが、二人と数えている。
一真とレンは今日も気ままに休日を異世界で旅をする。
本編はこれで完結です。
ですが若干まだ続きます。書き溜めが進んでいないので次の更新までの間がかなり空くと思います




