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もうひとつの影3

しゃがみ込んでしまったのはただのエネルギー不足だ。

固形物は、向こうの次元で魔神達や、神たちとの戦闘の前に口にしただけだから当然と言えば当然か。


力無く床にへたり込む俺をこいつは放っておけないらしく、フレームが少々歪んだドアを無理矢理こじ開け、引き摺り部屋の中へ入れた。



中に入るとそこは、俺が本名を忘れる直前に見たそのまんまの状態だった。

「飯、軽く作るから待ってな」

そう言ってキッチンの方へと姿を消す。

俺はあの時から何一つ変わっていない自宅に懐かしさを感じていた。


だがそんな中違う所は、その場所に俺が居らず、別人のこいつがいる事。


こいつを視界から外し、窓から見える外を見る。

何処か「ズレ」の様なものを感じたのだ。

ごく小さな違和感なのだが、どうしてそう感じるのかが解らず頭の中がもやもやとする。


そうやって悩んでいるうちに、キッチンからいい匂いが漂い始める。

向こうでは「一応」人間の枠の中だったが、こちらでは「普通」の人間扱いになるのだろうか。

簡単に作られた料理が放つ匂いに食欲が堪えきれなくなり腹の虫が盛大に鳴いた。


目の前に出された料理はお世辞にも上手とは言えない。男料理なぞそんなものだから。

少し焦げ跡が見えてるし。まさしく、俺の作った料理、という感じだ。


手を合わせ、箸に手を伸ばしかけたところで、はっと思い出し、あいつの顔を見る。

「どうぞ。味付けは分かるだろうし」

そう言ったと同時に箸を手に取るも、その手には纏がある。


纏をしたままなのだ。


解かなければ、口元は開かない。開かないという事は、食べることができないという事。


だがこちら側で、再び纏をすることができるかと聞かれると怪しい。


少しの葛藤があったが、餓死するよりかはマシだろうと、顔だけ纏を解くことにした。


解いた時、あいつは「へぇ」と一言つぶやいたが、俺が料理を食べきるまでそれ以外言葉を発することは無かった。




御馳走様というと、お粗末さまでしたと返された。

当たり前か。

自分からそう言うのには変な感じがした。



食後の休憩の時に考えた。

食事で腹の虫はおさまった。しかし、これからどうするか。

むこう側に戻ろうにも神社へまた行かなければならない。こいつを放っておくわけにもいかない。

うーんと悩んでいると洗い物を終えたあいつが、

「ちょっと、話をしようか」

と扉が外れたままの玄関から出て行った。

急だったので、元の形に戻していた纏を引っ掴み、慌ててその背中を追いかけた。



辿り着いた場所は自宅からあまり遠くない公園だ。

昼間だからなのか、公園の中には人は見かけず、遊具だけが静かに佇んでいた。

「それで、話ってのはなんだ」

柵代わりの木々が風で葉を鳴らす。

「話っていうのは、君にこの世界に戻る意味はあるか、それとも無いか。あちら側にしても同じ」

この公園の木は確か秋になると紅葉する。

あちら側にいた時と同じ時間が過ぎていれば既に紅葉し、早ければ一枚も残さず散っているはずだ。

食事前に感じた違和感。

「しかし、それを測るために「こちら側」の時間の進みを止めた」

止めた?時間を?

「あんたは「誰」だ。そんなこと俺にできるはずがない」

ポツリと、だがはっきり尋ねた。


「僕は君だよ。あちら側の、と付くけども」

にこりと笑うこいつの目だけは笑っていなかった。


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