黒色3
『どうする。ハゼ』
『どうするもこうするも、もう策なんて立てれっこないよ。立てたとしても結局のところこっちは消耗して不利なんだ。全滅するんじゃない?』
『玉砕覚悟で行くか?太陽さえとめられればあとはどうとでもなるだろう』
『タイン、行けそう?』
『…ちょーっときついかも?やれなくはないだろうが、玄に力を借りなければならないだろうね』
その場合。
『力加減できないかもしれないから壊してしまうかも。もしそうなって、太陽の無くなった世界は人間が生きていけないだろうね』
『………………』
それは避けなければならないだろう。
「何、話しているんだ?」
三人がはっと見上げるとレンがタインのすぐそばにいた。
『ガッ』
頭めがけて拳が落とされたものの、寸での所で躱す。しかし衝撃はまともに喰らってしまい、かなりの距離を飛ばされた。
『タイン!』
土煙の奥から大丈夫と声が聞こえ、ほっとした。油断ではない。
しかしハゼの背後へ回ったレンが回し蹴りを喰らわせ、タインと同じように吹き飛ぶ。
『何の話か?それは貴様を殺す方法を考えていたんだ』
アルの近くへ飛んで行くレンにそう告げる。
「殺す?できるのかい?この世界の者に、異次元から来た俺を」
『できるできないじゃない。貴様を生かしておくと俺達は消えるからな。俺は消えたくないから貴様に消えてもらう』
互いに手刀を突き付け、一歩でも先に動けば隙を見せてしまうだろう。
その頭上では太陽が星を蒸発させようと接近しつつある。
時間が無い。
だが、ここで焦っても状況が好転するわけでもない。
暑さが地表を焼く。まだ月との距離くらいは離れているはずが、光にさらされている場所が焼けていく。どれだけの大きさの熱の舌を伸ばせばいいのか。
アルだって本人オリジナルは人の子。
無事とは言い難い。
早々に決めなければと考えるも喉元に突き付けられた手刀がその先を考えさせなくする。
焦りが集中力を乱し、手元を狂わせる。
ほんの一秒も満たない時間だがレンに向けた手がぶれた。
それだけで事態は悪い方へ進む。
首の骨から嫌な音が聞こえた。
意識が薄れる。手足の感覚がなくなっていく。
崩れ落ちる、アル。
吹き飛んだまま動けないでいたハゼとタインは崩れ落ちるアルの姿を見る。
「あとは二つか」
*
仮面の下ではどんな表情をしているのか。
それすら判らない。
自分の境界線すら危うくなっているのか。
元の星へ帰れないのは鳥に言われたのに。
こちら側で生きていこうと思っていたのに。
俺が「贄」?「大黒柱」にならなきゃいけない?
訳わかんねーよ
そうしなければこの星がもたない?
星を旅して周れと言ったのは鳥。
言うとおり旅して行こうと思った。
そこで何を見た?
この国だけでもいいところと悪い所が見えた。人の好さと醜さ。
それらを支えるための「大黒柱」。
この世界で四方神に見初められた「人間」がなる「贄」。その人柱によって星が成り立つ。
俺はなっていないと思っていた。この世界の「人間」の枠には収まっていないから。
何時からだろう。
「この世界の人間」になっていたのは。
「贄」と「大黒柱」として過去で一番適した「素材」だと。
次元を越え、さらに生存した。その時からなっていたのだろうか。
「今となっては、どうでもいいことか」
恒星がもうすぐその指先が触れる。
本来ならありえないこと。
恒星が惑星に引かれること。
無属性だからできたこと。
「何も無い」という属性だから。
光の手が触れる瞬間が訪れる。
その時が、「望んでいた時」だ。




