黒色
『さてと、まずは状況説明をお願いします』
タインに深くお辞儀をする彼女は、「遊び」の事に関しては真面目になる。
王都に来た方法は省略し、上空、背後の建物の中での状況を告げる。
すると、
『ならさっさと止めようか。だーいじょうぶ。あの状況の見えていない馬鹿二人は、三人でかかれば落とすくらいはできるよ』
そう言い、タインに「投げろ」と言いたげに両手を広げる。
仕方ないと言いつつも、空の上にいられてはこちらから手が出せない。ならこちらの手が届くところまで引っ張ればいい。
『そう、簡単に行くかな』
イユイの首根っこを掴み、振りかぶって投げる。
あっという間に小さな点になった。
点すらも見えなくなって数秒。結果が降ってきた。
『イユイ。行き成り何するんだ!』
『ふざけないで』
口々にイユイに文句を言うも、
『二人共、私はふざけていない、いたって真面目だよ。そんなことより、今の二人の戦闘にこれからの事を考えているの?』
口がふさがり、静かになる。
沈黙がかなり長く感じたが、実際にはそれほど時間は経過していない。
はあと溜息で沈黙を破り、これから行うことを説明する。
『そんなことで、本当に大丈夫なのか』
『やるしかないのか』
『やるしかないの。レンとまだ本気の遊びしていないから、死んでもらっては困るし』
『もーイユイ、遊びじゃないって』
『さっさとする!』
説明を一通り終えると緊張しているのかしていないのか分かりにくい話になる。
そのとき、少し離れた場所から白と黒の混じった光が波動となり、周囲の物質を振動させた。
『最悪の事態になり始めた……』
*
俺、何でこんな事になってんだ?
鳥、タクミ、マサト、玄。
四方に囲んでいながらも手を出すか悩んでいるよう。
ホーリーはなにも言ってこない。
視界が黒くなる。
考えが、できない。
この場の壁全体にかなり強力な結界陣が張ってあるらしい。先程から纏から溢れ出る力が暴風となり渦巻いている。
此処の唯一の扉は開く気がしない。
外でタインが待っているはず、だけど。
嗚呼。もう、考えたくない。
そうして視界が真っ黒になった。
*
慌ててしまい、扉を蹴破って、壊してしまった。
『タイン、怒るかな』
いいよね。陣を壊すのに必要な事だった!と言いきかせて中に入ってくるイユイ。
その手には以前王都地下でレンが迷子になった時に手合せで使用した剣が握られていた。
『切るよりはましだよね?』
それを四神に首を傾げ、尋ねる。
八つの瞳が呆れた様に、知らんがなと言いたそうにする。
『ま、そんな小さなことは置いといて』
陣の中心、その上空を見上げる。
纏が禍々しくなった姿がそこにある。
『堕ちちゃったか。やっぱりね。この陣、欠陥しかないし』
視線は上を観つつ、足で床に書かれた陣を削っていく。
四神はレンの黒い力を抑えているだけで手一杯なのだろう。
イユイはしめたと、にやりと笑うと、剣を掲げる。
『さー好きなだけ暴れさせてもらいますよ』
上にあげた剣を振り下ろすと、微かに残っていた結界がすべて消えた。
消えた後、レンが地面に叩きつけられてできたクレーターが残った陣を砕いた。
『やーっておしまい!』
その声を合図に上空からアルとハゼが、レンに殴り掛かる。
*
『この俺と同じ属性だという。貴様はそれだけで死すべきだ』
『手間を駆けさせないで欲しいな』
魔神の中でも攻防ともに優れているはずの二人は、今まで戦ったことの無い力に苦戦している。
『ちょっとーフォローするこっちのことも考えてー!』
イユイは周囲に渦巻いた力を無理なく上空へと向きを変えていた。
三人分の力の強さに涙目になりながらだが。
ハゼが手をかざし、アルがその直後に殴り掛かる。
その一つの動作だけで周囲の瓦礫が粉となり、障害物が無くなっていく。
レンは真っ黒い纏のまま、二人の激しい攻撃を捌き、時折反撃をして二人に冷や汗をかかせている。
*
『ウサギとヒカリを消滅させたことが原因?「人間」としてありえない性能を最初から備えていて、それを制御するため…?』
四神とホーリー、そして魔神達と黒い纏のレン。それらの視界に一切入らない場所から彼女は見ていた。
『ならば、我の行いは…』
彼女の姿は、レンたちと会話していた時と大きく違い、輪郭がはっきりしていない。
ぼやけて表情が読めないが、暗い雰囲気だろうか。
「なにしてやがる。力をもっとよこせ。でないと俺達では負けるぞ」
あやふやな空間にアルの声がはっきりと響く。まるで音だけが輪郭を持ったかのように。
「俺とハゼだけでも力の制御に神経使うっつうから、「直から」渡すようにしているんだろ。ならその役目をちゃんとしやがれ」
急激に彼女から輪郭が無くなる。
『わかったから、急くな!』
…ハゼはともかく、アル。お主は「闇」では無かろう。
『んなこた関係ねー。悠長なこと言ってる余裕ねぇんだよ』
…「炎」は朱だろう。
『前に暴走してた時にぶんどった繋がりから、ちょっと借りてるんだよ。ね?』
『うるせぇ』
しかしそれでは朱から直とは言えず、レンを一旦仲介せねばならない。
『つまり、レンに力の一部を持っていかれている可能性もあるわけだけど』
『一部ではないな、この感覚は。半分ほど持っていかれている』
『冗談じゃないよ!アル、一回繋がり切って!』
『馬鹿言うな。俺の力までも完全暴走させる気か』
…レンの暴走だけで手一杯なのだが、その上にアルの暴走となると…
『おっそろしいね。考えたくないよそんな結末。だから暴走しないでね、アル』
そう会話は魔神同士だけで進んでいるも、内容は四方神とホーリーに聴かれてはいない。
四方神はこのイユイと、アル、ハゼそして、レンの力によって破壊された中央以外に被害を漏らさない為に力を注いでいた。
四つの神の全力と言っていいほどの力ですら、魔神の、特にレンの纏を抑える事すらぎりぎりだ。
さらに南の鳥は、アルに力を持っていかれている状態。更にバランスが危うくなっているのだ。




