氷の神殿2
ここは時間軸が、地上や神域よりも捩れてるんだ。だから時間がいくらかかろうと外の時間経過は無い。
『だから、諦めて』
にっこり笑って言うタイン。
魔神は神と敵対しているのではと思っていたが、敵対しているのは最近、といっても百年単位だが、出てきた比較的新しい魔神だけらしい。
『昔に遡れば、まだ知性の残っている個体はまだいるんじゃないかな?僕も最近は出不精になっているから分からないけど』
イユイなら知っているんじゃないかな。あの人は旅好きみたいな風だし。
タインの言う最近は何年前からの事だろう。聞いてみるのも怖い。
「……ちょっかいなら、前にかけられたことあります」
『へぇ。どこでだい?』
「確か、西に向かう前…」
あっと思い出した。タクミが拉致された時。
「それよりも前に一度、王都で」
『!』
驚いた表情を一瞬したも、すぐに平静に戻った。
『そっか。イユイが王都に、ねぇ…あのイユイが』
薄く笑っているも、目が笑っていない。
『こうしちゃいられない。さっさとてんこ盛りになって、鳥から証しをふんだくってくるよ』
座した姿勢からいきなり立ち上がり、叫ぶ。
「ふんだくるって…」
呆れるしかないだろう。
『証しが無いとちゃんと均衡をとれないからね。そんな不安定な所に亀の強い力を入れたら、入れただけで本当に死んじゃうからね』
*
そうして、タイン曰くてんこもりを纏うことのできるようにする、特訓が始まった。
ただ、座って、疲れたら立ってを繰り返していた。その間には鎧の色は何度も変わった。
しかし同時に他の色にすることはできない。
『どうしたものかな』
タインも打つ手がないかと考えてくれている。
この場所に送られてかなり経つも、進歩は芳しくない。
外ではどうなっているのやら。ここから戻るときに神域との時差は無くなると言っていたが、地との時差はそのままなのか。
腹は減らない、疲れはあまり感じない。感じたとしてもすぐに治る。時計も無い為、どれだけ過ぎ、地ではどれだけ日にちが過ぎたか。
『こうなったら』
タインが何かをひらめいたと、顔を上げたら、脇に抱えられていた。
えと疑問を口にする前に、
『てーい』
とかなり高く飛んだ。
高所恐怖症の人からすれば、そうでない人でも心臓に悪いだろう。
魔神の跳躍力はそれほどまでに凄まじい。凄まじかった。
一言感想をと訊かれたら、恐ろしかったと言うだろう。
『大丈夫?』
立てなくなっている俺にしゃがみ込んで聞くタインは、心配そうにしている。
大丈夫じゃない。一言くらいかけてくれ、頼むから。
言いたくても、今は言えない。
自分の事で手一杯なのだ。
飛んで着地した先は、氷の洞窟の外。つまり時間が普通に流れている場所。
属性制御が一切できていない状態で、纏をしたまま。炎に飲まれかけているのだ。
『これは結構まずいね。今までの器に無いほど…』
俺を抱えていたタインは、洞窟の外に出てすぐに炎に耐えきれず、落とした。
今迄と同じ身体の軋みと、炎の熱。どちらかではなく同時。
『仕方ない!ちょっと、痛いけど、我慢してね』
一体なにを。
飼い犬にそれいけーとボールを投げる感覚で、俺は投げられた。
北の神殿よりも北にある場所から。
そんなことよりも纏から暴走している炎の方が辛い。




