雪と氷3
纏をすればあっという間。確かにそうだった。
ウタとライに会い、早三日。
「痛い、痛い痛い…」
筋肉痛に見舞われていた。
初日に張り切り過ぎ、二日目では少しの痛みだけしか現れていなかったため無茶をした。
その結果だ。
太平洋側育ちで雪掻きに慣れていない為、こつは掴めていないし、効率も悪い。
言い訳するなとタクミに殴られた。
外に出たら凍る奴に言われたくない。水属性だという所為だが。
今、俺達の橇の周りの積雪は三階建ての屋根が埋まるほどの高さ。
あちら側でもせいぜい二階建てくらいまでだった記憶があるのだが、流石としか言いようがない。
「玄は氷属性ではないのだが、いらついているのであろうか?氷は寧ろ我の属性の上位の筈。地域の所為なのか?」
隣でぶつぶつ言っているタクミ。手に持っているのは氷嚢。先程、筋肉痛の熱を取ってやると言いつつ嬉々として準備していた。
それは丁寧に断ったのだが、その持ったまま何故か思考に没頭してしまった。
そのさらに隣にいるライも似た様な事になっていた。
「ライは没頭すると何もしなくなるんだ…」
「こっちも似た様なものらしい…」
二人の声は乾いていた。
筋肉痛で碌に進む事が出来ないまま夜になった。
夜の空にはオーロラがよく見えていた。
「あっちじゃテレビくらいでしか見た事なかったけど、結構すごいんだな…」
「てれび?が何なのか判らんが、結構綺麗だろ?」
先に寝た二人から少し離れ、空を見ていた。
「流れ星も綺麗なんだが、これよりもお目にかかれることは無いな」
聞こえるか聞こえないかくらいで、ウタが呟いた。
俺は、ウタが寝た後も揺れるオーロラを見続けた。
*
ふと、外に目を向けた。
外と言っても、あたりは雪しかない。
そこにぽつんと、橇がある。
そこに見覚えのある鱗の色と、四つの色が混ざりつつも混ざりきれていない色が見えた。
『また。来たんだ』
僕は。君は。誰だ。
*
そろそろ俺も寝ようかと考えた時、外からの鋭い視線を感じ、悲鳴を全身で上げる身体を無理に動かした。
「なんだ?誰かいるのか?」
周りを見渡しても、積った雪と、表面に積った粉雪が舞っているだけ。
橇に戻ろうとすると、また視線を感じた。
暗い。
月が雪雲に隠れ、僅かに漏れる光が雪を照らしたくらいしか明るさが無い。
そこに、何と無く違和感がある。
影の中に何かがある。
直感だが、そう思った。
そう思った時には槍を掴み、前に突き出していた。
カツンと槍に何かが当たった音を立てた直後、ガツンと音からは有り得ないほどの衝撃が来た。
ぐっと抑え込む。橇の外に出ていたからよかったが、中にいたままだったら衝撃だけで木っ端微塵になっていただろう。
『衝撃を抑えきったんだ。すごいねー』
パチパチとどこからか拍手がする。
『今までの「器」では無理だったのにね。今回は特別なのかな?』
まあいいや。
首筋に寒気が走り、その場から飛び退く。
立っていた場所に雪の塊が降ってきた。
決して飛んできたわけではない。真上から落としたのだ。
『避けた避けた』
どこか嬉しそうな声が響く。
これだけ騒がしくなっていると言うのに、ウタやライ、神であるタクミが起きてこないはずがない。
『他の子は起きてもここに入れないよ。助けなんて求めない方がいいよ』
スーッと音も無く、雪を踏むこともなく、目の前に現れた。
真っ黒い存在。
魔神。
何故。
イユイは何処かに行っているも、他にもいたという考えが抜けていた。
「炎の魔神」もいるというのに。
失態だ。
俺の焦る心を見透かすように、その魔神の笑みは深くなる。
『ハゼ君の事かな?確かにね。彼強いし。触れられないもんね。彼に触れることを許された者は唯一あの子しかいないし。次点の僕すら触れないし』
くすくす笑う。
動けない。槍を持ったまま。
恐怖からなのか寒さからなのか判らない震えが全身を支配しているようにすら思えてくる。
どうしようもない。
諦める?
挑む?
前者はウタとライを危険な目に合わせてしまう事になる。
後者は無謀とも取れる。
『ねぇ。今回の器君。魔神って元は何か知ってる?』
顔は笑っているのに目は笑っていない。
その瞳は深淵を覗いているようになる程、深い。
※遅くなりましたが、感想ありがとうございます!




