雪と氷2
熊橇に追いつくまでそれほど時間はかからなかった。
それよりも相手は集落の外に知らない奴がいて追いつかれたことに驚いていた。
その事に謝罪し、相乗りさせてもらえることになった。
「ただでとは言わない。条件がある。あんたらは呪術が使えると言っていたから、この先には必ず道がふさがっている場所がある。そこを除雪してくれないか」
乗せる条件を言ってきたのは兄弟の兄らしい。
「俺は相棒が何処かに行ってしまわないか見張っていないといけないからな…」
その瞳は優しさと、守ってやらなければの責任感でいっぱいだと見えた。
雪の除雪はあちらでもほとんど行ったことは無いが、熱を持っている槍で何とかなるだろう。それでもだめなら説明した後に赤い鎧でやるしかない。
鳥のぬいぐるみを抱きしめていたタクミに、相棒と呼ばれた少年が興味を示していた。
「このぬいぐるみは温かいのかい?もしかして君は南の人かい?よくこんな寒い北に来たね。触ってもいいかい?」
「おい!」
制止する声も聞こえているはずだが、少年はタクミに引っ付いて温まり出した。
諦めの溜息を吐き出し、俺に向かって、
「すまねぇ。あいつに気に入られちまったみたいだな。ああなった以上、落ち着くまであのままだろう…」
首を振りつつ言った。
「自己紹介がまだだったな。俺はウタ。あっちは弟で相棒のライだ。北の町に住む姉からの呼び出しで行くところだ」
そっちは?と聞かれ、
「俺はレン。彼はタクミ。ちょっとしたお使いで北の神殿に行かなければならなくなったんだ」
ウタは目を見開き、ライはタクミにかまってもらっていた手が止まった。
「今、なんて?」
立ち話していたら流石に寒くなったため、熊橇の中で続きを話すことになった。
*
「きみ、彼よりも暖かいんだね!不思議だよ。「北」は人間では下がった体温は戻りにくい環境だと言うのに」
何故かライは俺にもくっついてきた。
ウタは、
「ライは今まで外に出られなかったからな。あとは血筋の関係もあるな。俺達は神殿に仕える者を支える家系で、他の地域に出られてしまうと困るからな。特に、人の減りやすい僻地では」
そういう視線はぬいぐるみを抱えているタクミに向いていた。
そして、なにかを決心したような表情になり、俺に耳打ちしてきた。
「なぁ、タクミは本当に男なのか?なんていうか、その…女性みたいなんだが」
その疑問もわかる。中性的な顔で、鳥のぬいぐるみをがっちり抱えていたら間違えそうになるだろう。
しかし、タクミは東の神で性別は存在しない。でっかい龍だと話したらどんな顔するか。
話そうか迷うとタクミの視線が背中に刺さった。振り返って見ると凄い形相で睨んでいた。
鳥とタクミはマサトやこれから行く「玄」よりも若いらしい。弱みを握られているか弱点を知られているのだろうか。
そうこうしているうちに橇は雪の中を進む。
がくんと橇が止まる。
何が起きたかと、俺とウタは橇を降り確かめる。
ライとタクミは寒いのは嫌とついてこなかった。
熊はどうしようかと右往左往していたが、ウタを見ると「待て」の状態になった。
熊が止まった数メートル先には雪崩が起きたらしく、道が埋まっていた。
それを見て、俺は槍を取りに橇の中へ戻る。
槍を手にして戻り、ウタに橇を少し下げるように言う。
構え、振る。型なんてない、ただの振り降ろし。
触れた部分の雪は解けたものの、人ひとり分の幅で奥にはまだ先が見えない程の長さがある。
「面倒くさ」
しかしまだ説明も何もしていないからできるだけ纏は控えたいのだが、時間がかかる。
埒が明かないので、いっそのこととウタにざっくりと「纏」について説明をする。
「ちょっと、不思議なことが起きたとしても、騒いだりしないでほしい。あと言いふらしたりも極力しないでほしい…かな」
「うん、いいけど、どうするんだ?」
疑問ももっともだが、
「変身!」
久しぶりに言った気がする。
赤い炎を思いつつ叫んだため、赤い鎧になった。
俺のすぐ後ろではウタが目を見開いている気配がし、背後ではタクミがじと目でいる気がした。




