緑の森2
貴方の力は人間の規格から外れていますが、身体自体が人間を越えたわけではないのですよ。
つまり、何がいいたいかと。
「早く森を出ないと窒息死しますよ」
*
そう言う事は早く行ってよと、走る。
タクミは、これは貴方が変な位置に落下したせいなので、自分の足で出てくださいと言って、空を浮かんでいる。
畜生なんて恨み言を言う暇すら惜しい。青い鎧は打撃力が下がったが、脚力は飛躍的に上がっている。その為、赤や白よりも早く進むことができている。しかし、この森は広い。関所から見た限りではそんなに長く感じなかったものの、こうして実際に地上を行くとなると別。永遠に続いているのではと思えるほど。しかも日が沈みかけていることも相まって、暗くなり始めてきている。
「この薄暗さに加え、方角まで見失ったとなると洒落にならないな」
時間は刻一刻と争う。
焦りと不安が次第に混ざり、混乱してしまうだろう。
それは一般人であれば、だが。
木々の隙間から、微か、ほんの僅かの光が見えたのを俺は見逃さなかった。
俺は視力もすごいようで、あちらで鳥目というようなものであったにも拘らず、こちらでは夜ですら見えていた。
目印がはっきり分かったら後は簡単だ。
足に力を思い切り込めると、バネの反動を利用し、一気に水平に飛ぶ。
障害となってしまう木々にはすまないと思いつつも、薙ぎ倒す。
休んでいたらしき鳥たちや、飛行するエネミー達が一斉に何事かと飛び立つ。
静かになっていた森にいた住民が喧騒に包まれる。
距離が縮んだこともあり、明かりがはっきり見えるようになった。
「それだけではなかろう」
浮いていたタクミがいつの間にか横に来ていた。
「え」
「これだけエネミーどもを騒がせたのだ。何かあったと慌てるだろう?」
あー。頭抱えてしまった。それでも、歩は止めないが。
そして、嬉しくない歓迎を受けた。
*
「キサマ、なぜここにきた。モリガサワガシイノハ、キサマガヤッタノカ」
はい。明かりの元は、グロン族の村でした。
俺とタクミを上から下まで見られる。嫌だなと思いつつ、木々を倒し、エネミー達を叩き起してしまった事を謝罪した。
「ジ・ドンシ・ザ、キケンデス!」
「ツ・ギムグ・ザゲ、シズカニデキンノカ?」
その声を聞いたグロン達が、一斉に後ろを振り向き、道を開け、頭を下げた。
「…ここの長の様だな」
「「ジ」の階級って…!」
階級「ジ」。それはジ・ツ・ゲ・ゲンと称号序列のあるグロンの中でもかなりの力を持つとされるグロンにつけられる称号。
「このような辺鄙な場所に何の用でしょうか?「センシ」殿」
流暢だな。と最初の感想だったが、周りが途端に騒がしくなる。
「センシ?!」
「コノ ニンゲンガ?!」
「ショウシ!」
ジのザ(上位の長)が居ると言うのにざわつく。
「ウルサイゾ!この・・・・・ガ!」
流石長。一喝だけで静かにさせた。何を言ったかは聞かないでおこう。
「すみません。このような所にいらっしゃるとは思いもよりませんでして…。碌なもてなしが出来ないのが心苦しいのです…」
頭を深く垂れると、また周りがざわめきだす。先程とは違う意味で。
「ソンナ、オサ、オサガサゲルナンテ、ヨホドノコトダ!」
「オサガサゲルナラ…!」
「ソコノ、「ゲン」ナニ、ツッタッテイル!」
長が頭を下げたことに続いてその場にいた他のグロン達も倣う。
「ちょ、ちょっと、頭を上げてください!」
自分とタクミ以外が頭を地に付けている状況。とりあえず、神殿に行きたいと話すため、長以外のグロンは元に戻って貰った。
*
「森を荒らした訳では無いと言うことでよろしいですか」
「まあ、あのまま森の中にいたら窒息していたから…」
今は、長であるドンシさんと共に、俺が突き破って飛んできた森の入口で検分していた。
倒木が多いが、そこはまあ、俺が青い鎧の「纏」をしていた所為だと説明し、旅の目的も話す。
「そうでしたか…それならば、神殿にたどり着けるでしょう」
は?今聞き捨てならない様な台詞が
「え、ここの氏族が神殿を支えてるんじゃないのか?てか、たどり着けるだろうって、普通じゃ行けないのか?!」
ドンシさん曰く、神殿は日中晴れていればここからでも十分見えるそうだが、鎮座している場所まで陸地だけで大体10キロメートル以上あると言う。海を挟んでいるとはいえ、干潮になれば海を歩いて渡れるそう。その道も神殿のある島よりは短いが、結構な距離があると。
うわぁ…早々に嫌になった。
しかも、潮の動きも早いらしく、大体のグロン達は船で移動する方が楽らしい。荷物も徒歩より持てるからとか。
検分を終え、集落に戻った時に、早速明日行きましょうと発言するタクミに視線が集まる。
そして、殺到するツ、ゲのグロン達。
口々に言いたいことを言うものだから、頭が混乱する。
しかし、みんな共通して言えることはただ一つ。
「俺と、手合せしてみたいのか?」
そう。「センシ」としてドンシが認めたが故、「纏」有り無しの差はあるものの死なない程度に戦ってみたいと言う。
俺、こちら側に来て数か月。体力無しからやっと運動できるようになったかそこらなのだが、そこはさすが戦闘民族。それは関係ないらしい。強いなら証明にもなり、弱いなら敗北から何か学べばいい。
そういう掟らしい。
うへぁ…絶対筋肉痛とかになるコースだ。タクミも鍛えてもらいなさい。棍を使いこなせていないのならば、むしろ実戦経験をもっと沢山積み、慣れなさい。と、嬉しそうな気がした。




