緑の森
「青くなった!」
と同時に死角から数匹のエネミーが同時に牙を光らせてきたため、振り向きざまに拳を叩きこむ。
飛んで行くエネミーだが、ダメージがあまり通っていた様に見えない。
「殴るのが弱くなってる?」
タクミはスッと細めたチベットスナギツネの様な目で俺を睨む。
「忠告しておいた筈ですが」
「なにそれ、俺聞いて無い!」
水は形が変わりやすい。燃える物と燃やす物があれば大体安定する炎とは違う。
「形が変わる?」
待て。それって、もしや。
飛ばしたエネミーが戻って来たことに気付かず、背後から不意打ちを食らう。しかし、その感触は少し違った。
自分自身が歪んだように感じたのだ。
はぁ!?と叫びたくなるも、波の様に攻撃が来る。
枝が弾かれたのか、遠くから飛んできた。咄嗟にそれを掴むと、枝が、棍に変わる。
「不思議なこと起きすぎだろ!」
叫びながら、棍を振り回すと、ただ殴るよりも明らかに多いダメージを与えられていることがはっきりわかった。
そしてそのまま、棍を振り回し続け、関所内にいたエネミーを全て撃破した。
*
息が上がってしまった。
赤い時の剣とはまた取り扱い方が変わるもので、慣れない。
「何でだ」
剣の時は少ししたら馴染んだと言うのにもかかわらず、馴染まない。
だから、何故だ。という事になる。
それよりも、エネミーの死骸だらけのこの場所から一刻も早く出たい。関所ということで造りは堅牢。それのせいで、空気は循環せず、滞るのみ。血や死肉の匂いが溜まる。
王都の地下の下水に二日いて平気なのは空気の流れはあったし、恐らく鎧の炎で臭いの成分自体を焼いて消していたのかもしれない。
「壁に穴をあければいいのでは?」
それは俺も考えた。だが、流石はと言うべきか。堅い。殴ろうものなら骨を折るだろう。焔の魔神に折られた右腕が痛むように思えた。
ふと、目が手に持つ棍に向く。
そして、棍を左に持ち替え、壁に向けて突く。
粉塵を上げ散る壁。外は風が強いのか、あっという間に流れていく。
「すっご」
そこから見えた景色は、緑の地平線。何も遮るものは関所から先無いように思える位の草原。
「この先にいますね」
誰が、と言いたかったが無理だろう。
一段と強い風に煽られ、関所から落ちた。
本土と西ではこんなに高低差があるのかと思うほどの落下。
地面が見えた次の瞬間、叩きつけられたが、なぜか無事で済んだ。
「…まただ」
普通なら死亡してもおかしくないほどの高さになる場所から落ちた。それなのに生きている。鎧のおかげもあるかもしれないが、それでも万能ではないから無傷で済むはずがない。だが現実は無傷。
もしかすると、エネミーに不意を突かれたときの感触は間違いではないのか、と思う。
それがもし本当ならば、
「人間やめた事になる…」
「貴方はすでにこの星での「人間」の枠を超えてしまっているのですよ。それに今更理解したのですか」
いつの間にか真横に来ていたタクミにはっきり言われてしまった。
「もう少しオブラートに包んだ言い方して欲しいよ」
それよりも、と話を切り替えられてしまった。
「こちらは日が沈むのが早いようで、早く森を出なければなりません」
「なんで」
当然と言えば当然のことをすっかり忘れていた。
「夜の森で窒息したいのですか?」
タクミにそう言われるまで。




