都市6
※すこし流血表現あり
音の元は、イユイだった。
しかし、通り過ぎる時に血の匂いがした。
何故だ。イユイは殺人に興味はないと言っていたが、本当かどうかも怪しい。今になってそんなことを思う。
音が階段を上って上に消えるのを確認すると、潜んでいた牢を出て、イユイの来た方、奥の方へ走る。
*
奥にあったものは、拉致犯達だったものだが、おかしい物がある。
「龍の…鱗?」
「東」でタクヤに見せてもらい、龍神の一部だと聞いたものと同じような破片がそこかしこに散らばっていた。
「……まさか」
最悪の事態になってしまったのかもしれないと、焦る。
通路を疾走し、急いで階段を駆け上がる。
地上に出ると、地下にあった様に、先程縛り上げた奴らが物言わぬ骸へと変わり果てた悲惨な光景が広がっていた。
その中心に立っている影に叫ぶ。
「あんた、イユイか!?」
影が振り向く。
その顔は、先日みたイユイの顔だった。
「変身!」
顔を見た瞬間に叫んでいた。
そして一飛びで距離を詰め、殴り掛かる。
『惜しい。ボクはあの子じゃない。でも、君、大丈夫?』
イユイに似た様に見えた顔の「魔神」は、薄い光の膜を纏い、俺の拳を防いだ。
光の膜に右手から噴き出た血が飛び散る。
「あああああああ!」
骨が砕ける音がした。恐らく指から尺骨と橈骨、それに上腕骨までいっただろう。動かすことができなくなり、強い痛みしか感じなくなっていた。
『痛いんだ。そうか。それが「痛み」なんだね。ボクは感じたことが無いから解ってあげられない』
膜に跳ね返され、地面を転がっていた俺に近寄ってくる。
すっと手のひらを差し出してきたのを見、危険だと咄嗟に横に転がる。
今居た場所から突然火が噴き出る。
「な…」
絶句しかない。そこには可燃物は無かったはず。瞬く間に鎮火した場所は、陥没していた。
『今のを避けるかぁ。流石、龍神の半分の状態を叩きのめしただけあるね。でもね』
すっと近づいてくる。
『ボクにはどう足搔いても敵わないよ』
にっこり笑う魔神。対し俺は痛みと現実によって絶望に近い感情が出てくる。
『聖で刃向おうなんて甘いんだよ。ボクは彼女の力じゃなきゃ傷一つ付けられない』
と、言って去ろうとする魔神に、追いつきたいと思った。しかし現在進行形で距離は離れていき、しかも俺は右腕が使い物にならない。近くにあった拉致犯一派のナイフを手に取る。瞬時に形状が変化し、棍の様になった。
利き腕ではない左で狙いが甘いままだが、奴に向けて投げる。
当たる前に、右腕を防いだ膜によって棍が砕けた。
そうそう。
と言って振り向く魔神。
『あの君と同じ暴れん坊君の龍神は、今の君になら探せるかもしれないね』
そのまま去っていく。
「待、て…」
出血と痛みと絶望とにより意識が遠のく。
*
騒がしくなった周りと、日の光によって意識が戻った。
「今の俺になら探せられる…?」
目が覚めると、そこにソウジとアラタが心配そうに見ていた。意識を失った時に倒れてしまったらしく仰向けになっており、窓から入った光が顔に当たっていた。
「大丈夫か?」
それにしても、どうしたら一晩でこんな惨状を作れるのか。
ソウジに溜息が零れている。
仕方ないか。
壊滅した物の修復などの費用を請け負うと言っていたが、これほどまでになるとは思っていなかったのだろう。俺もそう思っていたが。
「それよりも、今言ったことは何だ?」
眉をひそめ、訊いてくるソウジ。
ふと自分の手や胴体は纏をする前の服装に戻っていた。
「纏が関係あるのか?」
考えに没頭していく。
「まとい、とやらはまず聞かないで置くが、この状態になった訳と経緯を話せるか?」
意識が途切れる前までの出来事をできるだけ話す。
「また「魔神」か。何件目だ。ガセやデマが混じっているとはいえ昨日今日で一気に増えたぞ」
そんなことになっていたのか。推測だが、あの鉄壁の魔神が流したのか。それとも、全て奴一人によるものなのか。また頭がこんがらがってくる。
叫びたいが、右腕に走った痛みに呻く。
「治療ができる者を呼んでいるが到着にまだしばらく時間がかかるそうだ。それまでは我慢してもらう他ないが…」
表情が暗くなる。
「すまない。本来なら龍神…彼を探すことに専念したいだろうが…更に厄介ごとに巻き込んでしまったようで、本当にすまないと思う。今更、言い訳にしかならないが」
そんなことない。
そう言って、俺は確かにここに龍神はいたのだと言う。
証拠に、龍神自身の鱗が結構な量の破片が地下にあった事を告げる。
丁度そこに治療技術を持つ人物が来たため話は一旦切り上げる事になった。




