都市3
黒いが、前回あいまみえた奴とは若干異なり、全てが黒という訳ではなく、黒以外の色もある。
「魔神なんて懐かしい呼び方するんだ。ああ。下っ端が言っていた「異端児」とは君の事か」
ふーんとか何か言いながら俺のことを頭から足先まで見る。
「気色が悪いなんて思ってるでしょう。気にしないでください」
「いや気になるし」
「些事たることですよ。本当に。あら、既に三つも属性を手にしているのですか。今回はやや速いですね」
「なんの話だ」
「彼らから何も話を聞いていないと見える。まさに「使い捨ての道具」扱いですか。なんともまあ嘆かわしい」
「ほんと、なんなんだ」
「それはこちらの台詞ですよ。器にしてただ世界の柱の言いなりになるだけしか能のない粒が。それよりも、今回のこの世界の崩落までの時間はそれほど長くないのでしょうか?そうですね。大黒柱を壊されてからまだ百年と経っていないはずですから…」
勝手に話し、勝手に考えに耽る。前回とずいぶん違う。戸惑うぞ、これ。アラタはもう早々に意識を手放すことを決めたらしい。
それよりも、なんだ。「世界の崩落」?「大黒柱」?
はぁとため息を吐く。
「本当に今回の器に何も説明していないと見える。つまらないですよ、本当。あの欠片達何してるのですか…」
呆れられた。
「貴方、「纏」やってみてください」
「は!?」
「だから、「纏」です。できるはずです。知っていますよ。器は今までにありましたから。私は殺戮の趣味はありませんよ。そのようなつまらない事よりも、「器」の方に興味があるのです」
―何の用だ。
「あら。今回はずいぶん遅いお出ましですね、ウサギ」
―何の用だと聞いているのはこっちだ。
「相変わらず口の悪い。貴方が「表」に出られれば話は早いのですが、そのようではまだ無理がありますね」
―うるせえ。文句言うな。この狂戦士め。
「貴方に言われる筋合いはない筈ですが。今回は褒め言葉としてとっておきましょう」
腕が勝手に動く。何時の間に抜いた槍を魔神に向ける。
「そのようにするのですか…」
がっかりです。しかし、今現在の成長を見せてもらいましょう。
そう口が動くと、火蓋が切られた。
*
また魔神との戦闘になった。今回と前回の違いは「俺が意識を持ってウサギの戦闘を見て動いている」ということ。
「なぁ、あんた」
「イユイという個体名を持っているのです。ウサギには呼ばれないですが」
「イユイ…訊きたいことが幾つかあるのだが」
「いいでしょう。お答えしますよ、「器」の「異端児」である貴方のであるのならば」
今は紅い鎧で、殴り合っている最中。
「大黒柱?て何の事だ」
「それは大きな柱、家一軒支える大事な柱の事…」
「そうじゃなくて」
「この世界の大黒柱とは。ですか。それはですね、この惑星の大地を支え、大陸の分断を起こさせない為に存在するものです」
大黒柱は大昔建てられたもので、その柱の為に贄となった人間の数は数えたくなくなるほどの数。
その捧げられた人間の魂を一纏めに繋げ、織り上げた物です。
その際、人間の身体の処理に走らされたのは良くも悪くも、思い出です。
「に、え?」
「その柱はその意味を語り継がず、伝えなかった人間により壊されましたよ。我らが煽ったわけではないですので、そこのところは考えてください。寧ろ、壊れるのを止めようとしました。しかし、そこで邪魔が入ったのです」
それが、貴方の中に入っている「魂の欠片」しかないウサギとヒカリです。
「それでか。前の魔神があんなこと言っていたのは。滅ぼしたはずなのにって」
そうです。
「しかし、彼らは人間から英雄視されていまして、そこが厄介なのです。所詮人間、と言うべきですか。我ら魔神を悪視し始めたのです。柱を壊そうと人間を煽動させた元凶は、彼らが英雄視している人物なのです」
―いい加減にしろ。
「いいえ。やめませんよ。あなた方が、今回の器に本来の役目を教えるまで付け回す予定ですよ」
さらっとストーカー宣言。やめてくれ。
「なにもとって殺そうなど考えてはおりませんよ。そんなことをしたら、下っ端と同じになってしまいますし」
それに、殴り合いができなくなってしまうじゃないですか。
「まさに狂戦士」
「貴方も同じような事を仰るのですか。…まぁ、それも貴方からの褒め言葉ととっておきましょう」
笑顔でそんなことを言うが、若干、俺というかウサギが押され始めた。
それに対し、笑みを更に深めるかと思ったが、逆に苦い顔をされた。
すっとイユイが攻撃を止める。
ウサギも同時に止める。
しかし、ウサギが行っていた戦闘は俺の身体に極度の負担をかける。つまり、
「まだ、不完全ということですか。残りの属性を無事に受け入れられるでしょうか?」
膝を着き、立てなくなった俺に視線を合わせ、イユイは疑問と不安をぶつける。
―受け入れられるかどうかじゃない。受け入れられなければいけないんだ。
「また。無茶ぶりをさせるのですか。前回の器と同じ末路を辿っても知らないですよ」
―知った事か。俺達はただ…―
「そう言って、懐柔するのですか。「世界を守る」。そんなこと、一介の人間にできるわけないじゃないですか。世界にある魂の数と、一つの魂。釣り合うはずはない」
―だから全属性と
「無理に適合させて、壊れたのを忘れたのですか。一千三十年ほど前の事を」
私は忘れませんよ。
次に会った時に改善されていなければ、私が斬りますから。覚悟してください。
そう言い残して、消えた。
と、同時に劇の終了の鐘が鳴る。
「……あ…」
アラタはいつからか意識を取り戻していたらしく、頭から煙を吐いていた。多分会話に付いて行こうとして、許容できる範囲を超えたのだろう。
出口、訊けばよかった。
今更、そんな考えに至っていた。




