都市2
大事だというチケットをしょっちゅう無くしてしまう少年、アラタ。
引っ越してしまった友人と再会するための場所に、劇を行う場所を選んだという。
引っ越したとしても簡単なことではない。こちら側なら特にだ。電子機器などの文明はまだ発展していないようだし、街から一歩外に出るとエネミーがいる。生死が係わる。無事の確認も碌に出来ない。
それでも会えると、会おうと約束をした。なら、果たすべきだろう。「次」があるか怪しいから。
*
アラタと会って少し歩くと、広場が見えた。
色々な物が売ってあり、それを眺める者、購入する者、呼子をする者で賑わっていた。
「王都名物、カージ肉の燻製あるよー!」
「トーンの腸詰肉はいらんかー?」
「トトーチの実の粉焼、美味いぞー!」
騒がしいが、嫌にならない騒がしさだ。それに、何所か見た事ある様な料理が多い気がするが気のせいだろう。
それらは後でゆっくり見ようと考えると、
「おねーちゃん、キビトー二本頂戴。セーウユ焼きで」
「お兄ちゃん、リョリョの水頂戴。大きさ?うーん」
なんて買い物してるんだ。どう見ても俺の知っている見た目の食べ物ばかり選んでる。偶然か?少し焦る。セーウユ焼きキビトーはとても香ばしい匂いをしている。
「仕方ない」
アラタにおごってもらう訳にはいかないから、冷えた懐を無理して出す。
「入市税、たくさん取られちゃってるでしょ?本当に大丈夫なの?」
心配された。
確かにアラタの言う通り、一晩の宿代すら怪しい状態まで減った懐は防御力など欠片すら無い。王都内で野宿も嫌だが、努力よりも金銭で解決されてしまうこの場所。仕方ないの一蹴。
「なら、僕の泊まっている部屋に来ればいいよ」
「いいのか?」
「ソウジが来るまで一人でさ、寂しかったんだ。来てくれるとうれしい」
彼の家の近くにある宿を待合に選んでいると。それほど会うのが楽しみにしているのだろう。
そろそろ劇が始まるだろう時間になる。一番高い塔から鐘の音が響く。音と同時に観に行くだろう人たちが慌てて広場から出ていく。
「そろそろか。行こうか、アラタ?」
「うん」
見つかればいいのだが。
アラタの友人は、とにかくいつも眠そうな顔をして、しかししっかりするときははっきりとした表情になるという。身長は多分アラタに近いくらいだろう。超が付くほどの猫っ毛でくるんと至る所跳ね返っていると思う。アラタに、「ソウジ」という友人の特徴を聞いていた。
劇の入場時にそれらしき人物を見た、気がした。
一瞬しか見えなかったため、確証はない。
しかし会場に入ったというならまたあとで合える可能性はあるため、言おうか迷った。
そんなことよりも人の波に流されたアラタを探し出す方が優先になってしまった事により忘れてしまった。
*
「ごめんなさい…」
「いいって…」
迷子になりました。
この劇の会場は、元々使われていた大型船を改造し造られたもの。未だ手付かず部分が大半なので現役時代のままが多いのだ。その、多分船底ら辺だろう。通路が入り組んでいる場所まで流された。
エンジンらしきパーツの部品がいくつも並んである。その隙間を二人で進む。
段々奥に行っている気がするが既にどちらから来たかなど判らなくなっていたので、気にしない。
カタン。
行く方向から小さいが物音がした。
「アラタ、少し待って。物音が聞こえた。何かいるかもしれない」
「え?聞こえたの?僕は何も聞こえなかったけど…」
じっと待って物音がした先を見る。わずかな光が漏れている場所が見えた。
「様子を見てくるから…」
「付いてく。一人は怖いから」
手をしっかり掴まれ、静かにしててねと言い、ゆっくりと近づく。
上の階に上がれるだろう階段の近くの部屋にその光源はあった。
その部屋の扉に書かれていた文字は、
「最下層貨物室?」
こんな古い言葉読めるんだ、とアラタに感心されたが、貨物室まで何の用があるのか。
しかもこの一番奥と思える場所に。
少しだけ開いていた扉から慎重に中を覗く。
「あっ!」
そこに見えた後姿に声を上げてしまったアラタ。急いで手で口を塞ぐも遅い。
その人物が振り向く。
「ソウジ……?」
アラタが呟くとその友達らしき人物が、
「アラタか…?」
眠たそうな顔に癖毛。アラタが言っていた特徴そのまま。
「ソウジも迷ったのか?僕たちも迷ったんだ。この場所結構広いから…」
嬉しそうなアラタは、ソウジの近くに行く。
「まっ」
待って。そう叫んだはず。凄い殺気と風圧、それにこの感覚は、前にも感じた事のある物。
「ソウ、ジ?」
訳が解らないだろう。俺もそうだ。
目の前に会いたかった人物がいた。それがいきなり別人のようになってしまうのは、頭が追いつかなくなってしまう。命のやり取りの最中にたとえ一瞬でも頭が働らなくなるのは致命的だ。
「前回」はウサギに助けてもらってなんとかなった。
そう。目の前にいる正体は。
「……………魔神」




