寄道
やっと先に行ってしまっていた龍神に追いついた。
「遅いですよ。何していたのですか。「使い」あろう者が、多寡が此の我の歩の速度に追いつかぬとは…情けない」
流石に、空飛ばれたら追いつけないが、一応結構全力で走ってきたんだぞ。息を整えつつ、龍神の隣に並ぶ。
息が整ってきたときに、次はこのまま本土を西に向かうつもりだという話をすると、
「白のもとへ行くのですか。確かに、今のまま北の玄に赴いた所で、視線だけで殺されるくらいの実力差はありますからね」
なにさらっと物騒なこと言ってるの。
そんな視線を読み取ったのか、
「我に敵わなかったのに、我の師の次点である玄に敵うと思っているのか。双の子の力が無ければ我で貴様の息の根を止めていたのですよ」
更に物騒なことを…。
物騒すぎる会話をした後は、進むしかない。
だが、そう簡単にはいかない。
南から来たときとは違うルートで進んでいるので、道がわからない。
日中は太陽があるから迷わず進めるが沈んだらどうにもならない。
そんなわけで、遅々としか進まないことに龍は苛立ちを感じ始めている。
「何故我が人の仔の造った道なぞを通らねばならぬのか」
「いやそれ、あんたが「人の形で付いていく」って言っていたじゃないか。忘れたのか」
「そのようなもの、覚えがないぞ」
おい。あんた神様だろう。そんな無責任なこと言っていいのかよ。
…訂正。自分の領地の民を切り捨ててたな。無慈悲過ぎだと思ったな、原因は自業自得だったが。
荒れ地をぽちぽち歩いていると、エネミーが相いも変わらず襲う。
「纏」にするほどの相手はいないため、槍で軽くいなす程度で済ます。
海では恐ろしく思えるほどの統率力によって襲わないようになっていたが、陸ではそんなことは無いらしい。情報の伝達能力に海と陸で差があるのだろうか。
―戦闘中に考え事とは、ずいぶん余裕になってきたじゃあないか。
あ、いや、そんなことはない。毎日朝に龍に「纏」状態で翻弄されるように縛かれて、昼間はエネミーに遭遇したら戦闘、夜は就寝時にウサギかホーリーに稽古を強制的にされたお蔭ですって。
…休まる時間が一切ないのが辛いが。
―何か、言ったか?
怖い。ウサギの声にどす黒さが乗って聞こえた。
あれから、何度か試すようにウサギが身体を動かすと言っていたことがある。その度から次第にウサギの声限定的だがはっきり聞こえてくるようになった。ヒカリの声は、ぼんやりとしか感じられない。
そんなことを考えていると、あっという間に襲ってきた、岩と泥のようなものの熊数十匹倒していた。
最近そうだ。段々だが、戦闘中の意識がどこか少し遠いところにあり、ゆっくり動いて見える。
倒した泥熊はある程度解体し、必要な分のみ回収して、あとは土に還す。
そうしなさい、と龍が言っていたからそうするようにした。神様のお言葉だしね。
そうこうしているうちに、何やらでかい建造物らしきものが見え始めた。
あれが、王都と呼ばれる、忌まわしき物です。避けて行きましょう。なんて言い出す龍は本当に嫌味だけでなく、本心本能から嫌悪する対象なのだろう。
神様が嫌いな理由が何かあるのか。
気になってしょうがないが、遠回りすることになりそうだ。




