船 2
船出の日。
村人に見送られながら島を出た。
船に乗る前に鳥から「お告げ」みたいなものにより鳥の形をしたぬいぐるみを購入する羽目になった。鳥曰く、他の領地神域に行っても生存が確認できるようにとの。心配性なのか。
自分の荷物の半分を占める槍は神具ということになるらしい。
同船したおばあちゃんの話だから半分怪しいが。
甲板上に出てみると程よい潮風と太陽光が心地よかった。
「仕事に就いて稼いでから、国外とは贅沢言わないから旅行に行こうと思っていたんだっけ…」
謎の黄昏に入ってしまったせいで一瞬反応が周りより遅くなってしまった。
船内が一斉にして赤く染まり、警戒の鐘を鳴らす。
…エネミーがこの貨物船に近付いてきたのだ。
*
エネミーが接近したという鐘が鳴ってもすぐに戦闘という訳ではない。
そうなることはそうはない。水の抵抗により多少は発見から作戦を立てる時間はあるが、例外もある。グロン民族同士でも即席のパーティで連携を完璧にこなすことのできる者はほんの一握りも居ないようで、どういう武器を使うか、どういう戦闘法が得意などは必ず話し合い、戦闘の持ち場を確定させる。
自分は槍使いということで前衛部隊に含まれた。
エネミーは進路変更せずそのまま船に向かっているという館内放送がかかる。
騒然とし始める会議室。
前衛部隊に振られたものが一番に飛び出して行った。
障害物をすべて撤去した甲板に出ると、エネミーの姿がよく見えた。
鮫のような鯱のような形に、光の反射が一切ない黒色で、100メートルはゆうにある大きさだ。
すでに到着していた者が奮戦しているものの、その巨体には掠り傷程度しかなっていないようで致命傷は与えられていないようだ。
俺の姿に気が付いた一人が何かを叫んでいる様だが、波や戦闘の轟音によりうまく聞こえない。
投擲しろなど叫んでいる気がしたが、あいにく俺は巨体に致命傷を与えられるほどの腕力はまだ回復しきっていない。
この槍は、質量保存の法則を無視し、武器防具ならばなんにでもなる。
そんなわけで、物は試しだ。
「変形するのかな。変身、なんて」
など呟いて、肩に担ぎ上げた。そう。出来心だった。
幼少からヒーローものを観ていたからか、多分。
1秒あるかないかで槍は柔らかく変形し、俺の全身に薄く、隙間なく広がり覆った。
甲板上にいた全員に視線を向けられた。
だって、槍使いということで配置していた奴がいきなり変な格好に変化したのだから。
「ええい、ままよ!」
こうなればやけくそだ。
頭には特徴的な二股の角がある。胴体には甲冑に似ている装甲がしっかりある。ちゃんと守られるところは守られている。安心していける。
どこに?足は行き先に向いている。シャチサメ(暫定)にだ。
足を踏ん張り甲板を強く蹴る。一瞬にして距離が詰まる。勢いをつけすぎたせいで頭突きしてしまった。角がシャチサメから抜け、空中に離される。角が刺さったらしいところからは赤黒い鮮血がドロドロと出てきていた。
「気色悪!」
甲板上の者はただ俺の姿に呆然とし、空を見上げていた。
「アノスガタハヤハリ…コノクニニハイタノカ「センシ」…」
グロン本来の言語なのか、妙に聞き取りにくい言葉でこの姿のことを見ていた。
「戦士?」
シャチサメが悲鳴を上げる。驚異的な轟音で、船にはめ込まれていたガラスが甲板一面に、破片となって飛び散った。
重力にひかれ落下した俺はそのガラスだらけの上に着地した。
足に刺さって痛いのなんの。
右腕の一部装甲を大剣のイメージに変化させる。出来上がった大剣は、槍と同様の装飾品が彩られていた。
剣を肩に乗せ先程より高く飛ぶ。
とどめの一撃の衝撃は、船が転覆してしまわないか心配になるほどの波を立て、消えた。
シャチサメの姿はなくなっていた。